台風の目(仮)

来条恵夢

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居残

1-2

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「――いるのはミハイルだけだと思っていたが?」 
「そんなことは、一言たりとも申し上げておりません」 
「そうか、そうかもしれないな? しかし、こんなものがいるとも一言も言わなかっただろう! そのくらいは言っておくのが筋というものじゃないか!」 
「害はありませんよ」 
「害の有無は関係ない! そうじゃないだろ! これがまだいるってことは、誰かが――いや、この場合はお前しかいない! お前がこれと契約したってことだろう! 違うか? 違うなら今ここで申し開きをしてみろ!」 
「必要ありません。その通りです、陛下」 
 あくまで淡々と、告げる。 
 その様子に、ジェイムスは逆上した。羽織っていた上着を脱ぎ捨てて、エバンスの顔目掛けて投げつける。 
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、まさかここまで馬鹿だとは思わなかったぞ! 俺はお前を、そんな風に育てた覚えはない!」 
「少しは落ち着いて…」 
「落ち着けるか、この最上級の大馬鹿! お前よりよほど、クツァの方が賢い!」 
 クツァとは、城で飼っている子豚のことだ。庭師の子供が、気まぐれに名づけたものだ。 
「ッ、馬鹿馬鹿って、あなたの方がよほどの大馬鹿者です! 臣下と息子と、どっちが大切だというのですか!」 
「お前は臣下じゃなくて俺の弟だ!」 
「だからそれは」 
「お前一人で納得して、片付いたなんて思うなよ!? いつだってお前はそうだ! 皿割ったからって庭に埋めて、証拠隠滅したつもりでも、皿が一枚減ったのには変わりないんだからな! しかも埋めたところが浅くて、雨が降ったらばれたじゃないか!」 
「そんな昔の…ッ。だったら言わせてもらいますがね、兄上だっていつも、城を抜け出すときに穴を塞ぐのを忘れてたじゃないですか。おかげで、兄上がいつ町に出てるかなんて、馬丁だって知ってましたよ。思慮が足りないのはどっちですか」 
「なんだと?! 夜に雷が怖いって泣いてたのはどこのどいつだ!」 
「そっ…そんなこと、どこにどう関係してくるんですか!」 
 いつの間にか肩書きも飛び、恥のさらし合いのような兄弟喧嘩へと発展している。始めから、音が外に漏れないように術をかけていたのが、救いと言えば言えるだろう。 
 しかし、部屋の中にいれば関係はなく。 
「…母上、呼んできた方がいいかな…?」 
「それよりも、仲裁に入ればいいだろう」 
「僕の声なんて聞こえないから、きっと」 
 一人は途方に暮れ、もう一方はうるさそうに眉をひそめているのだった 。
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