27 / 31
Give a gift to you
03
しおりを挟む
『今日
でかけてくる』
その日の授業が終わり、大学から直でバイトに向かおうとしていたところにメッセージを受信した。未来からだ。その短い文章に、なんと返すべきか迷って、とりあえず「了解!」のスタンプを押す。
携帯と合鍵を手にしてから、未来の生活はすこしだけ変わった。少しずつ、積極的に出掛けるようになったし、こうやって俺が帰る頃に家にいないだろう時には連絡をくれる。苦戦していたフリック入力にも慣れてきたようだ。(前はもっと単語単語でメッセージが来て、まるで暗号のようだった)。俺も今から帰る、とか今日はバイトで遅くなる、とか、今まで出来なかった連絡が出来るようになってとても楽だ。
だけど。いつもどこに出掛けてるのか、なんて野暮なことは聞いてないが、やっぱりちょっと気になってしまう。
「あ、晃太くん!」
俺が携帯片手に考え込んでいると、前から聞きなれた声がして顔をあげた。声の主──友里ちゃんはニコニコと俺に駆け寄ってくる。
「友里ちゃん。今から帰り?」
「んーん。次社会学とってるんだけど、出席票だけ出してこようかなって」
それすなわちサボりである。俺もよくやる手だから笑って過ごす。
「あ、ていうか! 未来ちゃんから聞いたよね? そういうわけだから、よろしくね!」
「え、ちょっと待って何を? ……って、あ」
よく見ると、友里ちゃんの左手には可愛いピンクのカバーがついたスマホ。まだ画面はついていて、先程までいじっていたのが分かる。
「あ、待って。わかった。そういうことか。どこか行くんだよね、二人で」
「そ。女子会女子会♪」
「女子会、かぁ。楽しんできてね」
携帯と合鍵のおかげで、未来がそれなりに楽しんでいるようで安心する。
「友里ちゃんの講義が終わったら行くの?」
「うん。未来ちゃんも今出先らしくて、とりあえず講義抜け出せたら連絡するねって送ったとこ」
「そっか」
未来、今も出掛けてるんだ。その話は俺、聞いてない。ちょっとだけモヤモヤする。未来が自由にしているのはいいことだ。それを逐一俺に報告する義理もないんだし、ここで俺がモヤモヤするのはお門違いっていうか。ああもう、俺、小さい!
「心配しなくても、暗くなる前にお返ししますよー。そんなコワイ顔しないで」
「え、」
思わず両手で顔を覆った。『コワイ顔』をしていた自覚はなかった。でも、指摘されたということは、そういうことなんだろう。
顔を覆ったのが図星だったからととられたようで、友里ちゃんはニヤリと笑った。
「あはは。私はマサにそんな心配されたことないからなんか新鮮」
「心配、っていうか……!」
「照れない照れない。じゃ、またね~」
友里ちゃんはヒラヒラと手を振って、小走りで建物の中に入っていった。……俺もバイトいかなきゃ。俺は友里ちゃんの見送ってから、ゆっくりとした足取りで歩き出した。道中、さっきのやり取りを思い返す。
俺のこの感情は、束縛なのだろうか。未来が自由に出来ればそれでいい、なんて余裕ぶってたけど、いざそうなって心配になってんのかな。なんだそれ、情けない。未来が今どこで何をしてるか知っておきたいだなんて、それって未来のこと信用してないってことか?
“私はマサにそんな心配されたことないから”と友里ちゃんは言っていた。確かに、吉田はそういうタイプではない。友里ちゃん可愛いし競争率高かっただなんて言っていたけど、束縛のその字もあいつには見えない。それはやっぱり、あの二人がお互いにお互いを信用してるからで。となるとやっぱり俺は、小さくて情けない、ソクバッキー?
考えれば考えるほど落ち込んできた。気持ちを切り替えよう。この件は、俺が少し大人になればいい話だ。今日帰ったら、未来に笑いながら「友里ちゃんから聞いたよ! 楽しかった?」なんて言えるくらいの余裕を持てば。
「おはよーございます……」
ボソボソと、店の引き戸を開ける。がらがらと立て付けの悪い戸が音をたて、その音に混じって聞きなれた声がした。
「あ、」
「え? ……未来?」
「あら晃太ちゃん、早かったのねぇ」
戸に背を向ける形でマネージャーと向かい合っていたのは紛れもなく未来だった。どうしてここへ? 出掛けてるって、俺のバイト先? なんで? もしかして、俺に会いに来てくれた?
いろんな疑問が頭を通り抜け、結局間の抜けた声でその名を呼ぶことしかできなかった。未来はと言うと、ばつが悪そうに視線を泳がせている。
「……あの、私、これで。失礼します」
「そうねぇ、また来てね」
「へ? あれ? 未来?」
俺に会いに来たんじゃないの? とも言えず、つかつかと俺の横を通りすぎる未来をただ呆然と見つめる。ピシャリと戸が閉まり、さっきの出来事がなかったかのように俺とマネージャーが取り残された。ここにいた理由の説明もなし?
「……えっと、マネージャー。未来は、どうしてここに?」
情けなくも、マネージャーに尋ねる。マネージャーは事も無げに、にこりと答えた。
「ご飯食べに来てくれたのよー。それで、私がつい長話しちゃって、引き留めちゃったのよねぇ」
「……そっすか」
ならそうだって、最初から言えばいいのに。あんな逃げるみたいに、出ていかなくてもいいじゃないか。それとも何か、俺に対して後ろめたいことがあったのだろうか。目も合わせてくれなかったし。小さなモヤが、モクモクと心に広がっていく。未来を信じたい気持ちが、そのモヤに覆い隠されていく。ただ急いでただけかもしれないけれど、さっきの対応はさすがに、ちょっと……。
「おら晃太ぁ! 辛気くせぇ顔してねぇでとっとと準備しろ!」
「わっ! ……すみません!」
ああもう。こんな思いをするのなら、携帯も、合鍵も、プレゼントなんかしなければよかった。そんな八つ当たりにも近いことを考えながら、店長に怒鳴られた俺は、慌てて店の奥へ走ったのだった。
その時呟かれたマネージャーの一言は、俺には届かなかった。
「余計な気を回さない方がよかったかしら……」
* * *
でかけてくる』
その日の授業が終わり、大学から直でバイトに向かおうとしていたところにメッセージを受信した。未来からだ。その短い文章に、なんと返すべきか迷って、とりあえず「了解!」のスタンプを押す。
携帯と合鍵を手にしてから、未来の生活はすこしだけ変わった。少しずつ、積極的に出掛けるようになったし、こうやって俺が帰る頃に家にいないだろう時には連絡をくれる。苦戦していたフリック入力にも慣れてきたようだ。(前はもっと単語単語でメッセージが来て、まるで暗号のようだった)。俺も今から帰る、とか今日はバイトで遅くなる、とか、今まで出来なかった連絡が出来るようになってとても楽だ。
だけど。いつもどこに出掛けてるのか、なんて野暮なことは聞いてないが、やっぱりちょっと気になってしまう。
「あ、晃太くん!」
俺が携帯片手に考え込んでいると、前から聞きなれた声がして顔をあげた。声の主──友里ちゃんはニコニコと俺に駆け寄ってくる。
「友里ちゃん。今から帰り?」
「んーん。次社会学とってるんだけど、出席票だけ出してこようかなって」
それすなわちサボりである。俺もよくやる手だから笑って過ごす。
「あ、ていうか! 未来ちゃんから聞いたよね? そういうわけだから、よろしくね!」
「え、ちょっと待って何を? ……って、あ」
よく見ると、友里ちゃんの左手には可愛いピンクのカバーがついたスマホ。まだ画面はついていて、先程までいじっていたのが分かる。
「あ、待って。わかった。そういうことか。どこか行くんだよね、二人で」
「そ。女子会女子会♪」
「女子会、かぁ。楽しんできてね」
携帯と合鍵のおかげで、未来がそれなりに楽しんでいるようで安心する。
「友里ちゃんの講義が終わったら行くの?」
「うん。未来ちゃんも今出先らしくて、とりあえず講義抜け出せたら連絡するねって送ったとこ」
「そっか」
未来、今も出掛けてるんだ。その話は俺、聞いてない。ちょっとだけモヤモヤする。未来が自由にしているのはいいことだ。それを逐一俺に報告する義理もないんだし、ここで俺がモヤモヤするのはお門違いっていうか。ああもう、俺、小さい!
「心配しなくても、暗くなる前にお返ししますよー。そんなコワイ顔しないで」
「え、」
思わず両手で顔を覆った。『コワイ顔』をしていた自覚はなかった。でも、指摘されたということは、そういうことなんだろう。
顔を覆ったのが図星だったからととられたようで、友里ちゃんはニヤリと笑った。
「あはは。私はマサにそんな心配されたことないからなんか新鮮」
「心配、っていうか……!」
「照れない照れない。じゃ、またね~」
友里ちゃんはヒラヒラと手を振って、小走りで建物の中に入っていった。……俺もバイトいかなきゃ。俺は友里ちゃんの見送ってから、ゆっくりとした足取りで歩き出した。道中、さっきのやり取りを思い返す。
俺のこの感情は、束縛なのだろうか。未来が自由に出来ればそれでいい、なんて余裕ぶってたけど、いざそうなって心配になってんのかな。なんだそれ、情けない。未来が今どこで何をしてるか知っておきたいだなんて、それって未来のこと信用してないってことか?
“私はマサにそんな心配されたことないから”と友里ちゃんは言っていた。確かに、吉田はそういうタイプではない。友里ちゃん可愛いし競争率高かっただなんて言っていたけど、束縛のその字もあいつには見えない。それはやっぱり、あの二人がお互いにお互いを信用してるからで。となるとやっぱり俺は、小さくて情けない、ソクバッキー?
考えれば考えるほど落ち込んできた。気持ちを切り替えよう。この件は、俺が少し大人になればいい話だ。今日帰ったら、未来に笑いながら「友里ちゃんから聞いたよ! 楽しかった?」なんて言えるくらいの余裕を持てば。
「おはよーございます……」
ボソボソと、店の引き戸を開ける。がらがらと立て付けの悪い戸が音をたて、その音に混じって聞きなれた声がした。
「あ、」
「え? ……未来?」
「あら晃太ちゃん、早かったのねぇ」
戸に背を向ける形でマネージャーと向かい合っていたのは紛れもなく未来だった。どうしてここへ? 出掛けてるって、俺のバイト先? なんで? もしかして、俺に会いに来てくれた?
いろんな疑問が頭を通り抜け、結局間の抜けた声でその名を呼ぶことしかできなかった。未来はと言うと、ばつが悪そうに視線を泳がせている。
「……あの、私、これで。失礼します」
「そうねぇ、また来てね」
「へ? あれ? 未来?」
俺に会いに来たんじゃないの? とも言えず、つかつかと俺の横を通りすぎる未来をただ呆然と見つめる。ピシャリと戸が閉まり、さっきの出来事がなかったかのように俺とマネージャーが取り残された。ここにいた理由の説明もなし?
「……えっと、マネージャー。未来は、どうしてここに?」
情けなくも、マネージャーに尋ねる。マネージャーは事も無げに、にこりと答えた。
「ご飯食べに来てくれたのよー。それで、私がつい長話しちゃって、引き留めちゃったのよねぇ」
「……そっすか」
ならそうだって、最初から言えばいいのに。あんな逃げるみたいに、出ていかなくてもいいじゃないか。それとも何か、俺に対して後ろめたいことがあったのだろうか。目も合わせてくれなかったし。小さなモヤが、モクモクと心に広がっていく。未来を信じたい気持ちが、そのモヤに覆い隠されていく。ただ急いでただけかもしれないけれど、さっきの対応はさすがに、ちょっと……。
「おら晃太ぁ! 辛気くせぇ顔してねぇでとっとと準備しろ!」
「わっ! ……すみません!」
ああもう。こんな思いをするのなら、携帯も、合鍵も、プレゼントなんかしなければよかった。そんな八つ当たりにも近いことを考えながら、店長に怒鳴られた俺は、慌てて店の奥へ走ったのだった。
その時呟かれたマネージャーの一言は、俺には届かなかった。
「余計な気を回さない方がよかったかしら……」
* * *
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる