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Annoying God
02
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うちの大学でもわりと新しい10号館の1階の大講義室。そこには俺と同じ授業をとった学生がわらわらと集まっていた。俺はなるべく後ろの方の、開いている席に未来を誘導する。
「いい? 授業中も静かにしてないとダメだからね?」
「……子供じゃあるまいし、わかってるわ」
そう言って未来は唇を尖らせた。……う。かわいい。
俺はさっと目線をそらした。ほだされるな、俺。
そして、目線をそらした先で、学生が前の方の席からプリントを持ってきていることに気付いた。俺もとってこなくちゃいけない。ちらりと横目で未来を見た。まぁ……少しくらいなら目を離しても大丈夫だろう。この電波少女でも、そんな何分かのうちに何かやらかしはしないだろうし。
「……未来、俺授業のプリント持ってくるから。ちょっと待ってて」
俺の言葉に、未来はコクリと頷いた。
* * *
俺が席を立って、プリントをとってくるまで、1、2分だったはずだ。それなのに──何で未来の周りに知らない男がうじゃうじゃいるんだ? 俺はどうしていいかわからず、少し遠巻きにその様子を眺めていた。
「ねえ、どこの学部?」
「名前何て言うの?」
「一年生?」
「かわいーね。よく言われるっしょ?」
男たちはにこやかに未来の周りを取り囲む。未来はいつも通り、何を考えているのかわからない無表情のままで、ぼんやりと男たちを見つめていた。……何してんだあいつは!
「何なら今から俺らとサボって遊び行かね?」
「カトセンの授業だし大丈夫よー?」
そう言いながら、男たちはさりげなく未来に近づく。……ちょっと近くないかチャラ男。て言うか未来、嫌がれよ!?
俺はハラハラしながらその様子を見ていた。すると男たちは、あろうことか未来の手のひらに自分の手のひらを重ねた。
「……っ!」
息が止まるかと思った。ちょっと待て何してんだチャラ男──!
その瞬間、俺はいてもたってもいられなくなった。思わず俺は、思いきり未来の名を呼んでいた。
「未来!」
未来は俺の声に反応して、俺をじっと見た。……しまった。何してんだ俺は。この後のことを何も考えていなかった。男たちは訝しげに俺を睨んでいる。
「……悪い悪い! 俺教室間違えちゃったみたい。違う教室だったわー」
我ながらわざとらしい、棒読みな言い方をしたと思った。でももう後には退けない。
「ごめんな! じゃ、行こっか!」
俺は笑顔を作って、座っていた未来の手をとって強引に引いた。男たちの様子は見てない。とにかく、未来をあいつらとは離れさせたくて、そのまま教室を飛び出した。
何なんだあいつらは。よくもまぁ知らない女子に話し掛けられるな。飢えてるのか? 軽々しく女子に触れやがって。今チャラ男が流行ってるみたいだけど、だからってあれはないだろ。そもそも──
「嘘」
「え!?」
不意に未来が小さく言った。俺はわけがわからず聞き返す。
「教室、合ってた」
「え? あ、あぁ……」
「何で嘘ついたの?」
未来はじっと俺を見ながら尋ねた。何でって、あれは咄嗟に──。
「……あぁ。妬いたのね」
「え!? な、何で」
「手」
未来の言葉に、ハッと下を見る。そう言えば、繋いだままだった!
「また見っ──!」
俺は慌てて繋いでいた手を離した。でも、待て。あれは──あれは、ヤキモチなのか?
「いやっ違、あれは、そうだ、あの男子が読心されたら可哀相だと思って、それで」
「……他人のはこうしないと見れないって言ったじゃない」
そう言いながら、未来は俺の右手を両の手で包もうとする。俺はそれを反射的に払いのけた。また見られたら、たまったもんじゃない!
「……いいの? 授業は」
「あ」
未来がそう言い終わると同時に、授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
「……いいや、今日はもう」
この調子じゃ、未来はまたナンパされるだろうし。一回くらい休んでも、きっと平気だろう。
「……未来は? いいの? “大学での俺”、それらしいの見てないけど」
俺が冗談っぽく笑うと、未来は満足げに笑った。
「いいの。また別の姿を見れたから」
未来は来るときと同じように上機嫌で、すたすたと先を歩いてしまう。……また別の姿って。俺は苦笑を浮かべて未来の後を追った。
* * *
自分でも、何であんなことしたのか分からない。未来がチャラ男に触られるの、なんか嫌だった。咄嗟に体が動いて、未来を連れ去っていた。未来は妬いたのね、と言っていたけど。それって──やっぱり“ヤキモチ”だったんだろうか。付き合ってもいないのに? そもそも、まだ未来のことを好きなのかどうかも分からないのに? 俺は横目で未来を見ながら、小さくため息を吐いた。未来はいまだに上機嫌で、「いろんな朝霧晃太が見れて嬉しい」とぼやいていた。
俺も、そう思った。いろんな未来を見るのは、新鮮で、ちょっと楽しかった。未来が「ついていく」と言ったときから、何か起きるとは思ってたけど。未来の今日の学校訪問は、俺の心にささやかな変化を起こした──そんな気がした。
「いい? 授業中も静かにしてないとダメだからね?」
「……子供じゃあるまいし、わかってるわ」
そう言って未来は唇を尖らせた。……う。かわいい。
俺はさっと目線をそらした。ほだされるな、俺。
そして、目線をそらした先で、学生が前の方の席からプリントを持ってきていることに気付いた。俺もとってこなくちゃいけない。ちらりと横目で未来を見た。まぁ……少しくらいなら目を離しても大丈夫だろう。この電波少女でも、そんな何分かのうちに何かやらかしはしないだろうし。
「……未来、俺授業のプリント持ってくるから。ちょっと待ってて」
俺の言葉に、未来はコクリと頷いた。
* * *
俺が席を立って、プリントをとってくるまで、1、2分だったはずだ。それなのに──何で未来の周りに知らない男がうじゃうじゃいるんだ? 俺はどうしていいかわからず、少し遠巻きにその様子を眺めていた。
「ねえ、どこの学部?」
「名前何て言うの?」
「一年生?」
「かわいーね。よく言われるっしょ?」
男たちはにこやかに未来の周りを取り囲む。未来はいつも通り、何を考えているのかわからない無表情のままで、ぼんやりと男たちを見つめていた。……何してんだあいつは!
「何なら今から俺らとサボって遊び行かね?」
「カトセンの授業だし大丈夫よー?」
そう言いながら、男たちはさりげなく未来に近づく。……ちょっと近くないかチャラ男。て言うか未来、嫌がれよ!?
俺はハラハラしながらその様子を見ていた。すると男たちは、あろうことか未来の手のひらに自分の手のひらを重ねた。
「……っ!」
息が止まるかと思った。ちょっと待て何してんだチャラ男──!
その瞬間、俺はいてもたってもいられなくなった。思わず俺は、思いきり未来の名を呼んでいた。
「未来!」
未来は俺の声に反応して、俺をじっと見た。……しまった。何してんだ俺は。この後のことを何も考えていなかった。男たちは訝しげに俺を睨んでいる。
「……悪い悪い! 俺教室間違えちゃったみたい。違う教室だったわー」
我ながらわざとらしい、棒読みな言い方をしたと思った。でももう後には退けない。
「ごめんな! じゃ、行こっか!」
俺は笑顔を作って、座っていた未来の手をとって強引に引いた。男たちの様子は見てない。とにかく、未来をあいつらとは離れさせたくて、そのまま教室を飛び出した。
何なんだあいつらは。よくもまぁ知らない女子に話し掛けられるな。飢えてるのか? 軽々しく女子に触れやがって。今チャラ男が流行ってるみたいだけど、だからってあれはないだろ。そもそも──
「嘘」
「え!?」
不意に未来が小さく言った。俺はわけがわからず聞き返す。
「教室、合ってた」
「え? あ、あぁ……」
「何で嘘ついたの?」
未来はじっと俺を見ながら尋ねた。何でって、あれは咄嗟に──。
「……あぁ。妬いたのね」
「え!? な、何で」
「手」
未来の言葉に、ハッと下を見る。そう言えば、繋いだままだった!
「また見っ──!」
俺は慌てて繋いでいた手を離した。でも、待て。あれは──あれは、ヤキモチなのか?
「いやっ違、あれは、そうだ、あの男子が読心されたら可哀相だと思って、それで」
「……他人のはこうしないと見れないって言ったじゃない」
そう言いながら、未来は俺の右手を両の手で包もうとする。俺はそれを反射的に払いのけた。また見られたら、たまったもんじゃない!
「……いいの? 授業は」
「あ」
未来がそう言い終わると同時に、授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
「……いいや、今日はもう」
この調子じゃ、未来はまたナンパされるだろうし。一回くらい休んでも、きっと平気だろう。
「……未来は? いいの? “大学での俺”、それらしいの見てないけど」
俺が冗談っぽく笑うと、未来は満足げに笑った。
「いいの。また別の姿を見れたから」
未来は来るときと同じように上機嫌で、すたすたと先を歩いてしまう。……また別の姿って。俺は苦笑を浮かべて未来の後を追った。
* * *
自分でも、何であんなことしたのか分からない。未来がチャラ男に触られるの、なんか嫌だった。咄嗟に体が動いて、未来を連れ去っていた。未来は妬いたのね、と言っていたけど。それって──やっぱり“ヤキモチ”だったんだろうか。付き合ってもいないのに? そもそも、まだ未来のことを好きなのかどうかも分からないのに? 俺は横目で未来を見ながら、小さくため息を吐いた。未来はいまだに上機嫌で、「いろんな朝霧晃太が見れて嬉しい」とぼやいていた。
俺も、そう思った。いろんな未来を見るのは、新鮮で、ちょっと楽しかった。未来が「ついていく」と言ったときから、何か起きるとは思ってたけど。未来の今日の学校訪問は、俺の心にささやかな変化を起こした──そんな気がした。
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