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鼓動
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小屋の戸に手をかけたときに、唐突にその気配は消えた。
「…失礼」
呟くように言って、戸を開く。明かりをつけていないのか、外以上に黒々とした闇が横たわっていた。
「なぁに? 相手をしろって言うなら、相応に弾んでもらうわよ?」
「いや…君は、何者だ?」
月明かりで、相手をしていた男は、女の膝に倒れこむようにもたれているとわかった。生きているのか死んでいるのか、眠っているのか起きているのか、判然としない。
だが、何の反応もないのだから、意識がないのは違いないだろう。
「何者って? 決まってるじゃない、アタシたちは、ただの女。あんたたちが、ただの男であるようにね」
女は、すいと立ち上がると、乱れた着衣を手早く整えた。
やつれた面差しに、くたびれた巻き毛が下りかかっている。まだ三十には届いていないだろうのに、病やつれのように生気が感じられず、そのことが、女を貧相に見せる。しかしそれらは闇にいくらか覆い隠され、エバンスにわかったのは、投げやりな調子と姿形くらいのものだった。
女は、どうやら笑みを形作ったようだった。
「あら、色男じゃない。ローズのお相手は終わったのかしら? どう、もう一戦」
「お断りします。…普通の人ではありませんね、何者ですか」
「だったら、何? どうしてあんたに言わなくちゃならないの。用事がないなら行ってくれない?」
「色々と立て込んでまして。申し訳ありませんが、簡単に見過ごすこともできないんです。問題がないと判断できれば、関わりません。説明を、いただけますか」
腕組みをして入り口に寄りかかった女は、じろりとエバンスを睨みつけ、溜息をついた。
「これも、天の采配ってヤツ、かしらねえ」
やはり投げやりに、疲れたように微笑む。しかしその笑みは、先ほどのような作り物ではなかった。
「アンタ、魔導師ってヤツ? ちょうどいいわ、教えて。魂の共有を解くには、どうすればいい?」
「え」
ごくごく稀に、魔物と人で、魂を共有することがある。
禁呪だが、極端に言えば互いに名を呼び合うという簡単なものだけに、期せずして起こることも、それこそ稀には、ある。ただし通常、魔物はその身を縛る本名を隠しているのだが。
魂を共有する者らは、それぞれの能力や寿命といった、いくつものことも共有するようになる。例えば、片割れが命を落とすことになれば、もう片方も死ぬ。離れて生活することもできないはずだった。
そして、成立の簡単さとは裏腹に、解除は。
「――聞いたことがありません」
「知ってるんだよ。一人だけなら、助かる方法はあるんでしょ? もう、限界。カルアを、助けてあげて」
エバンスを見る瞳には、決意があった。
「…失礼」
呟くように言って、戸を開く。明かりをつけていないのか、外以上に黒々とした闇が横たわっていた。
「なぁに? 相手をしろって言うなら、相応に弾んでもらうわよ?」
「いや…君は、何者だ?」
月明かりで、相手をしていた男は、女の膝に倒れこむようにもたれているとわかった。生きているのか死んでいるのか、眠っているのか起きているのか、判然としない。
だが、何の反応もないのだから、意識がないのは違いないだろう。
「何者って? 決まってるじゃない、アタシたちは、ただの女。あんたたちが、ただの男であるようにね」
女は、すいと立ち上がると、乱れた着衣を手早く整えた。
やつれた面差しに、くたびれた巻き毛が下りかかっている。まだ三十には届いていないだろうのに、病やつれのように生気が感じられず、そのことが、女を貧相に見せる。しかしそれらは闇にいくらか覆い隠され、エバンスにわかったのは、投げやりな調子と姿形くらいのものだった。
女は、どうやら笑みを形作ったようだった。
「あら、色男じゃない。ローズのお相手は終わったのかしら? どう、もう一戦」
「お断りします。…普通の人ではありませんね、何者ですか」
「だったら、何? どうしてあんたに言わなくちゃならないの。用事がないなら行ってくれない?」
「色々と立て込んでまして。申し訳ありませんが、簡単に見過ごすこともできないんです。問題がないと判断できれば、関わりません。説明を、いただけますか」
腕組みをして入り口に寄りかかった女は、じろりとエバンスを睨みつけ、溜息をついた。
「これも、天の采配ってヤツ、かしらねえ」
やはり投げやりに、疲れたように微笑む。しかしその笑みは、先ほどのような作り物ではなかった。
「アンタ、魔導師ってヤツ? ちょうどいいわ、教えて。魂の共有を解くには、どうすればいい?」
「え」
ごくごく稀に、魔物と人で、魂を共有することがある。
禁呪だが、極端に言えば互いに名を呼び合うという簡単なものだけに、期せずして起こることも、それこそ稀には、ある。ただし通常、魔物はその身を縛る本名を隠しているのだが。
魂を共有する者らは、それぞれの能力や寿命といった、いくつものことも共有するようになる。例えば、片割れが命を落とすことになれば、もう片方も死ぬ。離れて生活することもできないはずだった。
そして、成立の簡単さとは裏腹に、解除は。
「――聞いたことがありません」
「知ってるんだよ。一人だけなら、助かる方法はあるんでしょ? もう、限界。カルアを、助けてあげて」
エバンスを見る瞳には、決意があった。
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