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続編
03 カミングアウトをされました
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そろそろいい時間になってきて、切り上げるかって頃に店から宝条さんがやってきた。
「みんな、今日はありがとう。今日はもう終わりにしてくれていいから、各自店に戻って着替えてきてくれ」
「お疲れ様でしたー」
バイトの連中がぞろぞろと店に向かう。俺も華鈴の後について店に戻ろうとしたところ、宝条さんと目が合った。
「……なんすか」
睨むように宝条さんに視線を返す。すると宝条さんはちらりと華鈴の姿を見てから、俺に向き直る。そして声量を少し上げて爆弾を落とす。
「僕のお下がりの着心地はどうだったかなと思ってね」
間。しばしの間。
俺は言葉を失って。華鈴は──言葉の意味を考えて。おおきな瞳がまん丸に見開かれて、俺と宝条さんを交互に見やる。その言葉が言外にさすことは、つまり。
バラすことはないとタカをくくっていた。──こいつ、こんなタイミングで、バラしやがった!
「先輩、宝条さん、あの……? 僕のお下がりって、えっと……」
「言葉の通りだよ。去年僕はあの格好で仮装をして、お菓子を配っていたんだ」
「……それじゃあ、つまり。私が去年メールしたりデートしたりしたカボチャさんは、」
「僕だよ。いままで黙っていてすまない。疑わしいなら、あの頃のメールを見せてもいい」
「……っ!」
みるみるうちに、華鈴の頬が赤く染まっていく。わなわなと震えるその顔は、恥ずかしさからか宝条さんのことを直視できていない。
「お、おい、華鈴……」
「わ、わた、私……ちょっとお手洗いに!」
「あっ、待てバカ、そっちにトイレはねぇ! おい!!」
華鈴を追いかける前に、キッと宝条さんを睨む。
「何でバラした!?」
「もともと、そろそろ言おうと思っていたさ。君がいたせいで計画は台無しだったが」
「こっちこそあんたのせいでめちゃくちゃだ! まじで覚えてろ!」
今は喧嘩している場合じゃない。華鈴を追わなくては。宝条さんに捨て台詞を吐いた後、俺は華鈴が向かった方に一目散に駆けていった。
見つからないかも、という心配は杞憂だった。あいつは仕事着──魔女っ子のコスプレのままで駅前の公園のベンチに座り込んでいる。……そういえば俺もカボチャ頭のままじゃねぇか。今更とったところで荷物になるから被りっぱなしにするけど。さすがに寒くなってきてるのに、こんなところにいたら風邪をひく。とりあえず、自分でつけていたマントを華鈴の肩にかけた。
「カボっ……、あ、せ、先輩」
「俺で悪かったな」
「違……その、ごめんなさい」
俺は華鈴の横にどさりと腰掛けた。華鈴は文句も何も言わず、しばらくうつむいたままモジモジと指をいじっている。
「……先輩は、」
「ん?」
「知ってたんですか。カボチャさんが宝条さんだったって」
「世界中で気づいてなかったのはお前くらいだと思うよ。俺も、ついでに桃山だって知ってる。しかも去年から」
「……そう、ですか」
こいつ、本当に今気づいたんだな、と肘をつきながら観察する。ぎゅっと固く閉じた唇。伏したまぶた。頬はまだ赤い。
“でも、もしカボチャさんが戻ってきてくれたとしたら、私にもどうなるかわからないです。気持ちが戻ってくるのか、それとも何も思わないのか”
──それは、どうなった顔なの。
カボチャ頭は戻ってきた。華鈴が想像してた感じとは違っただろうが、こんなに近くに恋い焦がれた相手がいたのだ。ギリ、と奥歯を噛み締めた。少なくとも、何とも思っていない顔じゃない。
「……私、宝条さんと、いままでみたいにお話ししたりできる自信がありません。だって、恥ずかしいです。去年、私、あんなに猛アタックして」
恥ずかしさから顔が赤いのか。華鈴は単純だから、こんなことで簡単に宝条さんのことや去年のカボチャ頭との思い出で頭がいっぱいになってしまう。宝条さんの狙いは多分これだったのだ。
「先輩、私、どうしたら。顔が熱くて、胸が痛いです。私、宝条さんのこと、もしかして」
「気のせいだ!」
きっぱりと言い放つ。単純なこいつの頭の思考を、そこにたどり着く前に止めなくては。
「お前は今、黒歴史を思わぬ人に知られているとわかって恥ずかしさのあまり動悸息切れが起こっているだけだ。それは恋じゃない。いいか、恋じゃない」
「く、黒歴史!? 人の初恋をなんだと思ってるんですか!?」
何が初恋だ。俺からしたら、あれだって恋とは認めたくない。こいつにはわからないんだ。片思いの相手をつなぎとめるために必死になるような、こんなみっともない恋もあるってことが。楽しいだけが恋じゃないってことが。
「華鈴、好きだ。俺はお前が誰を好きになろうと、好きだ。お前のちょっとアホなとことか、かわいいとことか。全部を知って、それをひっくるめて好きなんだよ」
「……っ!」
「お前はカボチャ頭のことも、宝条さんのことも何も知らないじゃんか。だからそれは恋じゃない」
「──っ、ひどい。もういいです! なんでわかってくれないんですか先輩のバカ!」
「ちょ、人の話を最後まで……」
「嫌いです! 追ってこないで!」
嫌い、という言葉がグサリと突き刺さる。完全に拒絶され、追いかけることもままならない。華鈴は魔女っ子衣装のまま、駆け出してしまった。
どうして俺はいつもこうなんだ。好きな気持ちが空回りして、うまくいかない。くそ、くそ、くそ! あと一押し? どこがだよ。宝条さん──もとい、カボチャ頭のせいでこんなに簡単に揺らぐくせに。
ため息を吐く。こんなものをいつまでも被っていたら頭がおかしくなりそうだし、俺だけでも店に戻って着替えよう。連れて帰れなかったこと、宝条さんになんか言われるだろうな。そう考えたらまたため息が出た。
* * *
「てっきり連れて帰ってくるものだと思ったけどな」
ほらきた。店のバックヤードに戻った俺を見て一言、宝条さんは言った。
「おかげさまで逃げられました」
「情けないな」
「誰のせいだと思ってんすか」
「僕のせいとでも?」
ぐ、と喉がなる。原因はこの人にあるかもしれないが、逃げられたのは俺のせいだ。
「正体バラして、どうするつもりだったんですか」
「君に関係あるか?」
「大アリですね。一応ライバルなんで」
「ほー、認めてくれているのか、ライバルとして」
認めたくはないが、同じ相手を思っているのだ。『カボチャ頭』は絶対にライバルと認めたくないけど、『宝条さん』は別だ。
「だが、僕もライバルに手の内をあっさり見せるほどバカじゃないよ。さぁ、着替えたならさっさと帰れ。明日もよろしく」
「明日もあるんすか?」
「ハロウィンまで毎日だ。もちろんシフトは組むよ。さ、僕も締め作業があるから帰った帰った」
背中をぐいぐいと押される。言われなくても帰りますよ、と悪態をつき、バックヤードを抜けて店から出た。……明日もあれ着るのか。嫌すぎる。というか、マント、華鈴に貸しっぱなしだ。さすがに私服にカボチャ頭オンリーはきついんだけど。……そうなったら、マジで頼み込んで裏方やらせてもらおう、と心に決めた。
* * *
「みんな、今日はありがとう。今日はもう終わりにしてくれていいから、各自店に戻って着替えてきてくれ」
「お疲れ様でしたー」
バイトの連中がぞろぞろと店に向かう。俺も華鈴の後について店に戻ろうとしたところ、宝条さんと目が合った。
「……なんすか」
睨むように宝条さんに視線を返す。すると宝条さんはちらりと華鈴の姿を見てから、俺に向き直る。そして声量を少し上げて爆弾を落とす。
「僕のお下がりの着心地はどうだったかなと思ってね」
間。しばしの間。
俺は言葉を失って。華鈴は──言葉の意味を考えて。おおきな瞳がまん丸に見開かれて、俺と宝条さんを交互に見やる。その言葉が言外にさすことは、つまり。
バラすことはないとタカをくくっていた。──こいつ、こんなタイミングで、バラしやがった!
「先輩、宝条さん、あの……? 僕のお下がりって、えっと……」
「言葉の通りだよ。去年僕はあの格好で仮装をして、お菓子を配っていたんだ」
「……それじゃあ、つまり。私が去年メールしたりデートしたりしたカボチャさんは、」
「僕だよ。いままで黙っていてすまない。疑わしいなら、あの頃のメールを見せてもいい」
「……っ!」
みるみるうちに、華鈴の頬が赤く染まっていく。わなわなと震えるその顔は、恥ずかしさからか宝条さんのことを直視できていない。
「お、おい、華鈴……」
「わ、わた、私……ちょっとお手洗いに!」
「あっ、待てバカ、そっちにトイレはねぇ! おい!!」
華鈴を追いかける前に、キッと宝条さんを睨む。
「何でバラした!?」
「もともと、そろそろ言おうと思っていたさ。君がいたせいで計画は台無しだったが」
「こっちこそあんたのせいでめちゃくちゃだ! まじで覚えてろ!」
今は喧嘩している場合じゃない。華鈴を追わなくては。宝条さんに捨て台詞を吐いた後、俺は華鈴が向かった方に一目散に駆けていった。
見つからないかも、という心配は杞憂だった。あいつは仕事着──魔女っ子のコスプレのままで駅前の公園のベンチに座り込んでいる。……そういえば俺もカボチャ頭のままじゃねぇか。今更とったところで荷物になるから被りっぱなしにするけど。さすがに寒くなってきてるのに、こんなところにいたら風邪をひく。とりあえず、自分でつけていたマントを華鈴の肩にかけた。
「カボっ……、あ、せ、先輩」
「俺で悪かったな」
「違……その、ごめんなさい」
俺は華鈴の横にどさりと腰掛けた。華鈴は文句も何も言わず、しばらくうつむいたままモジモジと指をいじっている。
「……先輩は、」
「ん?」
「知ってたんですか。カボチャさんが宝条さんだったって」
「世界中で気づいてなかったのはお前くらいだと思うよ。俺も、ついでに桃山だって知ってる。しかも去年から」
「……そう、ですか」
こいつ、本当に今気づいたんだな、と肘をつきながら観察する。ぎゅっと固く閉じた唇。伏したまぶた。頬はまだ赤い。
“でも、もしカボチャさんが戻ってきてくれたとしたら、私にもどうなるかわからないです。気持ちが戻ってくるのか、それとも何も思わないのか”
──それは、どうなった顔なの。
カボチャ頭は戻ってきた。華鈴が想像してた感じとは違っただろうが、こんなに近くに恋い焦がれた相手がいたのだ。ギリ、と奥歯を噛み締めた。少なくとも、何とも思っていない顔じゃない。
「……私、宝条さんと、いままでみたいにお話ししたりできる自信がありません。だって、恥ずかしいです。去年、私、あんなに猛アタックして」
恥ずかしさから顔が赤いのか。華鈴は単純だから、こんなことで簡単に宝条さんのことや去年のカボチャ頭との思い出で頭がいっぱいになってしまう。宝条さんの狙いは多分これだったのだ。
「先輩、私、どうしたら。顔が熱くて、胸が痛いです。私、宝条さんのこと、もしかして」
「気のせいだ!」
きっぱりと言い放つ。単純なこいつの頭の思考を、そこにたどり着く前に止めなくては。
「お前は今、黒歴史を思わぬ人に知られているとわかって恥ずかしさのあまり動悸息切れが起こっているだけだ。それは恋じゃない。いいか、恋じゃない」
「く、黒歴史!? 人の初恋をなんだと思ってるんですか!?」
何が初恋だ。俺からしたら、あれだって恋とは認めたくない。こいつにはわからないんだ。片思いの相手をつなぎとめるために必死になるような、こんなみっともない恋もあるってことが。楽しいだけが恋じゃないってことが。
「華鈴、好きだ。俺はお前が誰を好きになろうと、好きだ。お前のちょっとアホなとことか、かわいいとことか。全部を知って、それをひっくるめて好きなんだよ」
「……っ!」
「お前はカボチャ頭のことも、宝条さんのことも何も知らないじゃんか。だからそれは恋じゃない」
「──っ、ひどい。もういいです! なんでわかってくれないんですか先輩のバカ!」
「ちょ、人の話を最後まで……」
「嫌いです! 追ってこないで!」
嫌い、という言葉がグサリと突き刺さる。完全に拒絶され、追いかけることもままならない。華鈴は魔女っ子衣装のまま、駆け出してしまった。
どうして俺はいつもこうなんだ。好きな気持ちが空回りして、うまくいかない。くそ、くそ、くそ! あと一押し? どこがだよ。宝条さん──もとい、カボチャ頭のせいでこんなに簡単に揺らぐくせに。
ため息を吐く。こんなものをいつまでも被っていたら頭がおかしくなりそうだし、俺だけでも店に戻って着替えよう。連れて帰れなかったこと、宝条さんになんか言われるだろうな。そう考えたらまたため息が出た。
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「てっきり連れて帰ってくるものだと思ったけどな」
ほらきた。店のバックヤードに戻った俺を見て一言、宝条さんは言った。
「おかげさまで逃げられました」
「情けないな」
「誰のせいだと思ってんすか」
「僕のせいとでも?」
ぐ、と喉がなる。原因はこの人にあるかもしれないが、逃げられたのは俺のせいだ。
「正体バラして、どうするつもりだったんですか」
「君に関係あるか?」
「大アリですね。一応ライバルなんで」
「ほー、認めてくれているのか、ライバルとして」
認めたくはないが、同じ相手を思っているのだ。『カボチャ頭』は絶対にライバルと認めたくないけど、『宝条さん』は別だ。
「だが、僕もライバルに手の内をあっさり見せるほどバカじゃないよ。さぁ、着替えたならさっさと帰れ。明日もよろしく」
「明日もあるんすか?」
「ハロウィンまで毎日だ。もちろんシフトは組むよ。さ、僕も締め作業があるから帰った帰った」
背中をぐいぐいと押される。言われなくても帰りますよ、と悪態をつき、バックヤードを抜けて店から出た。……明日もあれ着るのか。嫌すぎる。というか、マント、華鈴に貸しっぱなしだ。さすがに私服にカボチャ頭オンリーはきついんだけど。……そうなったら、マジで頼み込んで裏方やらせてもらおう、と心に決めた。
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