台風の目(仮)

来条恵夢

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鼓動

6-1

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 なんとかできないのかなと、投げやりなようで強く願う口調に、エバンスは虚を突かれた。出かけた、無理だという即答をうっかり呑み込む。
 互いを思い合っているとわかる二人は、確かに、どうにかしてやりたいとは思う。
 だが、どういった経緯で魂を共有することになったのかはわからないが、それほどに年数のったことではないだろう。それなのに女が「限界」と言うのは、それほどに、少女の得ていた病が重いものだったのだろう。普通であれば、まず間違いなく死に至るほどに。
 だから女は、言ってしまえば損ばかりを受けている。それなのに、最後に己をなげうってでも、少女を救いたいと言っている。
 できるなら、何とかしたいと思う。だが青年が、同じように、あるいはエバンスよりも強く、そう思っているのが、正直なところ意外だった。
「魂の共有について、どの程度知っていますか」
 女たちから少し距離を置いて囁くように問いかけると、うーん、と声が返った。
「それがどういうことなのかが全くわからないんだ、実は。どうやったら助けることになって、それって難しい?」
 がくりと、エバンスの頭が落ちた。
「何もわからないで言っていたんですか…。まず、一度融合した魂の分離は、不可能と言われています。そして、片方が死ねばもう片方も死ぬ。今は少女の病に、彼女が人の命を得ることで対抗しているようですが、あまり長くはもたないでしょうね」
「ああ…俺がしてたのと、似たようなことか」
「そう…ですね」
 言われてみればその通りだ。彼も、細り行く母親のために、他者の命を与えていた。
「彼女は、あの少女を護るために自分を放棄するつもりのようです」
「はあ?」
「魂の分離は不可能ですが、片方が死んでももう片方が巻き込まれない方法は、あるにはあるんです」
「なっ…!」
 息を呑んで、声を潜めることを忘れたように、張り上げる。
「駄目だろ、そんなの! 自分のせいで勝手に逝かれて、その後どうするんだよ?!」
 言った後でエバンスの責任ではないと気付いてか、悪い、と、短く謝った。
 しかしこうしていると、自分よりも余程人間らしいなと、エバンスは思った。誰かのために憤り、喜び、悲しむ。
 エバンスは、溜息をついた。
「アイリスさん、すみませんが、俺にはできません」
 言い返されそうなところに、急いで次を継いだ。
「俺は、その子に恨まれたくはありません」
「このままじゃあ、アタシたちは共倒れなんだ! だから、せめて――」
「確実な方法ではありませんが、医師や治療法なら、探せるかもしれません。こう見えても、人脈は広いんです。何も変わらないかもしれませんが、手を貸せるとすれば、それだけです」
 黙り込んでしまったアイリスに、朝にはつとだけ伝える。そこに、青年の声が聞こえた。
「あのさー、俺が口出すことじゃないかもしれないけど、とりあえずここ、出た方がいいぜ?」
かすめ取るのに、手っ取り早いんだよ。少しくらいやつれたって、誰も気にやしないし」
「いやー、でも、嬢ちゃんだけでも出した方がいいと思うなあ、その…変な事されてるみたいだしさー」
「えっ?!」
 それらを背で聞いて、リリアの眠る小屋へと足を向ける。
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