台風の目(仮)

来条恵夢

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淑女

3-2

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 見ると、数人で連れ立った男たちだった。大体、二十代くらいだろう。
 一瞬怯んだようだったが、おそらくは虚勢を張って、中心と思しき一人がロナルド(仮)を睨みつける。
「旅人か」
「それが何か関係あるのか?」
「忠告してやろうってんだ。魔女に関わるとろくなことにならねえぞ」
「お前らのせいでか?」
 何気なく返した言葉だったのだが、その通りだったのか虚を突かれたのか、言葉に詰まっている。あるいは、咄嗟に理解が追いつかなかったのだろうか。
 やがて、凡庸な悪態を捨て台詞にして、離れて行った。くだらない、と思ったが、彼らを気に留めておくことにした。
 ただの動力集めであり、エミリアには何の義理もないが、悪い少女でないと判るだけに、くだらない事態に巻き込まれるのは気の毒だ。特に労力を割かずに済むことなら、手助けしてもいいという気になる。
 あの友人に、みすみすそんな事態を見逃したと知れたら、怒りはしないだろうが、哀しげなかおでもされてしまいそうだから、という思いがあるのも確かだった。
「少し休んだらどうだ。あのちびは?」
 戻ってきたエミリアに酒の入ったグラスを差し出すと素直に受け取り、小首を傾げる。
「ケリーのこと? あっちで女の子を口説いてるわよ」
 そいつはまあと、口の中で呟く。呑気というか図太い。
 エミリアは、一口グラスを傾けると、いたずらっぽく微笑んだ。全くもって、あの男どもは見る目がない。
「あなたはいいの?」
「興味がない」
「好きな人、ああ、人じゃないのかな。そんな相手がいるの?」
「………そういうわけでもない」
「間が怪しいわね」
 くすくすと、楽しそうに笑う。
 ふと、先程の男たちが目に入った。エミリアをちらちらと見ている。悪意がひらめいたように見えた。
「嬢ちゃん」
「何?」
「今回は、本当に例外中の例外だからな。それは、判ってるな」
「ええ…?」
「じゃあ、手を貸す。戻ったら、明日と言わずにすぐ荷をまとめろ。夜明けくらいまではついててやるから、獣の心配はしなくてもいい」
「ええ?」
 驚いたエミリアに視線で示すと、納得して、半ば呆れたように肯いた。そうして、にこりと微笑む。
「もう一曲踊るくらい、いいわよね?」
「ああ」
 苦笑で応え、きらびやかなヒトの輪の中に入っていった。

 夜明け前。小さな村の外れで火事が起こったが、幸いにも、死者はなかった。 
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