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Give a gift to you
04
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バイトに追われていた間は余計なことを考えずに済んだけど、終わってしまえばそうともいっていられない。9時も過ぎて外はどっぷり暗い。“暗くなる前には帰す”と言っていたから、さすがに未来はもう帰っているだろう。“遅くなる”って旨の連絡はないし。
今までは、バイト終わりに未来からの連絡をチェックすることはまずなくて。家に帰れば未来が必ず仏頂面で「おかえり」って言ってくれてた。それが当たり前で、俺はそれに癒されていたんだ。でも、それが普通ではなくなった今、俺は確かにイラついている。携帯を持つことで、合鍵を持つことで、秘密が増えた。そして、携帯の画面越しでは未来の考えが一層見えない。それがたぶん、嫌なんだと思う。でも、未来が自由に出来ればって気持ちももちろん本物で、この二つの気持ちの間で俺は板挟みになっている。
プレゼントをあげる前と今とでどちらが未来にとっていいかなんて質問は愚問だ。だから、この苛立ちを俺がどうにか一人で丸め込めばいい。
『今から帰るね』
いつものようにメッセージを送る。メッセージが既読になったのを確認して、俺は歩き出した。
あ、晩御飯どうしよう。今日は忙しくて、賄いももらえなかった。うーん、家に何があったかな。野菜ならたくさんあるから、適当に炒めて野菜炒めにするかな。肉的なのってあったっけ……。
そんなことを考えていればすぐ家につく。家から程近い場所をバイト先に選んだのは正解だった。バックから鍵を取り出して、ガチャガチャと扉を開ける。……って、あれ? なんか、焦げ臭い? 臭いのもとは確かに俺の家からだった。漏れでている臭いは、何かが焦げたような臭い。
ちょっと待て、もしや、火事? それなら、通報……あれ、未来、さすがに緊急電話の番号はわかるよな? 教えてないけど……!
「未来ーーー!?」
慌てて部屋に入る。充満した臭いが外へ逃げていく。未来は!? いつもいるベッドの膨らみを探す。いない。トイレ、風呂、いない。じゃあどこへ!? 一周回って玄関に戻ろうとして、台所に人影を見つけた。普段絶対にそんなところに立たない人影だ。
「未っ……!」
「こんなはずじゃ、ない……」
「え?」
未来は、ガスコンロの前に立ち尽くしながら、何かを呟いた。未来の目の前には超強火にさらされたフライパン。その中身は黒くて見えなかったが、俺は急いで火を止めて換気扇を回した。
とりあえず、火事じゃなくて安心した。一段落してから、疑問が沸き上がる。未来はお嬢様だし、会ったときから料理はしたことないって言ってて、普段から料理は俺の担当で。そんな未来が台所にいるのも不思議だし、これは明らかに、料理を作ろうとして、失敗をしたあとだ。何があってこんなことになったのか、今の俺には見当がつかない。未来は力が抜けたようでへなへなと床に座り込んだ。
俺は立ち上がって辺りを見渡してみる。熱気にさらされてプスプス言ってるフライパン。真っ黒な塊が2つ。これって、もしや。
「……あのさ、未来。これって、もしかして、ハンバーグ?」
未来が小さく頷いた。作ろうとしていたものはわかった。じゃあ次は、未来が滅多にしない……というか、初めて料理をした理由が知りたい。
「晩御飯、作ろうとしたの?」
こくり。首を縦に振る。
「そんなの、俺が帰ったら作ったのに。待ちきれなかった?」
ふるふる。首を横に振る。
「じゃあ、どうして……」
「……だって、私、もらってばっかりだったんだもの」
「?」
今度は俺が首を傾げた。言葉の意図が読み取れず、次の言葉を待つ。
「合鍵、すごく、嬉しかったの。だから、私、晃太に何かプレゼント、したくて……」
確かに、プレゼントをあげたとき、未来はとても喜んでくれた。そんな風に思ってくれたなんて、思いもしなかった。
「友里ちゃんに、何あげたらいいかラインで相談したら、料理とかどうかって言われたから。だから、今日、料理のプロの晃太のバイト先で、いろいろ、教えてもらって」
「え……!」
「そのあと、友里ちゃんとお茶して、材料買って。晃太が帰ってくるまでに、完璧に作って、晃太のこと、驚かせるつもりだったのに……」
今日、バイト先にいた意味も。そそくさと気まずそうに目をそらした理由も。理解すると同時に、その事に対して腹を立てていたのが恥ずかしくなった。プレゼントなんてあげなきゃよかったなんてふてくされてたのも恥ずかしい。今まで俺が不信感を抱いていたのは全部、不器用な彼女からの、サプライズプレゼントだったのだ。きっとサプライズなんて企てたこともないだろう、未来からの。
こんなはずなかったって、仏頂面を悲しげに歪ませる。なんで、そんな、かわいいことすんの。胸が痛いくらい締め付けられる。ああ、もう……。
「未来、誰かのために料理するのって、初めて?」
俺が尋ねると、未来は首を縦に振った。まぁそうだろうな、と黒こげになった挽き肉を見て苦笑する。俺はまた立ち上がって、フライパンの中の黒こげをつまんで口に入れた。
「ちょ、晃太……!」
未来が俺を制止したが、気にしない。ガリ、と聞きなれない音がしたが、気にせず咀嚼する。うん、苦い。ごくりと飲み込むと、目を丸くした未来と目が合った。
「未来の手料理、しかも、初めての。もらっちゃった」
「……だって、そんな。こげたの……」
「未来からのプレゼントだもん、何だって嬉しいよ」
俺がそう言うと、未来は俺の服の裾をぎゅっと握った。照れてるのかな。わからないから、とりあえず腕を後ろに回して、頭をポンポンと叩く。服を握る力が強まったけど、抵抗はされない。
「ありがと、未来」
「……うん」
「今まで生きてきた中で貰ってきたプレゼントで一番嬉しい」
「……おおげさ」
「ほんとだもん」
プレゼントをもらって嬉しい、プレゼントを贈りたいって気持ちは、きっと二人とも同じなんだろう。お互いを思いあってるならなおさらだ。現に俺は今すごく嬉しいし、未来のことが、愛しい。
「本当にありがとね、未来」
「……うん」
未来は俺の胸に顔を埋めて、小さな声で答えたのだった。
* * *
『一人でスーパーに行ってくる
一時間しないうちに帰る』
あの日焦げたハンバーグを食べながら、心配するからせめて誰とどこへいくかは教えてほしいと告げた。カッコ悪い提案だったが、未来はなぜか嬉しそうにしていた。
それからは、こうして出掛ける前に連絡をくれる。何気ないメッセージなのに、口許が緩む。返事をしようと、とりあえずスタンプを眺めて選んでいると、珍しく、未来からもう一通メッセージが届いた。
『今日はカレー
一緒に作ろ』
少しだけ料理に前向きになった未来が待っている。そんな家に帰るのは、やっぱり前より楽しみなのである。
特別なことはなくても、ものをあげたり、貰ったり。形あるものじゃなくても、たくさんの幸せをあげたり、貰ったり。彼女が見たという未来まで、こんな日々が続いていくんだろう。
未来はカレー辛口かな、甘口かな。そんなことを考えたら、なんだかにやけてしまった。
今までは、バイト終わりに未来からの連絡をチェックすることはまずなくて。家に帰れば未来が必ず仏頂面で「おかえり」って言ってくれてた。それが当たり前で、俺はそれに癒されていたんだ。でも、それが普通ではなくなった今、俺は確かにイラついている。携帯を持つことで、合鍵を持つことで、秘密が増えた。そして、携帯の画面越しでは未来の考えが一層見えない。それがたぶん、嫌なんだと思う。でも、未来が自由に出来ればって気持ちももちろん本物で、この二つの気持ちの間で俺は板挟みになっている。
プレゼントをあげる前と今とでどちらが未来にとっていいかなんて質問は愚問だ。だから、この苛立ちを俺がどうにか一人で丸め込めばいい。
『今から帰るね』
いつものようにメッセージを送る。メッセージが既読になったのを確認して、俺は歩き出した。
あ、晩御飯どうしよう。今日は忙しくて、賄いももらえなかった。うーん、家に何があったかな。野菜ならたくさんあるから、適当に炒めて野菜炒めにするかな。肉的なのってあったっけ……。
そんなことを考えていればすぐ家につく。家から程近い場所をバイト先に選んだのは正解だった。バックから鍵を取り出して、ガチャガチャと扉を開ける。……って、あれ? なんか、焦げ臭い? 臭いのもとは確かに俺の家からだった。漏れでている臭いは、何かが焦げたような臭い。
ちょっと待て、もしや、火事? それなら、通報……あれ、未来、さすがに緊急電話の番号はわかるよな? 教えてないけど……!
「未来ーーー!?」
慌てて部屋に入る。充満した臭いが外へ逃げていく。未来は!? いつもいるベッドの膨らみを探す。いない。トイレ、風呂、いない。じゃあどこへ!? 一周回って玄関に戻ろうとして、台所に人影を見つけた。普段絶対にそんなところに立たない人影だ。
「未っ……!」
「こんなはずじゃ、ない……」
「え?」
未来は、ガスコンロの前に立ち尽くしながら、何かを呟いた。未来の目の前には超強火にさらされたフライパン。その中身は黒くて見えなかったが、俺は急いで火を止めて換気扇を回した。
とりあえず、火事じゃなくて安心した。一段落してから、疑問が沸き上がる。未来はお嬢様だし、会ったときから料理はしたことないって言ってて、普段から料理は俺の担当で。そんな未来が台所にいるのも不思議だし、これは明らかに、料理を作ろうとして、失敗をしたあとだ。何があってこんなことになったのか、今の俺には見当がつかない。未来は力が抜けたようでへなへなと床に座り込んだ。
俺は立ち上がって辺りを見渡してみる。熱気にさらされてプスプス言ってるフライパン。真っ黒な塊が2つ。これって、もしや。
「……あのさ、未来。これって、もしかして、ハンバーグ?」
未来が小さく頷いた。作ろうとしていたものはわかった。じゃあ次は、未来が滅多にしない……というか、初めて料理をした理由が知りたい。
「晩御飯、作ろうとしたの?」
こくり。首を縦に振る。
「そんなの、俺が帰ったら作ったのに。待ちきれなかった?」
ふるふる。首を横に振る。
「じゃあ、どうして……」
「……だって、私、もらってばっかりだったんだもの」
「?」
今度は俺が首を傾げた。言葉の意図が読み取れず、次の言葉を待つ。
「合鍵、すごく、嬉しかったの。だから、私、晃太に何かプレゼント、したくて……」
確かに、プレゼントをあげたとき、未来はとても喜んでくれた。そんな風に思ってくれたなんて、思いもしなかった。
「友里ちゃんに、何あげたらいいかラインで相談したら、料理とかどうかって言われたから。だから、今日、料理のプロの晃太のバイト先で、いろいろ、教えてもらって」
「え……!」
「そのあと、友里ちゃんとお茶して、材料買って。晃太が帰ってくるまでに、完璧に作って、晃太のこと、驚かせるつもりだったのに……」
今日、バイト先にいた意味も。そそくさと気まずそうに目をそらした理由も。理解すると同時に、その事に対して腹を立てていたのが恥ずかしくなった。プレゼントなんてあげなきゃよかったなんてふてくされてたのも恥ずかしい。今まで俺が不信感を抱いていたのは全部、不器用な彼女からの、サプライズプレゼントだったのだ。きっとサプライズなんて企てたこともないだろう、未来からの。
こんなはずなかったって、仏頂面を悲しげに歪ませる。なんで、そんな、かわいいことすんの。胸が痛いくらい締め付けられる。ああ、もう……。
「未来、誰かのために料理するのって、初めて?」
俺が尋ねると、未来は首を縦に振った。まぁそうだろうな、と黒こげになった挽き肉を見て苦笑する。俺はまた立ち上がって、フライパンの中の黒こげをつまんで口に入れた。
「ちょ、晃太……!」
未来が俺を制止したが、気にしない。ガリ、と聞きなれない音がしたが、気にせず咀嚼する。うん、苦い。ごくりと飲み込むと、目を丸くした未来と目が合った。
「未来の手料理、しかも、初めての。もらっちゃった」
「……だって、そんな。こげたの……」
「未来からのプレゼントだもん、何だって嬉しいよ」
俺がそう言うと、未来は俺の服の裾をぎゅっと握った。照れてるのかな。わからないから、とりあえず腕を後ろに回して、頭をポンポンと叩く。服を握る力が強まったけど、抵抗はされない。
「ありがと、未来」
「……うん」
「今まで生きてきた中で貰ってきたプレゼントで一番嬉しい」
「……おおげさ」
「ほんとだもん」
プレゼントをもらって嬉しい、プレゼントを贈りたいって気持ちは、きっと二人とも同じなんだろう。お互いを思いあってるならなおさらだ。現に俺は今すごく嬉しいし、未来のことが、愛しい。
「本当にありがとね、未来」
「……うん」
未来は俺の胸に顔を埋めて、小さな声で答えたのだった。
* * *
『一人でスーパーに行ってくる
一時間しないうちに帰る』
あの日焦げたハンバーグを食べながら、心配するからせめて誰とどこへいくかは教えてほしいと告げた。カッコ悪い提案だったが、未来はなぜか嬉しそうにしていた。
それからは、こうして出掛ける前に連絡をくれる。何気ないメッセージなのに、口許が緩む。返事をしようと、とりあえずスタンプを眺めて選んでいると、珍しく、未来からもう一通メッセージが届いた。
『今日はカレー
一緒に作ろ』
少しだけ料理に前向きになった未来が待っている。そんな家に帰るのは、やっぱり前より楽しみなのである。
特別なことはなくても、ものをあげたり、貰ったり。形あるものじゃなくても、たくさんの幸せをあげたり、貰ったり。彼女が見たという未来まで、こんな日々が続いていくんだろう。
未来はカレー辛口かな、甘口かな。そんなことを考えたら、なんだかにやけてしまった。
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