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廻合
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「ごめんなさい。…村では、旅人が訪れたらこの湖に捧げる決まりになってるんです。けど、一度に一人きり、最低一月は間をあけて。だから…あなたの連れの人は…今はまだ、生きてます」
「はあ」
何だその胡散臭いしきたりは、と突っ込みたいところだが、あまりにもみじめったらしい口調に、下手に横槍を入れれば口を閉ざしそうだと判断をした。
だがそれでも、うっかりと呆れは声に出たらしい。わずかに、むっとした感じが返って来た。
これにはもう、笑うしかない。詫びながら、そして今から生贄にしようとする関係のない者を相手に、そう思われたからといって怒れる権利があるはずがないというのに。
だが音のない微笑は、相手にはわからなかったようだ。
「そうやって、村を、守るしかなかったんだ! この村には…先住者がいたから」
先住者というのは、元々この地に棲んでいた獣か怪物だろう。つまりは、餌をやる代わりに大人しくしていてくれと、そう頼み込んだわけだ。
ふうん、と合いの手を返したカイは、酷薄に笑んだ。
「開拓時に何があったのかは訊かないが、それならそれで、ここを諦めるなりギルドにでも紹介を頼むべきだったろう?」
「僕らに死ねって言うのか?!」
「俺たちには死ねって言ってるだろう」
感情を載せずに即座に返した言葉に、相手は黙り込んでしまった。随分と甘っちょろい見届け役だと、カイは呆れた思いで人影を見つめる。
彼が生贄がきっちりと捧げられたことを確認する役目にあることは、まず間違いないだろう。だがいくら気付かれたとはいえ、話しかける必要は全くない。その上、中断してしまったが苦労話でもしようとしていたのは、同情でも買って、身の上を諦めてもらおうとでも思ったのか。いきなり死ねと要求された者に、まさか慰めてもらおうと思ったのだろうか。
なんだかなあと、溜息がこぼれた。
――突然湖で、何かが湖面を突き上げたような、大袈裟な水音がした。見届け役が、無様に息を呑む。一方のカイは、もう一度深々と、溜息をついた。
「っとに、貧乏くじばっか当たるな。誰のせいだ」
ぼやきたくもなる。が、誰かのせいにすれば自分かシュムの二者択一で、どちらにしても長い付き合いになるだろう。
気を取り直して湖を見れば、先住者がぬらりと首をもたげている。カイは、さてどうしたものかと考えた。
足の鎖を引きちぎるのは簡単だが、ここで目の前の怪物を倒して、それで得をするのは、卑怯にも行きすがりの旅人を捧げてきた村人たちだ。湖のヌシにも言い分はあるはずで、それをこの地で生きる為と切り捨てるのに文句を言うつもりはないが、たまたま通りかかった自分が、結果としていいように利用されるというのは腑に落ちない。
悩んでいる場合ではないとわかっていても、どうにも危機感が薄い。
「オマ…エ…」
「ん? 言葉通じるのか」
拍子抜けして、カイは、湖のヌシをまじまじと見詰めた。
月光にぬらぬらと光る体を持つそれは、カイの体さえも簡単にひと呑みできるだろう大きさで、こちらの世界の生き物に例えるなら蛭に似ている。大きさを桁違いに大きくして、横に引き伸ばせばこんな感じかもしれない。
ヌシは、図体のわりに小さな瞳をカイに向けた。だが、よくよく見てみれば動いているのは、蛇に似たつるんとした鼻。視覚よりも嗅覚が発達しているのだろう。
「ナツカシイ…ニオイ、スル」
「あぁ?」
何のことだとカイは首を傾げた。
「ナツカシイ…ムカシ、ノ…」
「カーイ! 何大人しく捕まってるの!」
「はあ」
何だその胡散臭いしきたりは、と突っ込みたいところだが、あまりにもみじめったらしい口調に、下手に横槍を入れれば口を閉ざしそうだと判断をした。
だがそれでも、うっかりと呆れは声に出たらしい。わずかに、むっとした感じが返って来た。
これにはもう、笑うしかない。詫びながら、そして今から生贄にしようとする関係のない者を相手に、そう思われたからといって怒れる権利があるはずがないというのに。
だが音のない微笑は、相手にはわからなかったようだ。
「そうやって、村を、守るしかなかったんだ! この村には…先住者がいたから」
先住者というのは、元々この地に棲んでいた獣か怪物だろう。つまりは、餌をやる代わりに大人しくしていてくれと、そう頼み込んだわけだ。
ふうん、と合いの手を返したカイは、酷薄に笑んだ。
「開拓時に何があったのかは訊かないが、それならそれで、ここを諦めるなりギルドにでも紹介を頼むべきだったろう?」
「僕らに死ねって言うのか?!」
「俺たちには死ねって言ってるだろう」
感情を載せずに即座に返した言葉に、相手は黙り込んでしまった。随分と甘っちょろい見届け役だと、カイは呆れた思いで人影を見つめる。
彼が生贄がきっちりと捧げられたことを確認する役目にあることは、まず間違いないだろう。だがいくら気付かれたとはいえ、話しかける必要は全くない。その上、中断してしまったが苦労話でもしようとしていたのは、同情でも買って、身の上を諦めてもらおうとでも思ったのか。いきなり死ねと要求された者に、まさか慰めてもらおうと思ったのだろうか。
なんだかなあと、溜息がこぼれた。
――突然湖で、何かが湖面を突き上げたような、大袈裟な水音がした。見届け役が、無様に息を呑む。一方のカイは、もう一度深々と、溜息をついた。
「っとに、貧乏くじばっか当たるな。誰のせいだ」
ぼやきたくもなる。が、誰かのせいにすれば自分かシュムの二者択一で、どちらにしても長い付き合いになるだろう。
気を取り直して湖を見れば、先住者がぬらりと首をもたげている。カイは、さてどうしたものかと考えた。
足の鎖を引きちぎるのは簡単だが、ここで目の前の怪物を倒して、それで得をするのは、卑怯にも行きすがりの旅人を捧げてきた村人たちだ。湖のヌシにも言い分はあるはずで、それをこの地で生きる為と切り捨てるのに文句を言うつもりはないが、たまたま通りかかった自分が、結果としていいように利用されるというのは腑に落ちない。
悩んでいる場合ではないとわかっていても、どうにも危機感が薄い。
「オマ…エ…」
「ん? 言葉通じるのか」
拍子抜けして、カイは、湖のヌシをまじまじと見詰めた。
月光にぬらぬらと光る体を持つそれは、カイの体さえも簡単にひと呑みできるだろう大きさで、こちらの世界の生き物に例えるなら蛭に似ている。大きさを桁違いに大きくして、横に引き伸ばせばこんな感じかもしれない。
ヌシは、図体のわりに小さな瞳をカイに向けた。だが、よくよく見てみれば動いているのは、蛇に似たつるんとした鼻。視覚よりも嗅覚が発達しているのだろう。
「ナツカシイ…ニオイ、スル」
「あぁ?」
何のことだとカイは首を傾げた。
「ナツカシイ…ムカシ、ノ…」
「カーイ! 何大人しく捕まってるの!」
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