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乙女心ですわ
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その日は邸内の案内どころではなくて。
腰を抜かした私は、ニコニコと上機嫌に微笑むオーウェンの隣で休憩しながらお茶を出され、立てるようになると「お邪魔しましたわっ」と言って引き止める声もそのままに一目散に自邸へと逃げ帰ってきたのだった。
「お嬢様、如何なされました?」
「何でもなくはないけどないの」
「……婚約者様ですか?」
「なっっ何でわかるの?!」
ベッドへとダイブして丸まっていた私は、シェリの言葉に跳ね起きるように身を起こした。
「それ以外何かありましょうか?」
スケジュールも把握するシェリには、全てお見通しらしい。
またもや唸ってベッドへ逆戻りした。
「何かお悩みでも?」
「………………どうしていいか、わからないだけなのよ」
「いつも通りでよろしいのではございませんか?」
「いつも通り……がわからないと言うか……何かいつも通りにしたいのに、オーウェン様が何というか……甘いと言うか……」
ゴニョゴニョと言葉尻を濁した私に、シェリは「あらまぁ」と小さく呟いてゆっくりとベッドの側まで近づいてくる。
「婚約者様もお嬢様と婚約できた事が嬉しいのでしょう。受け止めて差し上げたら良いのでは無いでしょうか?」
「事故みたいな婚約だったのに?」
「どんな状況でも関係ございませんよ。婚約者様は結果としてお嬢様と婚約できたことに、喜びを感じておられるのです」
シェリの言葉に、オーウェンの眼差しや、手の温もり落とされる口付けを思い出してしまう。
まただ、勝手に頬が熱を持つってしまうっ!
……たしかに喜んで……は居るのかしら。
「……何で、かしら」
頬を押さえながら呟く。
「婚約者様は何も仰っておられなかったのですか?」
「何かって」
そう言えば噴水公園で、オーウェンが何か言いかけていた事を思い出した。
途中で噴水の中から殿下が現れると言う予想外な出来事に見舞われて、有耶無耶になっていけれど。
オーウェンは、何て言ってたかしら?
『偶然とはいえ、婚約者に選ばれた事、とても嬉しく思っているんだ』
そう、嬉しく。嬉しかったのね…良かったわ。
『11年前に辺境に戻ってから、気づいた事があったんだ。でも……言えなかった』
『君が婚約してしまったから』
『運命を呪ったくらいだ。はっきり自覚したのはもう少し先だったけど』
『諦めてしまわなくて本当に良かった』
『アデレイズ……俺、ずっとお前の事が』
私のことが?何かしら。
またあの時のように心が期待と不安に揺れる。
「……期待したいのかしら私?」
「前婚約者様があの様でしたから、男慣れしていないお嬢様にとっては戸惑いが大いにあるかと思います。けれど期待したいのでしたら、逃げてばかりでは女が廃ってしまいますよ」
「お、女が廃る?」
「そうでございます」
シェリは私の頭を優しく撫でた。
「女は受け入れて、何なら手の上で転がすくらいでないと。奥様の様に」
「ふふ、たしかにお父様は転がされているわね」
私は仲睦まじくも、お母様の尻に敷かれているお父様の姿を思い出して笑みをこぼした。
でも魔王を転がすのは、無理じゃ無いかしら?
「夕食の準備を確認して参ります」と言ってシェリが下がっていった。扉が閉まる瞬間につぶやいた言葉は、私の耳には届かなかった。
「まだ伝えられていないとは……存外ヘタレですね」パタン
腰を抜かした私は、ニコニコと上機嫌に微笑むオーウェンの隣で休憩しながらお茶を出され、立てるようになると「お邪魔しましたわっ」と言って引き止める声もそのままに一目散に自邸へと逃げ帰ってきたのだった。
「お嬢様、如何なされました?」
「何でもなくはないけどないの」
「……婚約者様ですか?」
「なっっ何でわかるの?!」
ベッドへとダイブして丸まっていた私は、シェリの言葉に跳ね起きるように身を起こした。
「それ以外何かありましょうか?」
スケジュールも把握するシェリには、全てお見通しらしい。
またもや唸ってベッドへ逆戻りした。
「何かお悩みでも?」
「………………どうしていいか、わからないだけなのよ」
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「いつも通り……がわからないと言うか……何かいつも通りにしたいのに、オーウェン様が何というか……甘いと言うか……」
ゴニョゴニョと言葉尻を濁した私に、シェリは「あらまぁ」と小さく呟いてゆっくりとベッドの側まで近づいてくる。
「婚約者様もお嬢様と婚約できた事が嬉しいのでしょう。受け止めて差し上げたら良いのでは無いでしょうか?」
「事故みたいな婚約だったのに?」
「どんな状況でも関係ございませんよ。婚約者様は結果としてお嬢様と婚約できたことに、喜びを感じておられるのです」
シェリの言葉に、オーウェンの眼差しや、手の温もり落とされる口付けを思い出してしまう。
まただ、勝手に頬が熱を持つってしまうっ!
……たしかに喜んで……は居るのかしら。
「……何で、かしら」
頬を押さえながら呟く。
「婚約者様は何も仰っておられなかったのですか?」
「何かって」
そう言えば噴水公園で、オーウェンが何か言いかけていた事を思い出した。
途中で噴水の中から殿下が現れると言う予想外な出来事に見舞われて、有耶無耶になっていけれど。
オーウェンは、何て言ってたかしら?
『偶然とはいえ、婚約者に選ばれた事、とても嬉しく思っているんだ』
そう、嬉しく。嬉しかったのね…良かったわ。
『11年前に辺境に戻ってから、気づいた事があったんだ。でも……言えなかった』
『君が婚約してしまったから』
『運命を呪ったくらいだ。はっきり自覚したのはもう少し先だったけど』
『諦めてしまわなくて本当に良かった』
『アデレイズ……俺、ずっとお前の事が』
私のことが?何かしら。
またあの時のように心が期待と不安に揺れる。
「……期待したいのかしら私?」
「前婚約者様があの様でしたから、男慣れしていないお嬢様にとっては戸惑いが大いにあるかと思います。けれど期待したいのでしたら、逃げてばかりでは女が廃ってしまいますよ」
「お、女が廃る?」
「そうでございます」
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「女は受け入れて、何なら手の上で転がすくらいでないと。奥様の様に」
「ふふ、たしかにお父様は転がされているわね」
私は仲睦まじくも、お母様の尻に敷かれているお父様の姿を思い出して笑みをこぼした。
でも魔王を転がすのは、無理じゃ無いかしら?
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「まだ伝えられていないとは……存外ヘタレですね」パタン
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