深紅に浮かぶ月

来条恵夢

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第四章

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結花ユイカ
 少し考えてから、潦史ラオシつぶやくように名を呼んだ。結花なら地界ちかいも行き来できたはずで、来てもらえばはっきりするだろうと思ってのことだ。潦史の言葉が耳に届いたらしい少女は、首をかしげた。何か言いかけたようだが、存在の希薄な結花の出現に口を閉じる。
 思いがけないところに呼び出された結花は、きょとんとして潦史と史明を見た。先程のことを引きずってはいない様子にそっと安堵の息を吐く。
道君ドウクン…? 何故地界に?」
 不思議そうな様子だが、結花が自分の位置を間違えることはない。ここが地界なのは間違いないらしい、と潦史は心中で呟いた。そこでふと、目を丸くしている史明を視界のはしとらえた。
「結花、この人、史明。調査に付き合ってくれてる物好き」
「お噂はかねがね。ご迷惑ばかりおかけすると思いますが、道君をよろしくお願いします」
「あ、いや、こちらこそ…?」
「でさ、すげー間抜けなことくけど、俺らってまだ死んでないよな?」
 結花は驚いたようにまばたきを繰り返し、声もなく、こくりと頷いた。
 そうすると、何故ここにいるのかということになる。結花たちならともかく、神仙しんせんでも、かいを超えるのは手間だ。道士どうしの潦史も毎回それなりに苦労している。その上、史明はただの人のはずなのだが。
 潦史が顔をあげると、少女が結花を興味深そうに見ていた。今にもつつき出しそうだ。幾分いくぶん慌てて言葉をかける。
「結花。俺たち、どうしてここにいるか判らないんだけど。原因とか戻る方法とか、わかるか?」
 界を自在に行き来できる結花は、わずかに眉をひそめた。人が通れるほどの穴があるとなると、色々と厄介になってくる。結花は少しの間目を閉じて、各界の間にある「壁」を探った。
「穴があります。あそこに…消え、ました…」
 唐突な消滅に、結花は驚いたようなほうけたような、途方とほうに暮れた口調と表情でげた。今度は潦史の方が眉をひそめるが、結花はただ首を振る。
「調べてきます。すみません、しばらく待っていてください」
 あわただしく姿を消してしまった結花に、潦史は思わずうなった。
 常に微笑ほほえみながら見守ってくれているような結花が慌てるほどに、前例のないことなのだろうか。何か、厄介な事態らしい。潦史は、半ば呆気にとられてそう考えた。
「あの美人さんは何者?」
 少女のふくみのある声に、振り返って、思わず飛嵐ヒランに手を伸ばしていた。隣で、史明も身構えている。
只人ただびとではないようね。好都合だわ」
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