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人形屋
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「……髪を、切りましょうか」
ようやく泣き止んだサラの頭をさらりと撫でながら、メデュナは言った。メデュナの白い手が髪を撫でていく。その刹那──小さな痛みが、頭に響いた。どこか懐かしい痛みだった。
「……髪を?」
そう言えば。ラジオでも、長い金髪が目印にされていた。これさえなければ、少しごまかせるかもしれない。きっとメデュナは、それをわかって言っているのだと思った。
「きっと短いのも似合うわ」
しかし、それを匂わせないようにメデュナは言った。その優しさを甘んじて受け止めながら、サラはこくりと頷く。
「やってみたかったの、ショートカット。ずっと、長いのを強要されてたから……」
長い髪の方がアレンジもできて目を引くから、とずっと髪を伸ばしてきた。しかし、最早その必要もないのだから、伸ばしていても仕方がない。
「私が切ってあげる。上手いのよ、私」
「うん」
「準備をするから待ってて」と言われ、言われた通り待った。
──さっきの痛みはなんだったのだろう。
あの痛みは、記憶を取り戻す時に感じた痛みだ。もう失った記憶は全部取り戻したはずなのに。
「……サラ、どうしたの? ぼーっとして。準備できたわよ」
「あっ……はい」
『──サラ』
呼ぶ声が、何かと重なった気がした。気のせいだったのかもしれない。人形たちが名前を呼んだのかもしれない。
ズキリ。また少しだけ、頭が痛んだ。
「ここへ座って。髪をとかすわ」
用意された椅子に座ると、ふわりと布を首にかけられる。メデュナは巻き込んだ髪の毛を外へ出すと、櫛を使って丁寧に髪をとかし始めた。
「……それにしても、綺麗な金髪よね。ちょっとだけ、切るの勿体無いって思っちゃう」
「あはは。メデュナさんが切るって言ったんでしょう」
頭が痛いのを我慢しながら笑い飛ばす。
『──あなたの髪は、私によく似て』
脳裏に響く声は、よく聞いた声だった。無機質だったその声が、今は少しだけ柔らかい。
「……っ、」
頭が痛い。顔を歪ませると、メデュナが心配そうに顔を覗き込んだ。
「サラ? どうしたの?」
「……大丈夫だから、続けて」
「……そう?」
メデュナは納得していないようだったが、覗き込むのをやめてまた髪をとかした。
『──サラ』
その声を、耳元に感じる。こんな風に髪をとかされるのは、初めてじゃない。
『──サラ、あなたの名前は──』
ハッとした。その瞬間、涙が零れ落ちたのがわかった。ようやく、全てが揃ったのだ。
記憶の一番奥。最後の一欠片。いままで忘れてしまっていた、大切なものだった。
どうして忘れてしまっていたのか。これだけは、忘れてはいけなかった。
「……サラ? 泣いているの?」
「メデュナさん……私、ようやく思い出したの」
「うん……何を?」
涙で濡れた頬を拭われながら、サラは懐かしむように、笑って見せた。
「私の名前ね、お母様がつけてくれたの」
その口で、この名を呼ぶために。生まれたその日に、与えてくれたもの。
──母が私に初めてくれたもの。
『いい名前だねぇ』
いつかの老紳士の人形を思い出す。今なら、胸を張ってその言葉を受け止められる。ありがとうと言える。
全てをなくしても、名前だけは失わずにここまで来た。それはきっと、少なからず、母から愛されていたからだと──
「……ええ。とても素敵な名だわ、サラ」
そう、信じたい。
ようやく泣き止んだサラの頭をさらりと撫でながら、メデュナは言った。メデュナの白い手が髪を撫でていく。その刹那──小さな痛みが、頭に響いた。どこか懐かしい痛みだった。
「……髪を?」
そう言えば。ラジオでも、長い金髪が目印にされていた。これさえなければ、少しごまかせるかもしれない。きっとメデュナは、それをわかって言っているのだと思った。
「きっと短いのも似合うわ」
しかし、それを匂わせないようにメデュナは言った。その優しさを甘んじて受け止めながら、サラはこくりと頷く。
「やってみたかったの、ショートカット。ずっと、長いのを強要されてたから……」
長い髪の方がアレンジもできて目を引くから、とずっと髪を伸ばしてきた。しかし、最早その必要もないのだから、伸ばしていても仕方がない。
「私が切ってあげる。上手いのよ、私」
「うん」
「準備をするから待ってて」と言われ、言われた通り待った。
──さっきの痛みはなんだったのだろう。
あの痛みは、記憶を取り戻す時に感じた痛みだ。もう失った記憶は全部取り戻したはずなのに。
「……サラ、どうしたの? ぼーっとして。準備できたわよ」
「あっ……はい」
『──サラ』
呼ぶ声が、何かと重なった気がした。気のせいだったのかもしれない。人形たちが名前を呼んだのかもしれない。
ズキリ。また少しだけ、頭が痛んだ。
「ここへ座って。髪をとかすわ」
用意された椅子に座ると、ふわりと布を首にかけられる。メデュナは巻き込んだ髪の毛を外へ出すと、櫛を使って丁寧に髪をとかし始めた。
「……それにしても、綺麗な金髪よね。ちょっとだけ、切るの勿体無いって思っちゃう」
「あはは。メデュナさんが切るって言ったんでしょう」
頭が痛いのを我慢しながら笑い飛ばす。
『──あなたの髪は、私によく似て』
脳裏に響く声は、よく聞いた声だった。無機質だったその声が、今は少しだけ柔らかい。
「……っ、」
頭が痛い。顔を歪ませると、メデュナが心配そうに顔を覗き込んだ。
「サラ? どうしたの?」
「……大丈夫だから、続けて」
「……そう?」
メデュナは納得していないようだったが、覗き込むのをやめてまた髪をとかした。
『──サラ』
その声を、耳元に感じる。こんな風に髪をとかされるのは、初めてじゃない。
『──サラ、あなたの名前は──』
ハッとした。その瞬間、涙が零れ落ちたのがわかった。ようやく、全てが揃ったのだ。
記憶の一番奥。最後の一欠片。いままで忘れてしまっていた、大切なものだった。
どうして忘れてしまっていたのか。これだけは、忘れてはいけなかった。
「……サラ? 泣いているの?」
「メデュナさん……私、ようやく思い出したの」
「うん……何を?」
涙で濡れた頬を拭われながら、サラは懐かしむように、笑って見せた。
「私の名前ね、お母様がつけてくれたの」
その口で、この名を呼ぶために。生まれたその日に、与えてくれたもの。
──母が私に初めてくれたもの。
『いい名前だねぇ』
いつかの老紳士の人形を思い出す。今なら、胸を張ってその言葉を受け止められる。ありがとうと言える。
全てをなくしても、名前だけは失わずにここまで来た。それはきっと、少なからず、母から愛されていたからだと──
「……ええ。とても素敵な名だわ、サラ」
そう、信じたい。
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