台風の目(仮)

来条恵夢

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 それなら、と、シュムは無邪気に、かつのんびりとした言葉を選ぶ。反感は買わないように、少々の無知を装って。 
「お客さんの少ないときで良かったですね。何も、今の時期を狙わなくてもいいのにとは思うけど」 
「うちではそう悠長なことも言ってられなくてねえ…。早く捕まえないと、客が寄り付かなくなっちまうよ」
「そうか…大変ですね」 
「ああ。…それを飯の種にしてるって言うなら…ちょっと、捕まえてもらえないかい?」 
 かかった、と思う。 
 少しくらい動きたい気分だが、そのときに何かあった場合、自分から言い出したのと相手から言い出したのとでは、対応に差が出る。
 騒動にしたいわけではないが、大雑把な性格故に、なかなか捕まらないという覗き魔を相手に、大立ち回りということも考えられる。そのときの責任を全て負うのはごめんだ。 
 そういったところ、シュムは狡猾だ。ただ、セコイだけともいえる。 
「いいけど、仕事になりますよ?」 
「……いくらだい?」 
「うーん。そうだなあ…覗きの退治なんだし、そう取るのも。…そうだ、ここ泊まってる間のご飯ただってのは? あたしと連れの分。それと、ちょっと何か壊すとかしても見逃して欲しいんだけど。それでもいい?」
「…」 
 シュムたちがよく食べることが既に知られているためか、考え込んでいる。 
 温泉で収入があるといっても、他の村よりもいくらか裕福な程度で、やはり税でごっそりと持っていかれるのは変わらないのだ。それに、どのくらい逗留するのかもわからない分、不安にもなるだろう。 
「ああ、飲み分は抜いてもらっていいですよ。食べる分だけ。失敗したら報酬は当然なしでいいけど、損害分はそっちでよろしく。というあたりで。どうします?」 
「そうだねえ…」 
「腕が心配なら、知り合いを紹介しようか? ちょっと、時間とお金かかるけど」 
 まだ少し迷う素振りを見せる主人に、害意も含みもないように聞こえるように、しかし承諾してもらえるように言う。これで紹介してくれと頼まれたなら、面倒だが本当に誰かを呼ぶだけのことだ。 
 剣ひとつで世間を渡り歩いたり、何でも屋のようなことをしていたりという知人は多い。
 街中の酒屋に剣を引っ提げて入れば、何人かはちょっかいをかけて来る。そこで実践の剣技でも披露すれば、知り合いを作るのは比較的簡単だ。 
 主人は、探るようにシュムを見て、小さく息を吐くと、少しだけ笑顔を見せた。 
「とりあえず、あんたがやってみてくれないかい?」 
「じゃあ、きまり。契約書作るから、ちょっと待ってくださいね」 
 商談成立。 
 こうして、シュムは嬉々として温泉へ向かうのだった。
 その際、ふと思いついて、一旦宿を出た。
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