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電波少女は俺らの姿を見て少し嬉しそうにした。その表情をちょっとかわいいとか思ってしまう感情を慌てて打ち消す。
「朝霧晃太。おかえりなさい」
「たっだいまー! って君誰なのよ?」
明るい調子で言ったのは吉田だ。人見知りしないと言うか何というか……このノリだから友達が多いんだろうな、なんて今関係ないことを考えた。
彼女の方はムッとした様子で、吉田が近づいた分だけ少し後退りした。
「……あなたじゃないわ、吉田雅信」
「何何っ? 俺のことも調査済み? 照れるなぁ」
彼女はあからさまに眉をしかめていた。なるほど、相性が悪そうだ。
「調査なんてしてない。何のこと?」
「晃太に惚れて探偵雇ったんでしょ? だから何でも知ってる」
「……探偵なんか雇わなくても、神のご加護があるから何でも分かるもの」
「あぁ、神に愛されてるんだもんね、君」
嘲笑するような吉田の言い方に、彼女の眉間の皺は一層深くなった。そろそろやめたほうがいいんじゃ……。
「君、痛いよ? 神とか何とか。晃太も付きまとわれてメーワクしてるの。わかる?」
「……」
「いい加減現実見て、ちゃんとした恋愛しなって」
彼女は何も言わない。ただ険しい顔で吉田を睨んでいるだけだった。事実言われて言葉も出ないのかななんて思って、何気なく吉田を見ると、俺は驚きのあまり叫んでしまった。
「何だよ?」
「おまっ……後ろ! 後ろ!」
「はぁ? ……うわっ!」
吉田の後ろで、ふわふわと小石が浮いている。何個も浮いている。次の瞬間──小石は吉田目がけてアタックをし始めた。
「なななな何だこれ!? 地味に痛い地味に痛い地味に痛い!」
「吉──」
「晃太、ちょ、俺これ撒くわ! あと自分で何とかしろ!」
「え、ちょ……」
「じゃあな!」
吉田はダッシュで小石から逃げた。建物の中に走っていったらしい。
──何だったんだ。今の。ポルターガイスト?
そっと彼女を見る。さっきよりは穏やかな顔で吉田が逃げていった先を見ていた。……て、ちょっと待てよ?
「……もしかして、さっきの、君が?」
彼女はハッとして、俯いた。指をいじらしげに見つめている。
「……ごめんなさい。あなたの友達なのはわかってたのに。怒ると、勝手にああなるの。きっと神が私の怒りを晴らそうとするのね。小石くらいで済んでよかった……」
俺は耳を疑った。勝手にああなる? 小石くらいで済んでよかった? じゃあすごく怒らせたらもっとすごいことが起こるってこと?
俺は思わず身震いした。電波少女恐るべし。
しばらく呆気に取られていたけど、俺は彼女に向き直った。そうだ。ガツンと言ってやらなきゃ。俺はまず何から言うべきなのか迷って、最初に疑問を解決することにした。
「あの、さ。君、何なの?」
「あなたの未来の奥さん」
彼女は真面目な顔で言ってのける。だからそういうことじゃない。
「違くて……君が誰なのかとか、その、本当に見えてるのか、とか」
彼女は質問の意味を理解したようで、小さく頷いた。……見た目は本当に好みなんだけどな、とか考えてしまう。
「私は、鶴岡未来。未来って書いて、ミク」
「未来、ちゃん」
俺は名前を繰り返した。少し彼女が照れたように見えた。
「本当に、見えているわ。幼いころから、私には不思議な力が宿っていたもの。実際、あなたのことも見たでしょう?」
「あの時、触れただけで?」
彼女は頷いた。触れただけで俺の少し先の未来や基本データを見てしまうのか。俺は思わず顔を強ばらせた。
「普通の人は、集中しないとあんなに見えないわ。でも、あなたは特別よく見えた。私と波長が合うんだわ。やっぱり、あなたは旦那さま」
「旦那さま旦那さまって……そんなこと言われても、信じられるわけないだろ!」
俺は思わず声を荒げてしまう。はっとして彼女を見ると、少し悲しそうな目をしていた。罪悪感を感じて、声が裏返ってしまう。
「だっ……第一、夢で見てたからって言っても、初対面なわけだし……。君だって、俺に恋愛感情があるわけじゃないでしょ?」
そうだ。彼女は夢を見たから、そういう運命だから結婚しなければならないという意識があるんだと思う。恋愛感情なんか二の次で──だから初対面の何も知らない俺と結婚を急ごうとするんだろう。俺だって、彼女のことを何も知らないし。好きでもない男と結婚しても、彼女が見たという幸せな家庭は築けないんじゃないだろうか。
「好きよ。すごく」
「えっ……」
自分でも、かなり間抜けな声を出したと思う。今、告白をされたような気がする。
「夢で見たあなたの笑顔に、釘づけだった。だから夢を見たとき、すごく嬉しかった。この人が旦那さまになるなんてって」
俺は何て言っていいのか分からずに、ただただ彼女を眺めた。
「だから、今日偶然出会えたことも、嬉しかった」
微かに頬を赤らめる彼女に、呆気に取られていた。
「……だから、私と結婚しましょう」
彼女はカバンから一枚の紙を取り出した。実物は初めて見る、婚姻届けだ。……って。
「いやいやいや! 話飛びすぎだから! おかしいでしょ!」
俺は彼女から少し距離をおく。やっぱりこの子変わってる。
「結婚ってのは、お互いが好き合ってするものだし! 俺、君のこと好きじゃないし!」
「え……」
「ていうか、君ちょっと怖いし! さっきので俺の家とかもばれちゃったかもしれないけど、もう俺に付きまとわないでくれませんか! じゃ、そういうことで!」
「え、あ、ちょっと待って……」
過ぎ去ろうとする俺を、彼女が慌てて引き止めようとした。彼女が俺の手を取って、強く握る。でも俺はこれ以上関わりたくない一心で、その手を振り払って走りだした。
「っあ! ……朝霧、晃太! 待って!」
彼女の声が聞こえる。でも、耳を傾けたら負けだ。彼女のペースに巻き込まれたら負けだ。
「ダメッ……! 行かないで! 待って!」
必死に叫ぶ彼女の声を、無視した。心を鬼にして突き放さないと、彼女の勝手な妄想は終わらない。
* * *
「朝霧晃太。おかえりなさい」
「たっだいまー! って君誰なのよ?」
明るい調子で言ったのは吉田だ。人見知りしないと言うか何というか……このノリだから友達が多いんだろうな、なんて今関係ないことを考えた。
彼女の方はムッとした様子で、吉田が近づいた分だけ少し後退りした。
「……あなたじゃないわ、吉田雅信」
「何何っ? 俺のことも調査済み? 照れるなぁ」
彼女はあからさまに眉をしかめていた。なるほど、相性が悪そうだ。
「調査なんてしてない。何のこと?」
「晃太に惚れて探偵雇ったんでしょ? だから何でも知ってる」
「……探偵なんか雇わなくても、神のご加護があるから何でも分かるもの」
「あぁ、神に愛されてるんだもんね、君」
嘲笑するような吉田の言い方に、彼女の眉間の皺は一層深くなった。そろそろやめたほうがいいんじゃ……。
「君、痛いよ? 神とか何とか。晃太も付きまとわれてメーワクしてるの。わかる?」
「……」
「いい加減現実見て、ちゃんとした恋愛しなって」
彼女は何も言わない。ただ険しい顔で吉田を睨んでいるだけだった。事実言われて言葉も出ないのかななんて思って、何気なく吉田を見ると、俺は驚きのあまり叫んでしまった。
「何だよ?」
「おまっ……後ろ! 後ろ!」
「はぁ? ……うわっ!」
吉田の後ろで、ふわふわと小石が浮いている。何個も浮いている。次の瞬間──小石は吉田目がけてアタックをし始めた。
「なななな何だこれ!? 地味に痛い地味に痛い地味に痛い!」
「吉──」
「晃太、ちょ、俺これ撒くわ! あと自分で何とかしろ!」
「え、ちょ……」
「じゃあな!」
吉田はダッシュで小石から逃げた。建物の中に走っていったらしい。
──何だったんだ。今の。ポルターガイスト?
そっと彼女を見る。さっきよりは穏やかな顔で吉田が逃げていった先を見ていた。……て、ちょっと待てよ?
「……もしかして、さっきの、君が?」
彼女はハッとして、俯いた。指をいじらしげに見つめている。
「……ごめんなさい。あなたの友達なのはわかってたのに。怒ると、勝手にああなるの。きっと神が私の怒りを晴らそうとするのね。小石くらいで済んでよかった……」
俺は耳を疑った。勝手にああなる? 小石くらいで済んでよかった? じゃあすごく怒らせたらもっとすごいことが起こるってこと?
俺は思わず身震いした。電波少女恐るべし。
しばらく呆気に取られていたけど、俺は彼女に向き直った。そうだ。ガツンと言ってやらなきゃ。俺はまず何から言うべきなのか迷って、最初に疑問を解決することにした。
「あの、さ。君、何なの?」
「あなたの未来の奥さん」
彼女は真面目な顔で言ってのける。だからそういうことじゃない。
「違くて……君が誰なのかとか、その、本当に見えてるのか、とか」
彼女は質問の意味を理解したようで、小さく頷いた。……見た目は本当に好みなんだけどな、とか考えてしまう。
「私は、鶴岡未来。未来って書いて、ミク」
「未来、ちゃん」
俺は名前を繰り返した。少し彼女が照れたように見えた。
「本当に、見えているわ。幼いころから、私には不思議な力が宿っていたもの。実際、あなたのことも見たでしょう?」
「あの時、触れただけで?」
彼女は頷いた。触れただけで俺の少し先の未来や基本データを見てしまうのか。俺は思わず顔を強ばらせた。
「普通の人は、集中しないとあんなに見えないわ。でも、あなたは特別よく見えた。私と波長が合うんだわ。やっぱり、あなたは旦那さま」
「旦那さま旦那さまって……そんなこと言われても、信じられるわけないだろ!」
俺は思わず声を荒げてしまう。はっとして彼女を見ると、少し悲しそうな目をしていた。罪悪感を感じて、声が裏返ってしまう。
「だっ……第一、夢で見てたからって言っても、初対面なわけだし……。君だって、俺に恋愛感情があるわけじゃないでしょ?」
そうだ。彼女は夢を見たから、そういう運命だから結婚しなければならないという意識があるんだと思う。恋愛感情なんか二の次で──だから初対面の何も知らない俺と結婚を急ごうとするんだろう。俺だって、彼女のことを何も知らないし。好きでもない男と結婚しても、彼女が見たという幸せな家庭は築けないんじゃないだろうか。
「好きよ。すごく」
「えっ……」
自分でも、かなり間抜けな声を出したと思う。今、告白をされたような気がする。
「夢で見たあなたの笑顔に、釘づけだった。だから夢を見たとき、すごく嬉しかった。この人が旦那さまになるなんてって」
俺は何て言っていいのか分からずに、ただただ彼女を眺めた。
「だから、今日偶然出会えたことも、嬉しかった」
微かに頬を赤らめる彼女に、呆気に取られていた。
「……だから、私と結婚しましょう」
彼女はカバンから一枚の紙を取り出した。実物は初めて見る、婚姻届けだ。……って。
「いやいやいや! 話飛びすぎだから! おかしいでしょ!」
俺は彼女から少し距離をおく。やっぱりこの子変わってる。
「結婚ってのは、お互いが好き合ってするものだし! 俺、君のこと好きじゃないし!」
「え……」
「ていうか、君ちょっと怖いし! さっきので俺の家とかもばれちゃったかもしれないけど、もう俺に付きまとわないでくれませんか! じゃ、そういうことで!」
「え、あ、ちょっと待って……」
過ぎ去ろうとする俺を、彼女が慌てて引き止めようとした。彼女が俺の手を取って、強く握る。でも俺はこれ以上関わりたくない一心で、その手を振り払って走りだした。
「っあ! ……朝霧、晃太! 待って!」
彼女の声が聞こえる。でも、耳を傾けたら負けだ。彼女のペースに巻き込まれたら負けだ。
「ダメッ……! 行かないで! 待って!」
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