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探索
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今では、人型は入口から大分離れ、シュムは壁際に追いつめられそうになっていた。一度に飛びかからず、ゆらゆらと揺れるようにして距離を縮める。もしくは、俊敏には動けないのか。
上階からは、反射的な了解の声と、それに続く呻き声とが聞こえた。
「なんだってそいつが…」
「手だよ。きっとね。処分し忘れてた」
「いいわよ!」
ミーシャの呼び声に、シュムは、身を沈めて人型の横をすり抜けた。人型がねっとりとした手を伸ばしたが、シュムには追いつかなかった。そうして、誘導されて再び入り口に向かう。足の形に腐る石畳が残った。
これはあの男の手だと、シュムは確信していた。手かどうかはともかく、あの男だということはカイも同じ意見だろう。
あの男が残したものといえば、おそらくは、あのとき手枷に残した両手だけだ。屋敷を焼き払わずにいたことに、シュムは今更ながら気付いたのだった。
同族喰らいには、どんな油断も命取りとなるというのに。
おそらくは、シュムたちがこちらに戻ったときについてきたのだろう。そうして、人を取り込んで、シュムの――「ごちそう」の匂いを追ってここまできた。手だけのそれに、残っているのは少しでも生き長らえるという本能だけだろう。それには、まずは動ける体と、それに伴って能力を取り込み、強くなる必要があった。
――ここに来るまでに喰われただろう人々を思うと、気が重い。
「これでいいんでしょ?」
戸口に立ったミーシャが、気軽に声をかける。
通りには、誰もいない。窓から覗く顔もない。強い術の気配に、それが何かは見定められないが、報酬の多さを思って、シュムは軽く溜息をついた。
「何よ、不満?」
「いいや、ありがとう」
頬を膨らませるミーシャに軽く肩をすくめて言うと、にこりと笑う。途端に返ってきた報酬を期待する笑顔に、変わりないなと、妙におかしくなった。
完全に宿を出た人型に向かい合って、剣を構える。
「カイ!」
「わかってる。どっちに?」
「両方」
戸口に姿を見せたカイは、火球を二つ作り慎重に、人型と、シュムの持つ剣とに投げつけた。
火のついた人型は暴れ狂い、消そうと必死になった。そもそも生物の体は燃えにくいのだが、カイの放った火は高温なので、じりじりとだが確実に焼いていく。逃げようにも、他にも炎を出して牽制するカイと、剣に炎を纏ったシュムに妨害される。
通常の剣であれば、とっくに高温の火に耐えきれず、墨と化していただろう。シュムは、毎度のことながら、この剣を与えてくれた師に感謝した。
そうして、あるいは最後に取り込もうとしたのか、すがるように伸ばされた手を、炎を纏わせた剣で払いのけた。切り捨てて妙なところにいかれても困るので、剣は、盾のように、近付けないために使われた。
全てが灰になるまでに、それでもしばらくかかった。
上階からは、反射的な了解の声と、それに続く呻き声とが聞こえた。
「なんだってそいつが…」
「手だよ。きっとね。処分し忘れてた」
「いいわよ!」
ミーシャの呼び声に、シュムは、身を沈めて人型の横をすり抜けた。人型がねっとりとした手を伸ばしたが、シュムには追いつかなかった。そうして、誘導されて再び入り口に向かう。足の形に腐る石畳が残った。
これはあの男の手だと、シュムは確信していた。手かどうかはともかく、あの男だということはカイも同じ意見だろう。
あの男が残したものといえば、おそらくは、あのとき手枷に残した両手だけだ。屋敷を焼き払わずにいたことに、シュムは今更ながら気付いたのだった。
同族喰らいには、どんな油断も命取りとなるというのに。
おそらくは、シュムたちがこちらに戻ったときについてきたのだろう。そうして、人を取り込んで、シュムの――「ごちそう」の匂いを追ってここまできた。手だけのそれに、残っているのは少しでも生き長らえるという本能だけだろう。それには、まずは動ける体と、それに伴って能力を取り込み、強くなる必要があった。
――ここに来るまでに喰われただろう人々を思うと、気が重い。
「これでいいんでしょ?」
戸口に立ったミーシャが、気軽に声をかける。
通りには、誰もいない。窓から覗く顔もない。強い術の気配に、それが何かは見定められないが、報酬の多さを思って、シュムは軽く溜息をついた。
「何よ、不満?」
「いいや、ありがとう」
頬を膨らませるミーシャに軽く肩をすくめて言うと、にこりと笑う。途端に返ってきた報酬を期待する笑顔に、変わりないなと、妙におかしくなった。
完全に宿を出た人型に向かい合って、剣を構える。
「カイ!」
「わかってる。どっちに?」
「両方」
戸口に姿を見せたカイは、火球を二つ作り慎重に、人型と、シュムの持つ剣とに投げつけた。
火のついた人型は暴れ狂い、消そうと必死になった。そもそも生物の体は燃えにくいのだが、カイの放った火は高温なので、じりじりとだが確実に焼いていく。逃げようにも、他にも炎を出して牽制するカイと、剣に炎を纏ったシュムに妨害される。
通常の剣であれば、とっくに高温の火に耐えきれず、墨と化していただろう。シュムは、毎度のことながら、この剣を与えてくれた師に感謝した。
そうして、あるいは最後に取り込もうとしたのか、すがるように伸ばされた手を、炎を纏わせた剣で払いのけた。切り捨てて妙なところにいかれても困るので、剣は、盾のように、近付けないために使われた。
全てが灰になるまでに、それでもしばらくかかった。
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