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Try to talk
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今日は三限で終わりだったから、俺は急いでアパートに戻った。ドアノブをひねって、乱雑に靴を脱ぐ。出かけた時と変わらず、彼女は静かに寝息をたてていた。長い髪が、白いシーツに広がって綺麗……って、何を考えてんだ!
「おーい……? か、帰った、よ?」
小さく、声を掛けてみる。反応はない。触れても、いいんだろうか。読まれないかな、心。俺は恐る恐る手を伸ばして、肩を揺らした。
「……おーい?」
ちょっと強く揺らしてみても、その寝息は途切れない。どうしたもんかと思う。
「鶴岡、さん……。鶴岡さ……」
呼び掛けても反応はない。そこで、ふと、俺が彼女の名前を呼び掛けたときの反応を思い出した。……嬉しそうに、照れたようだった。
「……未来」
小さな声で、呼んでみる。何だか俺が恥ずかしくて、顔を背けた。
「合格」
「!?」
彼女はまるでロボットのような素早い動きで、上体を起こした。俺は訳が分からなくて、床に膝を付いて固まった。……起きてたんじゃねーか!
彼女はどこか嬉しそうな顔で、ベッドから俺を見下ろしていた。
「合格って、何が」
「呼び方。“君”でも“鶴岡さん”でもなくて、“未来”よ、朝霧晃太」
布団から出て、ベッドに腰掛けたまま彼女──未来は言う。俺はその言葉にむっとした。合否があるなら──彼女は、不合格じゃないか。
「君──未来だって、俺をフルネームで呼ぶじゃないか」
「わ、たしは」
一瞬、未来がたじろいだように見えた。あれ? 俺はそれを確認するためにじっと未来を見つめるけど、未来はその視線から逃れるように顔を背けた。
「いいの」
もしかして、照れてるのかな。いつも余裕ぶって無表情でいるけど。俺は少し未来をからかってみたくなって、ベッドにもたれながら笑う。
「良くないよ。俺も名前で呼んでほしいな」
「……っ」
「晃太って」
「……いずれ」
「え?」
「いずれ呼ぶわ! 朝霧晃太!」
「わっ」
思い切り背中を押され、前につんのめる。危ないな、と思いながら振り返ると、真っ赤な顔の未来が俺を睨み付けていたので、何も言えず前を向き直った。……ちょっと可愛い。って言ったら何されるか分からないから黙っておこう。
「……あのさー、未来」
「……何、朝霧晃太」
一緒に住む住まないはとりあえず置いといて。ていうか何日か経ったら帰っていただく方向で。俺はずっと不公平だと思っていたことを言ってみた。
「未来ばっかり俺のこと知ってて、ずるくない?」
「……それは」
「未来のこと、いろいろ教えてよ。一応友達なんだし」
俺がそう言うと、未来は少し考えて、小さく言った。
「いろいろ、ってどんなこと」
「歳とか誕生日とか、血液型とか?」
「……19歳。12月23日。B型」
「え? 同い年だったんだ。学校は?」
「……行ってない」
「へぇ。家は? 遠いの?」
「……言ったら帰れって言うでしょ」
「言わないよ。弱み握られてるし」
「そこまで、遠くはない。電車で、40分くらい」
未来は、決して多くは語らず、聞かれたことだけ少しずつ話してくれた。何で40分もかけてここへ来たのか尋ねると、「神様からのお告げ」らしい。それにはさすがに苦笑いを浮かべる他なかったが。
あと、彼女の能力について。俺との将来を見たという予知夢──これは無意識のうちに、それもたまにだけ見るんだそうだ。
そして、読心を含めた、“見る”能力。これは人の手に触れたときに見れるんだそうだ。本来なら自身の手で相手の手を包んで目を閉じた状態(最初に俺がされたやつだ)で“見る”そうだが、俺みたいに彼女と波長が合う奴は、普通に手を触れるだけで“見る”ことができるらしい。……じゃあやっぱり、出かけるときも故意に見たんじゃないか。出かかった不満をギリギリで押さえた。
気が付くと時計は6時を指していて、いつの間にそんなに時間が経ったんだろうと思った。
「そろそろ、ご飯作るか。料理は……」
「作れない」
「そんな気がした。座ってて」
料理は上手いわけではないが、嫌いではない。……炒飯でいいかな。
「食べれないものとかある?」
振り返って尋ねると、何だか未来が幸せそうな顔で、首を横に振った。……なんつー顔をしてるんですか。
見とれてしまいそうだったから、慌てて台所に戻った。本当に、見た目はすごい好みだから困る。
* * *
最初はただの電波少女だったけど──少しずつ、いろんな彼女を知れたような気がした。……ちょっと、照れ屋なところとか。電波なところとか変な能力持ってることとかを除けば、普通の不器用な女の子……なのかもしれない。
一応、友達なわけだし──とりあえず彼女が納得して自分の家に帰るまで、こうやって彼女と過ごして少しずつ彼女を知るのも、いいかもしれない。そう考えて、二人分の皿がないことに気付く。……果たして、買いに行くべきか。
共同生活1日目。まだまだ前途多難だけど、プライバシーもくそもないけど。不思議と嫌な気はしなかった。
「おーい……? か、帰った、よ?」
小さく、声を掛けてみる。反応はない。触れても、いいんだろうか。読まれないかな、心。俺は恐る恐る手を伸ばして、肩を揺らした。
「……おーい?」
ちょっと強く揺らしてみても、その寝息は途切れない。どうしたもんかと思う。
「鶴岡、さん……。鶴岡さ……」
呼び掛けても反応はない。そこで、ふと、俺が彼女の名前を呼び掛けたときの反応を思い出した。……嬉しそうに、照れたようだった。
「……未来」
小さな声で、呼んでみる。何だか俺が恥ずかしくて、顔を背けた。
「合格」
「!?」
彼女はまるでロボットのような素早い動きで、上体を起こした。俺は訳が分からなくて、床に膝を付いて固まった。……起きてたんじゃねーか!
彼女はどこか嬉しそうな顔で、ベッドから俺を見下ろしていた。
「合格って、何が」
「呼び方。“君”でも“鶴岡さん”でもなくて、“未来”よ、朝霧晃太」
布団から出て、ベッドに腰掛けたまま彼女──未来は言う。俺はその言葉にむっとした。合否があるなら──彼女は、不合格じゃないか。
「君──未来だって、俺をフルネームで呼ぶじゃないか」
「わ、たしは」
一瞬、未来がたじろいだように見えた。あれ? 俺はそれを確認するためにじっと未来を見つめるけど、未来はその視線から逃れるように顔を背けた。
「いいの」
もしかして、照れてるのかな。いつも余裕ぶって無表情でいるけど。俺は少し未来をからかってみたくなって、ベッドにもたれながら笑う。
「良くないよ。俺も名前で呼んでほしいな」
「……っ」
「晃太って」
「……いずれ」
「え?」
「いずれ呼ぶわ! 朝霧晃太!」
「わっ」
思い切り背中を押され、前につんのめる。危ないな、と思いながら振り返ると、真っ赤な顔の未来が俺を睨み付けていたので、何も言えず前を向き直った。……ちょっと可愛い。って言ったら何されるか分からないから黙っておこう。
「……あのさー、未来」
「……何、朝霧晃太」
一緒に住む住まないはとりあえず置いといて。ていうか何日か経ったら帰っていただく方向で。俺はずっと不公平だと思っていたことを言ってみた。
「未来ばっかり俺のこと知ってて、ずるくない?」
「……それは」
「未来のこと、いろいろ教えてよ。一応友達なんだし」
俺がそう言うと、未来は少し考えて、小さく言った。
「いろいろ、ってどんなこと」
「歳とか誕生日とか、血液型とか?」
「……19歳。12月23日。B型」
「え? 同い年だったんだ。学校は?」
「……行ってない」
「へぇ。家は? 遠いの?」
「……言ったら帰れって言うでしょ」
「言わないよ。弱み握られてるし」
「そこまで、遠くはない。電車で、40分くらい」
未来は、決して多くは語らず、聞かれたことだけ少しずつ話してくれた。何で40分もかけてここへ来たのか尋ねると、「神様からのお告げ」らしい。それにはさすがに苦笑いを浮かべる他なかったが。
あと、彼女の能力について。俺との将来を見たという予知夢──これは無意識のうちに、それもたまにだけ見るんだそうだ。
そして、読心を含めた、“見る”能力。これは人の手に触れたときに見れるんだそうだ。本来なら自身の手で相手の手を包んで目を閉じた状態(最初に俺がされたやつだ)で“見る”そうだが、俺みたいに彼女と波長が合う奴は、普通に手を触れるだけで“見る”ことができるらしい。……じゃあやっぱり、出かけるときも故意に見たんじゃないか。出かかった不満をギリギリで押さえた。
気が付くと時計は6時を指していて、いつの間にそんなに時間が経ったんだろうと思った。
「そろそろ、ご飯作るか。料理は……」
「作れない」
「そんな気がした。座ってて」
料理は上手いわけではないが、嫌いではない。……炒飯でいいかな。
「食べれないものとかある?」
振り返って尋ねると、何だか未来が幸せそうな顔で、首を横に振った。……なんつー顔をしてるんですか。
見とれてしまいそうだったから、慌てて台所に戻った。本当に、見た目はすごい好みだから困る。
* * *
最初はただの電波少女だったけど──少しずつ、いろんな彼女を知れたような気がした。……ちょっと、照れ屋なところとか。電波なところとか変な能力持ってることとかを除けば、普通の不器用な女の子……なのかもしれない。
一応、友達なわけだし──とりあえず彼女が納得して自分の家に帰るまで、こうやって彼女と過ごして少しずつ彼女を知るのも、いいかもしれない。そう考えて、二人分の皿がないことに気付く。……果たして、買いに行くべきか。
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