Inevitable Romance?

天乃 彗

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Let's walk together

01

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 ガヤガヤと騒がしい昼時の学生食堂。俺と吉田は向かい合って昼食を食べていた。

「実際、電波とはどうなわけ? お前。もうした?」

 吉田はいきなり尋ねてきた。驚いてむせたせいで、口に含んでいたうどんが出てきてしまった。

「うわっ、キタネ」
「ゲホッ誰のせいだとっ……ゲホッ」

 苦しい。涙出てきた。俺は紙ナフキンで顔や机を拭いたあと、水を飲み干した。ようやく落ち着いてから、発言を思い出す。こいつのことだ、「もうした?」って問いは、下世話な話でしかない。

「食事中の話ではないし、第一未来とはそんなんじゃ」
「一緒に住んでんだろ? きゃっきゃうふふなハプニングがあってもおかしくない」
「人の話聞いてる?」

 俺はため息混じりで、吉田を睨み付けた。吉田は悪びれる様子もなく、もごもごと口に食べ物を含んだまま話し続ける。

「何もないとかもったいねー、見た目は美少女なのに。電波だけど」
「友里ちゃんにチクんぞ、吉田が浮気してるって」
「友里は別格ー」

 友里ちゃんを話に出すと、一気に頬の筋肉が緩む。愛されてんなー、友里ちゃん。すると吉田は、ニヤニヤとしながら箸で俺を指した。

「まぁ友里の可愛さはともかく。実はお前もまんざらでも無くなってきてるんじゃねーの? あんな美少女がひとつ屋根の下って」
「え、んー……」

 俺はちゅるんとうどんをすすり上げて、考え込んだ。出会ってから、話をしたり、大学に来られたり、一緒に買い物したり、バイト先に来られたり。その度に、ハラハラさせられたり、ドキドキさせられたりして。俺の中で、未来の存在が大きくなっていることは確かだ。でも、これは恋なのか。あり得ないことの連続で、動転しているだけじゃ? もしくは、言い寄られて、いい気になってるだけじゃ? 好かれてるから好きって、都合よすぎないか。

「……わかんない」
「かー! バカか!」
「……お前には言われたくない」
「んだと?」

 吉田は少しムッとして、腹いせにか俺のうどんに七味をぶっかけた。俺のうどんが赤く染まった。吉田ふざけんな。


 * * *


 一日の授業が終わって、俺は夕飯の買い出しをしてから帰路についた。今日は卵と鶏肉が安かったから、オムライスにしよう。

「ただいまー」

 扉を開けながら言う。部屋の中から未来はひょっこりと顔を出した。

「おかえり」

 そのいつも通りの無表情を見ると、何だかほっとした。俺は買った物を冷蔵庫に入れながら、未来に話しかける。

「今日はねー、卵と鶏肉が安かったから、オムライスにしようと思って」
「……やった」

 未来はちょっと嬉しそうに部屋に戻っていく。最近は、少しの表情の変化で未来の気持ちが分かるようになってきた。クイズみたいでちょっと楽しい。

「……朝霧晃太」
「ん?」

 未来は少しうつむきながら、俺の顔を伺うように目線をあげる。何か言いたげな表情だ。俺は体ごと未来に向き直る。

「……あの……」
「どした?」

 未来はキュッとスカートの裾を掴むと、顔をあげた。

「……チキンライスに、グリンピース入れないで」
「……え? それだけ?」

 拍子抜けだ。なんて言うか、深刻そうな顔だったから、もっと大切なことかと思ったのに。……かわいい。

「入れないよ。そもそも買ってないし。本当にそれだけ?」
「……それ、だけ」

 未来は小さく呟くと、すたすたと戻っていってしまった。うーん、そんなにグリンピース苦手だったのかな。覚えておこう。
 その時は、そんな呑気なことを考えながら、夕食づくりを開始した──。



 * * *


 次の日、一人で取ってる授業が休講になってしまい、一コマ分時間が空いてしまった。家に帰るのもなんだし、しょうがないから食堂で英語の課題でもしていようと思っていると、後ろから肩を叩かれた。

「おはよ!」
「あれ、友里ちゃん。授業は?」

 俺は思わず間抜けな声を出した。普段、吉田が常に隣にいるから忘れがちだけど、実は友里ちゃんは違う学部だ。だから学校で友里ちゃんに会うのは珍しい。

「本当はこの時間授業ないんだけど、朝ちょっと先生に用事あって」
「なるほど」
「晃太くんこそ、授業は?」
「俺は休講になっちゃって」
「なんだ、二人とも暇人か。なら食堂でおしゃべりしよーよ!」

 俺が返事をする前に、友里ちゃんはすたすたと食堂へ向かっていく。本当に、見た目にそぐわない強引さとサバサバ加減だ。俺は苦笑を浮かべながら友里ちゃんの後を追った。

「へへへー、普段のマサの様子聞いちゃお」

 友里ちゃんはご機嫌だ。何だかんだ、相思相愛なんだよなぁ、不思議なんだけど。特に吉田が愛されてる理由が。
 友里ちゃんの向かい側の席に座りながら、友里ちゃんを見てみる。他人の俺が見てもわかるくらい、彼女は吉田をちゃんと好きで。もちろん吉田も彼女のことが大好きで。その関係を、羨ましいと思ったこともある。調子に乗るから、吉田には口が裂けても言わないけど。でも、友里ちゃんになら、言ってもいいだろうか? 

「本当に、仲良いよね。吉田と」
「え、うん。仲良しだよ」
「羨ましいって言うか」
「そう? 照れちゃうな」

 友里ちゃんは頬を掻きながら笑う。俺はテーブルに肘をつきながら、友里ちゃんを見据えた。

「変なこと聞いていいかな」
「答えられることなら」
「友里ちゃんって、どんなときに相手のこと“好きだなぁ”って実感する?」
「え?」

 友里ちゃんはくりくりとした目をさらに丸くした。無理もないか。
 この気持ちは、恋なのか。今の俺の不安定な感情にけりをつけるためにも、聞いてみたかった。大切な人がいる人なら、わかる気がしたから。(ちなみに、一番身近な吉田は、きっと「always! いつでもだぜ!」とかろくでもない返事が来るからあてにしていない。)

「そうだなぁ……」

 友里ちゃんは顎に手をあてながら、小さく唸る。その様子を、俺はじっと見つめた。

「一緒にいるときは、結構いつも思ってるよ? 好きだな~って」
「そんな、アバウトな」
「そんなもんだよ。声聞いて、顔見て、ほっとして、“あ、好きだ”って」
「うーん」

 いまいち釈然としない顔の俺を見て、友里ちゃんはさらに付け加えた。

「あとは、笑顔を見たときとか。笑顔を見たいなって思ったときとか」
「笑顔?」
「うん、だって、一緒にいて楽しい時間を共有したり、共有したいなって思ったりするのは、好きだからじゃん?」
「そんなもんかな」
「そんなもんだよ」

 吉田なんか、年中へらへらしてるけど。それを嬉しいと感じるのは、やはり友里ちゃんが吉田を好きだからなんだろう。
 そして友里ちゃんは、左の手のひらを広げて見つめながら、ポツリと呟いた。

「あとは……愛されてるなぁって、実感するとき、かな」

 吉田とお揃いの、シンプルなシルバーリング。薬指にはめたそれを見ながら、友里ちゃんは照れ笑いを浮かべた。
 あぁ、確かに、この笑顔は可愛い、なんて思う。でも、友里ちゃんをこんな可愛い顔にしてるのは吉田で──吉田は幸せ者だ。
 しかし、前から思っていたことをポツリと漏らす。未来への気持ちの、小さな不安。

「……でも、愛されてるから好きって、都合よくないかな」
「……そうかなぁ。私はそうは思わないけど」

 独り言のつもりだったのに、友里ちゃんは返事をしてくれた。その返事に何て言っていいかわからなかったから、俺はこれ以上発言するのをやめて、苦笑いを浮かべた。


 * * *
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