Inevitable Romance?

天乃 彗

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Annoying God

01

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 朝の訪れと共に聞こえる鳥のさえずりと、微かな声。聞いたことのあるその二つの声を夢うつつで感じていた。

「……て。……うた。……て」

 ゆさゆさと体を揺すられる感覚。そんなのいつぶりだろう──。一人暮らしを始めるより、ずっと前だ。少しずつ覚醒する頭が、その声を正確に拾い始めた。

「……起きて、朝霧晃太。朝よ。起きて」
「……んぅ……?」

 ゆっくりと目を開けるとそこには、黒髪美少女が俺を至近距離で眺めていた。

「……?」

 あれ、待て。誰だこれ。
 鈍く働く頭を必死に回転させて、昨日のことをやっとのことで思い出した。そうだ、彼女は自称「俺の未来の奥さん」で、昨日から成り行きで一緒に住むことになった、鶴岡未来。思い出すと共に、その異様な距離の近さにやっと気付いた。

「のわぁっ!」

 俺は驚いて、とりあえず離れようと足だけで床を滑る。壁に頭をぶつけて、あまりの痛さに完璧に目が覚めた。

「……っ……!」
「……大げさね」

 大げさなもんか。かなり痛かった。俺はこぶが出来てないか確認しながらゆっくり起き上がった。
 そもそも俺が床で雑魚寝してたのも、彼女にベッドを譲ったからなのに。そんなこと言っても仕方がないけど。机の上の眼鏡を手にとって、かけた。

「……お腹が空いたわ」
「あーはいはい。パンでいい?」

 彼女はコックリと頷く。俺は袋から食パンを2枚取り出して、オーブンレンジに入れた。焼けるまでの間に、顔洗ってコンタクト入れてこよ。俺はあくびをしながら洗面所に向かう。横目で彼女を見ると、何やらじっと俺を見ていた。

「……何?」
「……眼鏡もいいわね」
「何を言ってんだか」

 起き抜けの間抜けな姿を見て何を言ってんだ。ちょっと照れそうになったのをかくして、今度こそ洗面所に向かう。
 ちょうど顔を洗ってコンタクトを入れ終わったとき、洗面所までパンが焼き上がる音が聞こえた。戻るついでに冷蔵庫からマーガリンを取り出す。

「ジャムは? いる?」
「いらない……」

 机の上にパンとマーガリンを置いて、さすがに自分でやってよね、と笑った。未来は小さく頷く。意外に素直だ。さて、その間に着替えをすまそう。
 そう言えば。俺は今日も普通に授業あるんだけど、未来はどうするつもりだろう。家で1人で留守番しておいてくれるのだろうか。俺はTシャツを頭に通しながら未来を見た。

「……え? はい。……はい。わかりました」

 なにやら何もない空間に向かって話している。……触れないようにしよう。そうしよう。

「あのさ、未来。俺は大学行っちゃうけど、未来、1人で待っていられる?」

 俺としては、おとなしく家にいてくれたほうが助かる。へたに動かれて彼女に何かあったら大変だし。だったら俺のプライバシーを削ったほうがましだ。彼女は俺の期待を裏切って、とんでもないことを言い出した。

「……私も、朝霧晃太と行くわ」

──……え? 

「行くって、大学に?」

 未来はコックリと頷く。いやいや頷かれても! 

「いやいやいや無理でしょう!」
「行くったら行く。さっき神様が仰ったの。今日は大学での朝霧晃太を見るチャンスだから、同行なさいと」
「さっきって……あーさっきのか!」

 俺はさっきの彼女を思い出す。なんて傍迷惑なお告げをなさるんだ神様は! 

「今日なら潜り込んでもばれない、とも」
「それ、は」

 俺は思わず口籠もる。そうなのだ。クラス単位で行う授業ならば、出席も先生がとるし、部外者がいればかなり目立つ。しかし、今日の時間割は大講義室で行われる、大人数での授業だ。出席をとるのもカードを出すだけだし、かなり人がいるから、部外者が一人いても気付かれないだろう。
 未来は俺の表情を読み取ったのか、ふふん、と鼻で笑った。

「決まりね」

 ご機嫌な表情でパンを食べる未来を、俺は唖然として見つめていた。


 * * *


──本当についてきたよ……! 

 俺は後ろをちょこちょこ歩く彼女を見た。さっきからご機嫌で、いつもより口角が上がっている気がする。授業がある教室に向かう途中、すれ違う人は皆俺と未来をじろじろと眺めていた。まぁそれは、未来が(黙っていれば)美少女だからなんだけど。それにしても……注目を浴びるのは、なんか……嫌だ。

「……未来、あんまりキョロキョロしない!」
「……何で」
「目立つから! なるべく俯いて歩いて!」

 未来は少しむっとしていたが、しばらくして俯いて歩きだした。……学校に来るって我儘を聞いたんだし、それ位は聞いてもらわないと俺が困る。

「……あれ、晃太と……電波娘!?」

 後ろから聞き慣れた声がして、俺と未来は振り返った。そこには、未来がいることに対して驚いた様子の吉田と友里ちゃんの姿があった。
 未来は吉田を見るなり、さっと俺の後ろに隠れた。……まぁ、相性はよくなさそうだとは思ってたけど。

「あれぇ、晃太くんじゃん。その子誰?」

 友里ちゃんはにこやかに俺に尋ねた。友里ちゃん──笹塚友里、吉田の彼女だ。彼女は落ち着いた茶髪を肩くらいまで伸ばしている。ふわふわのパーマは彼女のかわいらしい服装にぴったりだ。あまり化粧は濃くないが、くりくりした目が印象的で、吉田いわく競争率は高かったらしい。

「……このひと、だれ」

 未来は眉をひそめながら俺を見た。

「ああ、この子は笹塚友里ちゃん。吉田の彼女だよ」
「……あのハリネズミの?」

 未来はほっとしたような顔をした。……ていうかハリネズミって。的をえた呼び名に俺は吹き出しそうになる。

「友里ちゃん、この子は、えぇと……」
「朝霧晃太の未来の奥さん」
「え? ……つまり、晃太くんの彼女?」
「え!? いや、違くて、何て言うか……友達? 同居人?」

 俺は苦笑いをしながら昨日からの出来事を簡単に説明した。横で吉田は未来の電波っぷりを主張していた。友里ちゃんは特につっかかることもせず、「へぇ」なんて言っていた。彼女、見た目はふわふわしてるけど、意外に中身はさばさばしてるから。
 友里ちゃんは俺の後ろに隠れる未来に向かって、にっこりと笑いながら手を差し出した。

「よろしくね、未来ちゃん!」

 未来はしばらく友里ちゃんを見ていたが、彼女の屈託のない笑みに安心したのか、おずおずとその手を握り返した。……これはいい傾向……か? おそらく単身ここに来たんだろうし、友里ちゃんが仲良くしてくれるなら安心だ。

「……朝霧晃太、授業にはそろそろ行かなくていいの?」
「えっあ、そうだった! 未来、行くよ! 吉田、友里ちゃん、またね!」

 俺は慌てて二人に手を振って駆け出す。未来は急いで俺の後を追って来た。
 ……吉田と友里ちゃん、やっぱ仲いいな。俺は未来をちらりと見た。未来は不思議そうに俺を見つめ返したのだった。


 * * *
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