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互いの胸の内
しおりを挟む「こんなはずじゃなかった…」
「どうして、私がこんな目に…」
最近流行の恋愛小説は上記に似た台詞が多い。
それもそのはず。
現状この王都で流行っているのは下級貴族の下克上(?)をメインに取り扱った内容なのだから。
最新作!と謳われた作品を手にとっても書かれている内容はほぼ同じ。
下級貴族(大体男爵家だ)に養子入りした平民の娘が貴族学校に入学、そこで運命の出会いを果たすのがいわゆるオウジサマ。
惹かれ合う2人に"壁"として立ちはだかり、数々の嫌がらせをしてくるのがオウジサマの婚約者、通称悪役令嬢。
2人は彼女からの嫌がらせの数々を乗り越え、最終的にはそれらの証拠を手に断罪、オウジサマとの婚約破棄を行う。
晴れてしがらみの無くなったオウジサマと結ばれてハッピーエンド。
どの本をとっても大筋はこんなもの。
最初こそ周りの方々と騒いだりしたものの、私はもうすっかり飽きてしまっている。
それでも読むのはコレもまた社交に必要なものだからだ。
多くの友人達から勧められる作品を流し読みしては、次のお茶会の時に感想を言い合うのは、なんとも薄っぺらな社交だと思うけれど。
そんな作品の悪役令嬢たちが断罪された時に発するのが冒頭の台詞だ。
嫉妬に駆られたとはいえ、やる事はやっているのになにがそんなはずじゃ、なのか私には理解しかねる。
(…私でしたら、もっと上手く隠せますわね)
今じゃもっぱらこんなことを考えながら読んでいる。
しかし隠しすぎるとハッピーエンドにならないので作品としてはコレで良いのだろう。
そもそもそれまできちんと関係を築けていなかったからポッと出に横取りされるのである。
ゆるりと本を閉じ、窓の外を見ると見慣れた紋章の馬車が遠くに構えた門の近くに見えた。
「……ナタリー、少し身なりを整えてちょうだい。
これからお茶にするからキャシーは準備を。茶葉はとっておきを使ってちょうだいね」
侍女にそう告げて髪や服、メイクを整えてもらうと、ノックの音に続いて、初老の男性の声が響いた。
「お嬢様、よろしいでしょうか」
「えぇ、殿下がお見えになったのでしょう?すぐに降りるわ。」
そう告げるとナタリーに戸を引いてもらい部屋を出る。
「そろそろお見えになる頃だと思っていたの。このままお出迎えするわ。」
声をかけに来てくれた執事の了解を得てから、私は玄関ホールを目指し、玄関から見えない位置で立ち止まる。
殿下がホールへ入られるのを確認してから、私は階段へ向かった。
「殿下!いらしてくださったのですね!」
これは計算だ。こうすることによって慌てて出迎えたのだと思わせる動き。
「てっきりマリア子爵令嬢に会いに行かれるものだとばかり思っておりましたので…」
そう言って寂しげに笑って見せる。
「なにを申すかと思えば…
婚約者に会いに来るのは当然だろう?」
殿下は朗らかに笑ってこちらを見ている。
それに応えるように、私もパッと明るい笑顔を作ってみせた。
「ありがとう存じますわ。最近心無い噂が多いので、少し不安になっていたようです。
…早速ご案内致しますわね、こちらですわ。」
殿下を応接間にお通しし、キャシーに準備していたお茶を入れてもらう。
香り高い茶葉で淹れた甘めのミルクティは殿下のお気に入りだ。
お茶をいただいて一息ついたところで殿下が切り出した。
「ルイーゼ、余の婚約者はそなた以外に考えたことはない。マリアにはよく遊びに行くと言う城下の様子を聞いているに過ぎない。余はそこまで腑抜けてはいないから安心してほしい。」
「えぇ。理解はしているのですが、殿下がマリア令嬢とお話ししていると他者から聞くとやはり少し寂しくなってしまいまして…」
これでは婚約者として未熟ですわね、と付け加えると殿下は少し寂しそうな顔をする。
「そんなことはない。方々からそなたの優秀さは耳に入る。その能力は、将来の国母として役立ててほしいと父上、母上も望んでいるよ。」
「ありがとう存じますわ。…噂などに左右されず、皆様のご期待にお答えしなければなりませんね。」
そうして殿下との他愛のない会話を楽しむ。
全て計算通りだ。
流行りの小説には感謝しなければならない。
私の想像もしなかったことを教えてくれたのだ。
「学内では平等」という文言を笠に着る者の存在を。
まさかとは思ったが、入学前から出来る限り殿下のお心を汲み、親睦を深めて来た。
お互いを好きかどうかはわからないが、幼い頃から目標としてきた国母の地位を譲る気は毛頭ないからだ。
入学後、何かの拍子に子爵令嬢は現れ、事あるごとに殿下にアプローチをかけはじめた。
最初こそ面食らったものの、最近では高く鼻についた甘い声で話しかけている様を正直なところ滑稽だとも思う。
今日だって子爵令嬢が殿下にお誘いをかけるのを知っていた。
私は知っていてブッキングさせたのだ。
殿下の婚約者は私だと知らしめるために
あくまで先にお誘いをかけたのは私なのでなんの問題もない。
あとから子爵令嬢も同日に誘いをかけたと友人から聞いた私は、静かに悲しんだふりをして殿下にお伝えした。
殿下の御心のままに、と。
きちんと関係を築いていたおかげで、当然のように殿下はこちらへ赴く、と言うものだ。
こうしてきちんと捕まえておけば嫌がらせや断罪など起こるはずもない。
所詮は物語のみの世界だ。
「…あぁ、おかわりをご用意いたしますわ。キャシー、お願い。」
そうしてキャシーを振り返った私を見つめる殿下の表情を
私は見ていなかった。
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