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鼓動
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身請け出来るだけの金を出すと言えば、彼女は傷つくだろうか。後々の面倒を見るつもりもないのに、中途半端に情けをかけるべきではないだろうか。
先ほどの二人と、リリアと、両方を思いながら、苦い息を吐く。例えばシュムなら、兄なら、もっと上手くやれたのではないか。つい、そう考えてしまう。
しかしそれが一種の逃げだと、その自覚もあった。
「あれだけ騒いでも、誰も、顔も出さないのなー」
「それどころじゃないんでしょう」
「そ…そんなもんか…」
当然のようについて来た青年を、振り返るつもりはなかった。もう答えは出したが、だからといって馴れ合う必要もない。むしろ、距離を置いていた方がいいに違いない。
「ところでさ、リー導師。怒ってないの?」
「何をですか」
「いや、術、勝手に解いたから。てっきり」
「構いません。ただ、今後は気をつけてください。最大限、あなたが自由にいられるように主張するつもりではいますが、俺は、そのことで人外全てを認めるつもりはありません。そもそもそのまま通るとは思えませんから、下手に振舞えば、事がどう転がるかはわかりません。自分のために、自重してください」
「…え?」
青年の足が止まったのに気付いて、仕方なく、エバンスも歩みを止めた。
「むざむざと兄の目論見に乗るのも業腹ですが、だからといってあなたに八つ当たりをするのもお門違いでしょう。早朝に出ますから、早く眠った方がいいですよ」
「あ…りがとう?」
「どうして疑問形なんですか。それ以前に、あなたに礼を言われるようなことではありません」
「何でそんな喧嘩腰なんだよ? って言うかさ、リー導師。いい加減、名前くらい読んでくれてもよくない? さっきの人は呼んだのに」
「彼女は、先ほどの少女以外に名で縛れる者はいませんからね。あなたは、多少なりとも違うでしょう」
「いやいや、俺も平気だって。リー…あ、俺が偽名で呼んでるから意地張ってる? えーと、なんだっけ、エヴァ?」
一瞬、誰を恨めばいいのかわからなかった。
「却下」
「ええっ、でもそう呼ばれてただろー? じゃあ…イヴ?」
「俺が間違ってました。即刻、何らかの処分を要請することにします」
「うっわ、冗談でも人の身の振り方をそんな風に扱うもんじゃないぜ!?」
本当に言葉通りにしてやろうかと、エバンスは、少し思った。
先ほどの二人と、リリアと、両方を思いながら、苦い息を吐く。例えばシュムなら、兄なら、もっと上手くやれたのではないか。つい、そう考えてしまう。
しかしそれが一種の逃げだと、その自覚もあった。
「あれだけ騒いでも、誰も、顔も出さないのなー」
「それどころじゃないんでしょう」
「そ…そんなもんか…」
当然のようについて来た青年を、振り返るつもりはなかった。もう答えは出したが、だからといって馴れ合う必要もない。むしろ、距離を置いていた方がいいに違いない。
「ところでさ、リー導師。怒ってないの?」
「何をですか」
「いや、術、勝手に解いたから。てっきり」
「構いません。ただ、今後は気をつけてください。最大限、あなたが自由にいられるように主張するつもりではいますが、俺は、そのことで人外全てを認めるつもりはありません。そもそもそのまま通るとは思えませんから、下手に振舞えば、事がどう転がるかはわかりません。自分のために、自重してください」
「…え?」
青年の足が止まったのに気付いて、仕方なく、エバンスも歩みを止めた。
「むざむざと兄の目論見に乗るのも業腹ですが、だからといってあなたに八つ当たりをするのもお門違いでしょう。早朝に出ますから、早く眠った方がいいですよ」
「あ…りがとう?」
「どうして疑問形なんですか。それ以前に、あなたに礼を言われるようなことではありません」
「何でそんな喧嘩腰なんだよ? って言うかさ、リー導師。いい加減、名前くらい読んでくれてもよくない? さっきの人は呼んだのに」
「彼女は、先ほどの少女以外に名で縛れる者はいませんからね。あなたは、多少なりとも違うでしょう」
「いやいや、俺も平気だって。リー…あ、俺が偽名で呼んでるから意地張ってる? えーと、なんだっけ、エヴァ?」
一瞬、誰を恨めばいいのかわからなかった。
「却下」
「ええっ、でもそう呼ばれてただろー? じゃあ…イヴ?」
「俺が間違ってました。即刻、何らかの処分を要請することにします」
「うっわ、冗談でも人の身の振り方をそんな風に扱うもんじゃないぜ!?」
本当に言葉通りにしてやろうかと、エバンスは、少し思った。
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