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居残
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「誰が連れていくと言った?」
自室の隣に用意したアルの部屋に飛び込み、わめかないように押し殺した声は地の底から上るようで、後を追ってきていたミハイルが身を竦めたのがわかった。
「ここに残ってもらうと、はっきり言ったはずだが。どこをどう曲解しても連れて行くなんてならないように、はっきり明確に言ったつもりだったが?」
「聞いたけれど、肯きはしなかった」
「それなら、封印でもしていってやろうか?」
「…目が据わっているよ」
無言で睨む。
契約期間内に戻れるかどうかはわからず、それは多少残念だったが、物騒な旅連れを持つよりも――エバンスは、決してシュムのようにはなれないという確信があった――、契約期限が切れるまでは他者と契約をしないようにという契約をして城内においていった方が安全と、そう考えた。師たちに頼んで、城内での生活も不便がないよう取り計らうつもりでいた。
しかしアルは、あっさりと肩をすくめた。
「そんなに問題はないだろう。お前も、契約通りに話も聞けるのだし、むしろいいことばかりではないのか? 契約は結べなくとも、多少のイタズラはできるのだしな。厄介事は厭だから、姿だって変える。悪くない話だと思うが」
「――ミハイル様」
「は、はい」
「これ以上の厄介は御免です。よろしいですね?」
「…はい」
気圧されてか、今度ばかりは大人しく応える。
しおしおと部屋を出るのを見送って、エバンスは、深く溜息をついた。そうして、アルを振り返る。
「今更だが、俺はお前を何と呼べばいい?」
「何と呼ばれていたか、聞いていなかったわけじゃないだろう?」
「それは、あの人の呼び名だろう。それでいいのか?」
エバンスは、今目の前にいる相手がシュムに対して本名を告げた上でそう呼んでいたのか、関係なく呼んでいたのかは知らない。しかし、名が彼らの種族にとって、人よりもずっと重んずべきものであることは理解していた。
「――ジャック、とでも呼べばいい」
「ジャック…?」
「ああ…何か?」
一瞬、動きを止めてしまったところを気付かれ、エバンスは、取り繕うように首を振って、不自然でない程度に表情を隠した。
「知人に、同じ名の人がいただけだ。平凡すぎて意外な気がした、というのもあるが」
「口数が多いな」
「そうでもないだろう」
素っ気なく、ただ否定をした。
自室の隣に用意したアルの部屋に飛び込み、わめかないように押し殺した声は地の底から上るようで、後を追ってきていたミハイルが身を竦めたのがわかった。
「ここに残ってもらうと、はっきり言ったはずだが。どこをどう曲解しても連れて行くなんてならないように、はっきり明確に言ったつもりだったが?」
「聞いたけれど、肯きはしなかった」
「それなら、封印でもしていってやろうか?」
「…目が据わっているよ」
無言で睨む。
契約期間内に戻れるかどうかはわからず、それは多少残念だったが、物騒な旅連れを持つよりも――エバンスは、決してシュムのようにはなれないという確信があった――、契約期限が切れるまでは他者と契約をしないようにという契約をして城内においていった方が安全と、そう考えた。師たちに頼んで、城内での生活も不便がないよう取り計らうつもりでいた。
しかしアルは、あっさりと肩をすくめた。
「そんなに問題はないだろう。お前も、契約通りに話も聞けるのだし、むしろいいことばかりではないのか? 契約は結べなくとも、多少のイタズラはできるのだしな。厄介事は厭だから、姿だって変える。悪くない話だと思うが」
「――ミハイル様」
「は、はい」
「これ以上の厄介は御免です。よろしいですね?」
「…はい」
気圧されてか、今度ばかりは大人しく応える。
しおしおと部屋を出るのを見送って、エバンスは、深く溜息をついた。そうして、アルを振り返る。
「今更だが、俺はお前を何と呼べばいい?」
「何と呼ばれていたか、聞いていなかったわけじゃないだろう?」
「それは、あの人の呼び名だろう。それでいいのか?」
エバンスは、今目の前にいる相手がシュムに対して本名を告げた上でそう呼んでいたのか、関係なく呼んでいたのかは知らない。しかし、名が彼らの種族にとって、人よりもずっと重んずべきものであることは理解していた。
「――ジャック、とでも呼べばいい」
「ジャック…?」
「ああ…何か?」
一瞬、動きを止めてしまったところを気付かれ、エバンスは、取り繕うように首を振って、不自然でない程度に表情を隠した。
「知人に、同じ名の人がいただけだ。平凡すぎて意外な気がした、というのもあるが」
「口数が多いな」
「そうでもないだろう」
素っ気なく、ただ否定をした。
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