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番外編
You become a cat
しおりを挟む「ただいまー」
土日はやっぱりバイトも忙しいなぁと思いながらの帰宅。体も心もクタクタだが、帰宅すれば未来が待っててくれていることを思えば、これくらいどうってことない。挨拶をしながら中に入ると、いつものように未来が仏頂面で「……おかえり」って言ってくれ──ない? おかしいな、今日は出かけるともなんとも言ってなかったはずだから、家にいるはずなんだけど。キョロキョロと家の中を見渡すと、予想だにしないことが俺を襲った。
「……って、え!?」
俺んちに、1匹の黒猫。いつも未来がいる座椅子の上でちょこんと座って、俺を見上げている。え? どういう状況?
「どこんちの猫だろ? 入ってきちゃったのかな……戸締り……」
見た限り、窓は閉まっているし、侵入経路といえば玄関ぐらいだと思うんだけど、さっき俺が鍵を開けたのだから、一緒に入ってきたってのはまずないよな。未来が連れてきた? だとしたらどうしてか聞いてみないと。そう思って、部屋の中を徘徊するも、いない。風呂にもいないし、トイレにも。
「えー……? 未来ー?」
「……ニャ」
「いや、お前じゃなくて……」
そう言いながら、足元の猫を見る。目は深いグリーンで、吸い込まれそうだ。黒い毛はツヤツヤとしていて、よく手入れされてるようにも見える。見た目もシュッとしていて、可愛いし、美人って感じ(メス、だよな?)。野良ではなさそうなんだけどな。猫って警戒心強いはずなのに、俺を見ても逃げないどころか、すり寄ってくる勢いだし。
「……いや、お前じゃない、よな?」
恐る恐る抱き上げてみる。するとその猫の首に、とても見覚えのあるものが。
「これ、俺があげたやつ……!」
その猫の首には、俺が初デートの時に未来にあげたブレスレットがしっかりと付いていた。猫の真正面にピンクの石があって、さながら首輪のようだけど、これは確かに俺があげたブレスレット。なんでこの猫がこれをしてるんだ!?
部屋の中を見渡すけど、やっぱり未来はいなくて。でも、この猫はいて……? 現実的ではないと思いつつ、俺の思考はそう固まってしまって、混乱する。いや、そんな、まさかだろ!? 俺は抱き上げていた猫を下ろし、震える手でスマホを操作して電話をかける。この部屋でコール。未来のスマホが机の上でブルブルと鳴る。っ、やっぱりなのか!?
未来はどこにも行ってない。スマホがここにあるんだから。でも、この部屋には猫が1匹いるだけで。見れば見るほど、その姿は、彼女と重なるような気がして──。
《もしもし?》
「吉田!? どうしよう未来が猫になっちゃった!」
《はぁ?》
「帰ったら未来がいなくて! 猫がいて! 未来のブレスレットしてる! この猫未来だよ!」
《電波って移んのかな~、やだな~俺にも移ったらどうしよう》
「俺は真面目だよ!?」
ワンコールで出た吉田はまともに取り合ってくれない。俺だって信じられないんだから、吉田が信じてくれないのも無理はないかもしれない。
「どうすればいいかな、人間に戻れるのかな!? あっ、病院行けばなんかわかるかな!?」
《お前が病院行け。以上》
「あっ、ちょ……」
切 ら れ た。吉田は頼りにならん! どうしよう、とりあえず未来を病院連れてかなきゃ……! ドタバタと未来を捕まえようとすると、さっきまですり寄ってきた未来はするりと俺から逃げる。
「あっこら、待って、未来!」
未来が玄関に向けて走ってしまう。行くな──
──ガチャ。
玄関の扉が開いて、未来の足取りが止まった。俺の足も止まった。人の足。ゆっくりと目線を上に上げると、不思議そうな顔をして俺を見下ろす、
「……未来?」
「……ただいま」
「……未来? 人間?」
「うん、人間」
「じゃあ、猫の未来は?」
「……猫の、私?」
首を傾げる未来の視線が、部屋の中の猫をとらえた。
「お留守番、出来たのね」
「……あの、未来。あの猫は」
「ベランダにいた。お腹空かせてるみたいだったけど、何をあげていいかわからなくて。慌ててごはん、買いに行ったの」
確かに未来の手には、コンビニで買ったと思しき袋があって、中には猫缶が透けて見えている。
「あのブレスレットは」
「ちゃんとお留守番できるように、お守り」
そう話しながら未来は、猫に近寄ってするりとブレスレットを外して、自分の腕につけた。やっぱりここにある方がしっくりくる、というような顔で、未来はブレスレットを眺めた。
「……俺、未来が猫になっちゃったかと思ったよ」
「ふふ、そんなわけないじゃない」
あ、珍しく未来が笑った。笑わせるつもりなんてなく、ただ事実を述べただけなんだけど、笑った。それだけなんだけど、なんだか無性に安心して、未来のことをぎゅっと抱きしめた。
「……晃太」
「びっくりさせないでよ、もう」
「……ごめんニャ」
「ぶっ……!」
猫になられるのは困るけど。これくらいなら、かわいいからよし。抱きしめたまま、未来の頭をそっと撫でて、あーよかった、と安堵した。
* * *
翌日、通りがかりの張り紙で、この猫が迷い猫だということが判明した。早速飼い主に電話をして、無事飼い主の元へ返したのだが。この話のオチは、この猫の名前が「みーちゃん」だったってことだ。その事実にひとしきり笑った俺は、みーちゃんがいなくなった今でも、たまに未来のことをみーちゃんと呼ぶ。そうすると未来は小さく「にゃー」と返してくれるのだ。このことはもはや、俺らの間でちょっとしたネタになっている。
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