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淑女
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「嬢ちゃん、師について正式に学ぶ気がないなら、二度とこんなものに手を出すな」
「…どうして?」
「契約書の内容を確かめずに契約するなんて、ただの自殺行為だ。実際、はじめにこいつが出したのは、あんたの残りの命を全てをもらうってやつだった」
「別に…いいわよ……それでも」
「あんたの願い事を叶えることもなく、だぞ」
「っ!?」
思わず、二人を睨みつける。
男は何故か、うんざりとしたように二枚の皮紙をひらひらと振った。
「ちなみにこれも、嬢ちゃんの願いを叶えるとは書いてない」
「なっ…!」
青ざめたエミリアの顔を眺めやって、男は、皮紙をつかんだまま、手を振り下ろした。手妻かのように、二枚が燃え、炭くずになる。
「ただし、俺たちの名が入ってないから無効だ」
熱い灰が舞い散る中で、男は、哀れむような眼差しを向けた。
その後方で、もう一人が肩をすくめている。
「にーさん、そのくらいにしといたら? この子もわかっただろーしさ? 俺は、ちゃんと報酬もらえたらどうでもいいし?」
「それは、嬢ちゃん次第だな。俺たちの字も読めないんじゃ、どんなことを書いてもわからないだろう。それでも、乗るか?」
どうしようもなく、恐かった。
だが、だからといって諦めるのも、どうしようもなく厭だった。
エミリアは今現在、一人で暮らしている。先年までは、兄がいた。両親らは早くになくなったため、十年以上も、血縁は兄だけだった。魔導師に弟子入りし、ようやく戻ってきた兄は、しかし、無知な村人に受け入れられることはなく、どころか、忌まれた。死んでさえ、疎まれている。
もっと早くに、村を出るべきだった。生まれ育った土地だからと、愛着など持つべきではなかった。
そんな兄の妹を、パーティーのパートナーに誘う者などいない。だが、惨めさに押しつぶされるくらいなら、昂然と、死を選びたかった。
「信じるわ。そこまで忠告して、騙すなんて、しないでしょう? ――いえ。それならそれで、構わないわ」
赤い瞳がエミリアを真っ直ぐに見つめ、ふっと、微笑した。途端に、柔らかな空気になった。
「いいだろう。ただし、契約を結ぶかどうかは、詳しい話を聞いてからだ」
「わかったわ。私は、エミリア。あなたたちは、何と呼べばいいの?」
「そうだな――ロナルド、とでも」
兄と同じ名だ。エミリアが身を強張らせると、オレンジ頭の男は、首を傾げた。
「その書に書かれているものを取っただけだ。厭なら、変える」
「…いえ。いいわ」
「じゃあ俺は、ケリー。よろしくな、エミリア」
そういう笑顔には、親しみがこもっていた。不意にエミリアは、泣きそうになってしまった。
「…どうして?」
「契約書の内容を確かめずに契約するなんて、ただの自殺行為だ。実際、はじめにこいつが出したのは、あんたの残りの命を全てをもらうってやつだった」
「別に…いいわよ……それでも」
「あんたの願い事を叶えることもなく、だぞ」
「っ!?」
思わず、二人を睨みつける。
男は何故か、うんざりとしたように二枚の皮紙をひらひらと振った。
「ちなみにこれも、嬢ちゃんの願いを叶えるとは書いてない」
「なっ…!」
青ざめたエミリアの顔を眺めやって、男は、皮紙をつかんだまま、手を振り下ろした。手妻かのように、二枚が燃え、炭くずになる。
「ただし、俺たちの名が入ってないから無効だ」
熱い灰が舞い散る中で、男は、哀れむような眼差しを向けた。
その後方で、もう一人が肩をすくめている。
「にーさん、そのくらいにしといたら? この子もわかっただろーしさ? 俺は、ちゃんと報酬もらえたらどうでもいいし?」
「それは、嬢ちゃん次第だな。俺たちの字も読めないんじゃ、どんなことを書いてもわからないだろう。それでも、乗るか?」
どうしようもなく、恐かった。
だが、だからといって諦めるのも、どうしようもなく厭だった。
エミリアは今現在、一人で暮らしている。先年までは、兄がいた。両親らは早くになくなったため、十年以上も、血縁は兄だけだった。魔導師に弟子入りし、ようやく戻ってきた兄は、しかし、無知な村人に受け入れられることはなく、どころか、忌まれた。死んでさえ、疎まれている。
もっと早くに、村を出るべきだった。生まれ育った土地だからと、愛着など持つべきではなかった。
そんな兄の妹を、パーティーのパートナーに誘う者などいない。だが、惨めさに押しつぶされるくらいなら、昂然と、死を選びたかった。
「信じるわ。そこまで忠告して、騙すなんて、しないでしょう? ――いえ。それならそれで、構わないわ」
赤い瞳がエミリアを真っ直ぐに見つめ、ふっと、微笑した。途端に、柔らかな空気になった。
「いいだろう。ただし、契約を結ぶかどうかは、詳しい話を聞いてからだ」
「わかったわ。私は、エミリア。あなたたちは、何と呼べばいいの?」
「そうだな――ロナルド、とでも」
兄と同じ名だ。エミリアが身を強張らせると、オレンジ頭の男は、首を傾げた。
「その書に書かれているものを取っただけだ。厭なら、変える」
「…いえ。いいわ」
「じゃあ俺は、ケリー。よろしくな、エミリア」
そういう笑顔には、親しみがこもっていた。不意にエミリアは、泣きそうになってしまった。
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