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全力で走ったからか、彼女の声はもう聞こえなかった。……これで諦めてくれたなら、いいんだけど。
俺はとりあえず家に帰って寝ようと思って帰路を急ぐ。公園を通り掛かると、晴天だからか小さな子供たちがボールで遊びまわっていた。俺も昔はよくやったなと、どこか懐かしさを感じながらその様子を眺めて、公園前の横断歩道で立ち止まった時だった。
公園から小さなボールが飛んできて、小さな子供が慌ててボールを追い掛けた。左から、大きなトラックが走ってくるのが見えた。切り裂くような悲鳴と、クラクション。マンガみたいな展開だった。
「──危ないっ!」
考えるよりも先に、体が動いていた。体が硬直して道路の真ん中で立ち尽くしている子供を乱暴に突き倒して歩道に出した。でも問題はそのあとだ。意外にトラック超速い。「あ、俺死ぬな」と思った。
今から避けても間に合わなくね? 畜生やっぱり山羊座一位とか嘘じゃねぇか。
あぁ父さん母さんごめん。先立つ不幸を許してください。せめて死ぬ前に母さんのにっころがし食べたかったなぁ。
瞬時にそんなことを考えて──声を聞いた。
「ダメぇぇぇぇえ!!」
あぁ──あの子の声だ。確証はないけどはっきりと思った。
次の瞬間、俺の体は重力を無視してふわっと浮いた。トラックが急ブレーキをかけて止まるのと、俺が数メートル先で着地するのはほぼ同時だった。トラックの運ちゃんが慌てて降りてきた。多分彼には俺が跳ねられて吹っ飛んだように見えたんだろう。
でも俺は無傷だ。運ちゃんは目を白黒させて俺を見ていた。
俺は歩道に突き飛ばした子供を見てみる。突き飛ばした勢いで何ヶ所か擦り剥いたっぽい。駆け付けた親が泣き出す子供を必死にあやしていた。
「……怪我させちゃって、すみません」
俺もその親子のもとに駆け付けて謝った。親御さんは慌てていいんですと繰り返した。
「もうちょっとで命がなくなるところでしたから! こんなもの、軽いです」
「……ならよかった」
俺はほっとして顔の筋肉を緩めた。
「それより、あなたに怪我がなくてよかった……!」
「え? ああ、それは、もう」
俺は苦笑いを浮かべて、頬を掻いた。助かった理由なんて、一つしかない。
「あなたの体が浮いたように見えたけど……どうしてかしら……」
親御さんは不思議そうな顔で目を擦っている。まぁ、目を疑うよな……。俺は少し返事に困って、苦笑しながら言った。
「きっと、神様の力です」
ポカンと口を開けていた親御さんだったけど、しばらくして心配そうな顔になって、
「……やっぱり念のため病院に行かれたほうがいいんじゃないかしら……どこか打ったのかも」
と言った。まぁ当然の反応だ。
でも大丈夫です。頭も無事です。そう頭で返事しながら俺は振り返った。歩道にへたりこんでる、少女が一人。
「……ごめんね」
何に対しての謝罪か分からないけど、俺は彼女にそう言った。きっと──さっき俺の手に触れたとき、見えてしまってたんだ。俺がトラックに跳ねられてしまう未来。だからあんなに必死に、俺を引き止めたんだよね。
「……許さないっ……」
俯いたまま、彼女は言った。ポタリ、ポタリと雫が垂れた。……泣かせて、しまった。
「俺、初対面なのに。さっき君のこと怖いとか言っちゃったのに。どうして助けてくれたの?」
俺は屈んで彼女と目線を合わせた。彼女は指で涙を拭いながら、小さな声で言う。
「だって、あなたが、大切だもの……。世界でいちばん、たいせつ……」
そう言って、涙でくしゃくしゃな顔で俺を見た。……俺のために、こんなに泣いてくれてるのか。“世界でいちばんたいせつ”だと、思ってくれているのか。そう思ったら、何だか胸の辺りがむず痒くなった。
トクン。心臓が、小さく音を立てた。
──あれ。
どうした、俺の心臓。
「……心配させて、ごめんね」
俺は親指で彼女の涙を拭う。彼女が上目遣いで俺を見てきたので、慌てて目を逸らした。
「君の力が本当なのはわかった」
俺は頭に浮かんだことをポツリポツリと口に出していく。
「……俺は、本当に、君の旦那さまなのかもしれない」
「じゃあ……」
何か言い掛けた彼女の口を人差し指で塞ぐ。
「いきなり結婚、は無理だけど。えーと、その。“お友達”から、始めませんか……」
この歳で何言ってるんだろ。俺は恥ずかしくなって下唇を噛んだ。
ちらりと彼女を伺う。彼女は──本当に本当に嬉しそうに、笑っていた。その笑顔に、また心臓が高鳴る。その笑顔を見て確信した。俺は、この電波少女にどんどん惹かれていってしまうんだろうなと。
俺は小さくため息を吐いて、立ち上がった。相変わらず空は雲一つない快晴。俺はぐんと伸びをして、日差しを浴びるようにしてゆっくり家に向かった。
* * *
そういえば。家に向かいながらふと思う。
俺、彼女の名前しか知らないや。まぁ向こうは俺のことすごい知ってるんだし、普通に“友達”やる分には困らないかな。会うときはきっと向こうから来るだろうし。
さっき置いてきてしまったけど、1人で帰れたかな。この辺にいたってことはこの辺に住んでるんだろうし、大丈夫か。
自問自答しながら帰路に着く。自宅アパートにたどり着いて、もうすでに気分は布団に向かっていた。そして、ドアノブに手をかけて、ぎょっとする。鍵、開いてるし! 忘れ物なし、とかいって、鍵掛け忘れてるじゃんか。やっぱり今日は何だかんだついてないな……ため息をつきながら家に入った。
「……おかえりなさい」
「ただい……ま!?」
思わずカバンを落としてしまった。家の中に、さっき別れたばかりの電波少女がいるじゃないか。
しかも、かなりくつろいで。それ、あとで食べようと思ってた俺のプリン!
「な、なななななな」
「鍵、開いてた」
いやいや知ってるけど! 閉め忘れてたけど!
「……な、にしてるの? 俺んちで」
俺がやっとのことで声を出すと、彼女はいけしゃあしゃあと大きな荷物を指差して、
「今日からここに住むの。よろしく、朝霧晃太」
と言ったのだった。
「はぁぁぁぁぁあ!?」
青い青い空に、俺の叫び声は吸い込まれていった。
* * *
平凡大学生の、俺。自称未来の奥さん、未来。
変な能力を持った彼女との、共同生活が、今始まった──。
俺はとりあえず家に帰って寝ようと思って帰路を急ぐ。公園を通り掛かると、晴天だからか小さな子供たちがボールで遊びまわっていた。俺も昔はよくやったなと、どこか懐かしさを感じながらその様子を眺めて、公園前の横断歩道で立ち止まった時だった。
公園から小さなボールが飛んできて、小さな子供が慌ててボールを追い掛けた。左から、大きなトラックが走ってくるのが見えた。切り裂くような悲鳴と、クラクション。マンガみたいな展開だった。
「──危ないっ!」
考えるよりも先に、体が動いていた。体が硬直して道路の真ん中で立ち尽くしている子供を乱暴に突き倒して歩道に出した。でも問題はそのあとだ。意外にトラック超速い。「あ、俺死ぬな」と思った。
今から避けても間に合わなくね? 畜生やっぱり山羊座一位とか嘘じゃねぇか。
あぁ父さん母さんごめん。先立つ不幸を許してください。せめて死ぬ前に母さんのにっころがし食べたかったなぁ。
瞬時にそんなことを考えて──声を聞いた。
「ダメぇぇぇぇえ!!」
あぁ──あの子の声だ。確証はないけどはっきりと思った。
次の瞬間、俺の体は重力を無視してふわっと浮いた。トラックが急ブレーキをかけて止まるのと、俺が数メートル先で着地するのはほぼ同時だった。トラックの運ちゃんが慌てて降りてきた。多分彼には俺が跳ねられて吹っ飛んだように見えたんだろう。
でも俺は無傷だ。運ちゃんは目を白黒させて俺を見ていた。
俺は歩道に突き飛ばした子供を見てみる。突き飛ばした勢いで何ヶ所か擦り剥いたっぽい。駆け付けた親が泣き出す子供を必死にあやしていた。
「……怪我させちゃって、すみません」
俺もその親子のもとに駆け付けて謝った。親御さんは慌てていいんですと繰り返した。
「もうちょっとで命がなくなるところでしたから! こんなもの、軽いです」
「……ならよかった」
俺はほっとして顔の筋肉を緩めた。
「それより、あなたに怪我がなくてよかった……!」
「え? ああ、それは、もう」
俺は苦笑いを浮かべて、頬を掻いた。助かった理由なんて、一つしかない。
「あなたの体が浮いたように見えたけど……どうしてかしら……」
親御さんは不思議そうな顔で目を擦っている。まぁ、目を疑うよな……。俺は少し返事に困って、苦笑しながら言った。
「きっと、神様の力です」
ポカンと口を開けていた親御さんだったけど、しばらくして心配そうな顔になって、
「……やっぱり念のため病院に行かれたほうがいいんじゃないかしら……どこか打ったのかも」
と言った。まぁ当然の反応だ。
でも大丈夫です。頭も無事です。そう頭で返事しながら俺は振り返った。歩道にへたりこんでる、少女が一人。
「……ごめんね」
何に対しての謝罪か分からないけど、俺は彼女にそう言った。きっと──さっき俺の手に触れたとき、見えてしまってたんだ。俺がトラックに跳ねられてしまう未来。だからあんなに必死に、俺を引き止めたんだよね。
「……許さないっ……」
俯いたまま、彼女は言った。ポタリ、ポタリと雫が垂れた。……泣かせて、しまった。
「俺、初対面なのに。さっき君のこと怖いとか言っちゃったのに。どうして助けてくれたの?」
俺は屈んで彼女と目線を合わせた。彼女は指で涙を拭いながら、小さな声で言う。
「だって、あなたが、大切だもの……。世界でいちばん、たいせつ……」
そう言って、涙でくしゃくしゃな顔で俺を見た。……俺のために、こんなに泣いてくれてるのか。“世界でいちばんたいせつ”だと、思ってくれているのか。そう思ったら、何だか胸の辺りがむず痒くなった。
トクン。心臓が、小さく音を立てた。
──あれ。
どうした、俺の心臓。
「……心配させて、ごめんね」
俺は親指で彼女の涙を拭う。彼女が上目遣いで俺を見てきたので、慌てて目を逸らした。
「君の力が本当なのはわかった」
俺は頭に浮かんだことをポツリポツリと口に出していく。
「……俺は、本当に、君の旦那さまなのかもしれない」
「じゃあ……」
何か言い掛けた彼女の口を人差し指で塞ぐ。
「いきなり結婚、は無理だけど。えーと、その。“お友達”から、始めませんか……」
この歳で何言ってるんだろ。俺は恥ずかしくなって下唇を噛んだ。
ちらりと彼女を伺う。彼女は──本当に本当に嬉しそうに、笑っていた。その笑顔に、また心臓が高鳴る。その笑顔を見て確信した。俺は、この電波少女にどんどん惹かれていってしまうんだろうなと。
俺は小さくため息を吐いて、立ち上がった。相変わらず空は雲一つない快晴。俺はぐんと伸びをして、日差しを浴びるようにしてゆっくり家に向かった。
* * *
そういえば。家に向かいながらふと思う。
俺、彼女の名前しか知らないや。まぁ向こうは俺のことすごい知ってるんだし、普通に“友達”やる分には困らないかな。会うときはきっと向こうから来るだろうし。
さっき置いてきてしまったけど、1人で帰れたかな。この辺にいたってことはこの辺に住んでるんだろうし、大丈夫か。
自問自答しながら帰路に着く。自宅アパートにたどり着いて、もうすでに気分は布団に向かっていた。そして、ドアノブに手をかけて、ぎょっとする。鍵、開いてるし! 忘れ物なし、とかいって、鍵掛け忘れてるじゃんか。やっぱり今日は何だかんだついてないな……ため息をつきながら家に入った。
「……おかえりなさい」
「ただい……ま!?」
思わずカバンを落としてしまった。家の中に、さっき別れたばかりの電波少女がいるじゃないか。
しかも、かなりくつろいで。それ、あとで食べようと思ってた俺のプリン!
「な、なななななな」
「鍵、開いてた」
いやいや知ってるけど! 閉め忘れてたけど!
「……な、にしてるの? 俺んちで」
俺がやっとのことで声を出すと、彼女はいけしゃあしゃあと大きな荷物を指差して、
「今日からここに住むの。よろしく、朝霧晃太」
と言ったのだった。
「はぁぁぁぁぁあ!?」
青い青い空に、俺の叫び声は吸い込まれていった。
* * *
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変な能力を持った彼女との、共同生活が、今始まった──。
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