台風の目(仮)

来条恵夢

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胎動

3-3

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「好きにしていいよ。小言の盾になってくれるなら、大歓迎」
 年明けに、王妃に収まっている妹の顔でも見ようかと立ち寄った城で、シュムは、仕掛けられた魔物を誘導して、塔を一つ壊している。それは、考えようによっては避けられた損害なので、文句を言われるだけの余地はある。
 その上更に、シュムは一応、国王直属の部下ということになっている。国内を見聞して、時には大事にしたくないような問題を片付ける役目も受け持っているため、基本的に、常に連絡の取れるようにしている必要がある。
 それを、去年の夏以来、無視を決め込んでいた。
 国王本人であれば皮肉の一つ二つで終わるところだが――それも確実に厭だが――、あの生真面目な魔導師は、正当な非難をしてくることだろう。
 全て右から左に流すとはいえ、障害物があるなら、すがりたい。そこのところは、かなり本音だ。
 カイは、フライを飲み込むとそのまま酒をあおった。
「お前がいいなら、もうしばらくいる。ああでも、俺が問題になったらすぐに戻してくれ」
「うん? 心当たりあるの?」
「知り合いがいたからな」
 それは、カイを「にーさん」と呼んだ者のことだろう。暴走から助けたロベルトによると、手紙を送ろうとした張本人のはずだが、人だとは思えなかった。シュムには、契約してどうにかなっているのか、成り代わっているのかまでは判らない。しかし、今のところ問題を見いだせていないのだから、口を挟むことではない。  
 シュムは、手の届く範囲でしか動くつもりはない。
 その手も、出さなくていいのなら、そのつもりもない。
 ただ、先ほどの青年がカイの弟なのかということは気になるところだが、詮索してもどうなるわけでもないので、肯くに留めた。訊けばこたえてくれるのだろうが、情報をさらせばそれだけ弱点にも近付いてしまいかねないので、遠慮しておこう、との考えだ。
 もっとも、名で縛れるカイの、本名を知っているのだから今更だが。
「お前は、城に戻るのか?」
「ああ…。うん、そろそろ潮時かな。半年行方知れずになってたんだし」
「何故そんなことをしてるんだ。一人でだって、シュムなら問題ないだろう」
「何故って…アズがいるから、この国は平穏な方がいい。特にやりたいことがあるわけじゃないし」
 妹は、今では、見かけだけならシュムの母親にも見える。子どもも二人持ち、長男はシュムの師匠に弟子入りしているので、弟弟子ということにもなる。
 何故か、カイは溜息をこぼした。
「何?」
「お前の行動基準は、いつも他の奴なんだな」
「………カイが目も耳も利かないとは知らなかった」
「は?」
「心底本気で、どこをどう捻ったら、そんな結論になるのかがわからない。あたしの基準は、常にあたしなんだけど」
 そう言うと、胡乱うろんそうに目線だけ寄越して、反論はなかった。
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