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居残
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おずおずと姿を見せた少年は、年の割には背が低く、瞳の色が鳶色だという点を除けば、幼い頃のジェイムスにそっくりだった。瞳の色は、母のアンジーから受け継いだのだろう。
立ち上がってにこりと笑いかけ、先程まで自分が座っていた椅子を勧める。この部屋には、他に椅子はないのだ。寝台にアルと並んで座ることもできないではないが、エバンスは入り口の扉を背に、軽くよりかかった。
「違いはわかりましたか?」
ジェイムスとの不毛な口論を止め、部屋から追い出した後、一緒に追い出されることになったミハイルは不満そうにエバンスを見上げたのだった。
『僕が喚び出したのに』
『――これが私の契約書で、これがあなたの契約書です。違いがわかっても文句があれば、遠慮なく仰ってください』
そう言って、エバンスはミハイルを送り出した。勿論、契約書には、手が加えられないように細工がしてある。
ミハイルは、まず二枚の契約書を返して、首を振った。
「無理だよ。しばらく、書庫には入れないって言われちゃったし」
「まあ、無難なところでしょうね。それで、私に訊きに来たのですか?」
「叔父上は、読めるのでしょう?」
ちらりと、寝台の方を見る。赤い眼と視線が合ったが、まじまじと興味深そうに見つめ返している。恐れを知らないのは、この場合、無知だからだろうか。
「読めますよ。この文字も読めずに魔物と契約を結ぼうなどと、死にたがっているとしか思えない行為ですからね」
むっとしたように、ミハイルが顔をしかめる。
エバンスは、返された契約書をミハイルが見られるように差し出して、契約者名を入れる部分の上の辺りを指し示した。
「この部分、字が違うことはわかりますね? 僕の方は三月となっていて、あなたの方は残り全てとなっています。その上」
今度は、別の箇所を指さす。
「あなたの方には、交換条件が書かれていない。つまりは、無償で命を差し出すところだったのですよ」
少年は血の気の引いた顔で、大げさに言っているのではないかと探るように、叔父を見た。エバンスは、にこやかな笑みを浮かべたままその視線を迎え撃つ。何ら、嘘は言っていない。
立ち上がってにこりと笑いかけ、先程まで自分が座っていた椅子を勧める。この部屋には、他に椅子はないのだ。寝台にアルと並んで座ることもできないではないが、エバンスは入り口の扉を背に、軽くよりかかった。
「違いはわかりましたか?」
ジェイムスとの不毛な口論を止め、部屋から追い出した後、一緒に追い出されることになったミハイルは不満そうにエバンスを見上げたのだった。
『僕が喚び出したのに』
『――これが私の契約書で、これがあなたの契約書です。違いがわかっても文句があれば、遠慮なく仰ってください』
そう言って、エバンスはミハイルを送り出した。勿論、契約書には、手が加えられないように細工がしてある。
ミハイルは、まず二枚の契約書を返して、首を振った。
「無理だよ。しばらく、書庫には入れないって言われちゃったし」
「まあ、無難なところでしょうね。それで、私に訊きに来たのですか?」
「叔父上は、読めるのでしょう?」
ちらりと、寝台の方を見る。赤い眼と視線が合ったが、まじまじと興味深そうに見つめ返している。恐れを知らないのは、この場合、無知だからだろうか。
「読めますよ。この文字も読めずに魔物と契約を結ぼうなどと、死にたがっているとしか思えない行為ですからね」
むっとしたように、ミハイルが顔をしかめる。
エバンスは、返された契約書をミハイルが見られるように差し出して、契約者名を入れる部分の上の辺りを指し示した。
「この部分、字が違うことはわかりますね? 僕の方は三月となっていて、あなたの方は残り全てとなっています。その上」
今度は、別の箇所を指さす。
「あなたの方には、交換条件が書かれていない。つまりは、無償で命を差し出すところだったのですよ」
少年は血の気の引いた顔で、大げさに言っているのではないかと探るように、叔父を見た。エバンスは、にこやかな笑みを浮かべたままその視線を迎え撃つ。何ら、嘘は言っていない。
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