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美緒編
モデルの彼女とのお話 第一話
しおりを挟む20代はじめごろの話。
どうにか派手な世界で働いてみたいと、学生ではあったが
メディア関連の色々なアルバイトを探しては、
日雇いのような形で働いていた。
今日話すのは、ある撮影現場で出会った
モデルの女性――竹崎美緒(たけざき みお)
との思い出話。
その現場はアルバイト情報誌で見つけたものだった。
テレビの撮影現場のADというか、お手伝いという仕事だ。
出演者のアテンドであったり、買い出しや現場の設置など、
もちろん気も使うが、肉体労働の側面も大きい。
しかも、朝早くから深夜まで仕事が続く。
いまでは考えられない就労環境だが、
当時はそれが当たり前という風潮だった。
幸い、「メディアに関わる現場で働きたい!」
というモチベーションのほうが
過酷さや苦しさを上回っていたこともあり、
我ながら一生懸命に、
気持ちを切らさずによく頑張っていたと覚えている。
そんな自分の態度を現場の責任者も見てくれていたようだ。
1回目は情報誌からの応募だったが、
次第に直接仕事を依頼してもらえるようになった。
そして、その責任者の人からある制作会社を紹介してもらい、
専属のアルバイトとなったのだった。
そして、その日はやってきた。
所属していた制作会社は、
イベントからテレビのロケ現場までとにかく幅広く対応していたのだが、
それぞれ毛色が微妙に違うこともあり、
自然と担当する分野が決まっていくような現場だった。
ちょうどあの出来事が起こったタイミングでは、
深夜テレビの収録サポートの仕事をしており、
ADとして現場に参加していた。
その番組はお笑い芸人やモデルが、
その日その日のテーマに沿ってトークをするという、
いわゆる深夜系の緩いバラエティー番組だったのだが、
そこに出演していた竹崎美緒が
関係者の間でちょっとした話題になっていた。
その話題というのが、
「打ち上げで美緒にお持ち帰りされた男性スタッフが辞めていく」
というものだった。
竹崎美緒は当時ファッション雑誌では
それなりに有名な人で、
グラビアアイドルなどもしていたぐらいなので、
顔もスタイルも整った人だった。
しかも、ジム通いが趣味というだけに、
とにかく引き締まったすごい体をしていると
自らネタにするような人でもあった。
さらに言えば、撮影終了後の打ち上げには必ず参加して、
びっくりするような量のお酒を飲むことは
目の前で見たこともあったので周知の事実なのだが、
とにかく酔った姿を見たことがないという酒豪っぷりだった。
加えて、いわゆるイケメンと言われるスタッフ男性を見つけると、
いつも横に座らせることでも有名だった。
そうして打ち上げが終わるとそのスタッフと夜の街に消えていくのだが、
どうやらそうして一緒についていった男性スタッフが、
もれなく翌日から職場に来なくなって、退職していく……。
そんな都市伝説めいた話が関係者の間で持ちきりになっていた。
なんとも怖い話ではあるが、
言ってみれば見た目が地味な自分には無縁な話だと、
どこか他人事と考えていた。
だが、その日の撮影終わりの打ち上げで
思いもよらぬ事態が発生したのだった。
その日は大物お笑い芸人が参加していたこともあり、
翌日の仕事が早いということで、
打ち上げは行きたい人だけで
こぢんまり行うことになった。
毎回ほぼ全員打ち上げに強制参加というような番組だったので、
「今日は早く帰れる!」とばかりに次々と出演者が帰っていく中、
美緒だけはスタッフに「打ち上げいくわよ!」と若干強めに声をかけていた。
もちろん自分もそれに巻き込まれることになったわけで、
結果、竹崎美緒と出演者のタレントの女性が1名、
あとはスタッフの男性が自分含めて4名だけで打ち上げをすることになった。
ディレクターからすぐに店を探すよう言われたので、
いつもお世話になっている店に片っ端から電話して、
なんとか1軒だけ個室に空きがあるお店を見つけることができた。
そうして、収録終わりで
ヘロヘロになっている状況で、
小規模ではあるがおそらく激しいことになる
打ち上げが行われるのだった。
ディレクターが店を確保できたことを参加者に伝えると、
美緒が先導するようにお店に向かうことになった。
なお、いつもはモデル事務所の
マネージャーさんが同行しているのだが、
こんな日に限って現場に来ていないという状況だったので、
出演者の皆様の雑用は下っ端の自分が
全部引き受けることになった。
あれを買っておいて、
これを用意しておいて、
こんな連絡をしておいてなど、
普段のマネージャーさんの苦労が偲ばれる状況ではあったが、
幸い、多くの現場をこなしてきた経験がここでは役に立ったようで、
どうにか各自の機嫌を損ねることなくお店に到着することができた。
お店に入って奥にある個室へと店員さんが案内してくれる。
出演者やディレクターなど先輩が部屋に向かったのを確認して、
店員さんにすぐに飲み物の注文を取りに行ってもらうようお願いした。
とにかく早く提供できるメニューを確認して、
いくつかを人数分早く運んでもらうよう店員さんに無理を聞いてもらい、
「一仕事終わったな」と部屋に向かった。
先ほど飲み物の注文をお願いした店員さんが、
手際よく参加者から注文を聞いてくれていた。
なお、自分の分のソフトドリンクは
先ほどお願いしておいたことは言うまでもない。
部屋の入口近くの端っこの席に気づかれないように座り、
続々と運ばれてくる料理をディレクターに渡しながら、
なんとか打ち上げの現場を整えることに注力した。
なんとか現場が整ってきたところで、
美緒が音頭を取っての乾杯となった。
その後は少人数ということもあり、
和気あいあいとした
和やかな雰囲気の打ち上げとなった。
まぁ、いつも以上に自分は
追加注文の確認などで走り回っていたため、
食べるも飲むもほぼできないまま
時間が過ぎていったのだが。
そんな中、テーブルでこんな会話が
されていたとは知る由もなかった。
「ねぇ、ディレクターさん。あの子……いろいろやってくれてる子っていつもいる子よね?」
「ああ、彼ですか。まだ大学生なんですよ。
アルバイトで応募してきたんですが、
動きがいいんで、専属でやってもらってるんですよ」
「ふ~ん。ああいう一生懸命な子って最近あんまり見ないから、
ちょっとかわいく見えちゃうわね」
「そうですか? 地味な見た目のやつですよ?
まぁ、ガッツはありますけどね」
「ふふふ。そういう感じがまたいいじゃない」
そうして打ち上げはあっという間にお開きの時間となった。
ディレクターから財布を預かって、
支払いを済ませようと伝票を持ってレジに向かった。
まぁまぁなお値段になっているのが
経費で出るというから、
やっぱりすごい世界だ。
会計が終わって領収書を書いてもらっていると、
背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「あら? お会計?」
振り向くと、竹崎美緒だった。
「はい。そろそろ個室の制限時間なので」
「そうなんだ。今日はこれで終わり?」
「ディレクターからはそう聞いてます」
「そっか、ちなみにこの後予定あるの?」
「いえ、今日は現場の片づけも終わっているので、このまま直帰です」
「ふ~ん、じゃ、ちょっと付き合わない?」
「えっ?! いや……出演者さんとご一緒というのは自分の判断では……」
「大丈夫よ。さっきディレクターには許可取ってあるから」
「そうですが……では……大丈夫です」
例の都市伝説がちょっと頭をよぎったが、自分の立場上、
ディレクターにまで話を通されていては断るわけにはいかなかった。
その後、領収書をもらって席に戻り、ディレクターにそれを渡しながら、
先ほど美緒から誘われた話をすると、
「お前なら地味だから何かあることもないだろうが、よろしく頼むよ!」
と、背中を何度か叩かれた。
一言余分なような気もしたが、
まぁ、言われてみれば都市伝説では
イケメンスタッフということだったので、
たしかにと納得する一言でもあったのは事実だ。
その後、ディレクターから最後の挨拶があって、
打ち上げはお開きとなった。
ディレクターがこの場で解散と告げたので、
それぞれ身支度をして店を出ていった。
美緒もそそくさと店を出ていった。
こういうときも最後に
忘れ物がないかなどを確認するのが
いつもの習慣となっており、
部屋の中を確認し終えて部屋を出た。
先ほどああいうお誘いはあったが、まぁ冗談だよな、
と店員さんにお礼を言って最後に店を出た。
周りを見渡して誰もいないことを確認して、
「うーん!」と背伸びをしたところで、
背後から声をかけられた。
「えらい、えらい。最後の忘れ物の確認までやっていたの?」
声の主は竹崎美緒だ。
「はい。現場入り始めたころから習慣になっているので」
「ふ~ん、そういうのを自然とできるのって一種の才能だよ」
「そんなことないですよ。現場のお手伝いに入れてもらってる身ですから当たり前のことです」
「やっぱり面白い子だねぇ。さて、じゃ、行くよ」
「はい」
まさか本当にこの後一緒に行くことになるとは。
全く予想していなかった展開に、
なにかが起こる期待のドキドキではなく、
不安からくる胸騒ぎを感じながら
彼女の後ろをついていくのだった。
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