台風の目(仮)

来条恵夢

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廻合

2-2

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「…で、何なんだこの茶番は」
「うん、少しくらいおののいてもいいと思わない? まあ、だからってあたしが裁いていいものじゃないし、そんなつもりもないけどね。――ありがと」
 村を出ると、シュムはカイの背から飛び降りた。そうして、ヌシの先に立って誘導する。
 湖のほとりに、地面に枝で書いた魔法陣があった。その境界線でヌシを止まらせ、シュムは片膝をついて線に触れる。
「混迷の王よ、深き漆黒の淵より覗きて眼を開け。眠り深き黒の番人、夜の前に跪きて鍵を差し出せ。前に立つは影の城、後ろに在るは幻影の庭、右に行くは永久の森、左に開くは忘却の川、上に海原、下に大空――」
 延々と、意味のつかめない言葉が続く。カイとヌシは、それをただ黙って聞いていた。まったく意味はわからないが、徐々に、カイらの住む世界が近付いて来るのが感じられる。それに伴い、嬉しいのか、ヌシがそわそわと身をくねらせる。
「――深き深き紅の淵に打ち込む楔。目覚めし赤の番人、暁に月を昇らせよ」
 長い詠唱が終わると、巨きな魔法陣が青く発光した。異界――カイらの住む世界への扉が開く。
 ヌシが身を躍らせ、頭から飛び込む。
 そうしてシュムは、身じろぎすらせずにまた、呪文を口にし始めた。
「…何かいるか?」
 扉を開くのと同じくらいの時間をかけて詠唱を終わらせ、魔法陣をただの落書きに戻したシュムは、ぐったりと地面に座り込んでいた。いつもよりもゆっくりとした動きで水筒を引っ張り出そうとするのを見かねて、人型に戻ったカイが引き出し、蓋を開けて口元にあてがう。
「ありがとー」
「いや。他には?」
「だいじょーぶ、喋りつかれたのとそー変わらないから。あんまり強いのじゃなくてよかったー。どれだけ詠唱続けなきゃいけないか」
「あれ以上にか?」
 思わずしかめた顔を、水筒の栓を戻したシュムが見上げて苦笑する。 
「そう、あれ以上。んー、カイをこうやってかえすとしたら、半分だけで数時間ってとこかなー。ディーだと、下手したら一日がかり? もっとかな」
「げ」
「だから嫌いなんだよ、正式。面倒くさいったらない」
 なるほどと納得したカイだが、だからといって迂闊に同意すれば、だから自己流でいいじゃない、という話に転がりかねない。というよりも、ほぼ確実になるだろう。そこには踏み込みたくないカイは、肩をすくめるにとどめた。
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