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選択肢を、とりあえず三つ提示した。
ひとつは、俗に言う魔界への強制送還。人の身でとなるとすぐに捕食されて長生きできそうにもないが、自業自得といえなくもない。
もうひとつは、王宮魔導師に委ねる。どういう扱いを受けるかはわからない。
マリアに選択を任せたところ、選んだのは残りの一つになった。マリアと契約を結ぶこと。
「ちょっと意外だったかも」
成り行きで泊めてもらった屋敷を後にしながら、独り言のように、シュムはカイに話しかけた。出会ったときと打って変わって晴れやかに笑うマリアには引き止められたが、残るつもりはなかった。
ただ、マリアの父が使っていたコートのうちの一着は、カイが着られそうだったので貰った。依頼料も、思っていた以上に貰った。幸先がいい、と言っていいのかは悩むところだ。
「そうか?」
「だって、両親を殺したのがノーマンだっていうのは変わりないし、寿命短くなるし、契約したからって完全に主従になるわけじゃないし。それなのに、契約選ぶなんて」
契約書の文面を考えたのはシュムで、それなりにマリアに都合よく作ったが、つい何度も念押ししてしまった。
シュムが言ったところで説得力はないかもしれないが、「悪魔」との関わりは、面倒で厄介なものなのだ。何も知らない人が忌避するのは、むしろ安全弁として推奨したいほどだ。
シュムがしかめ顔で見上げると、カイは、首を捻った。
「こっちじゃ、子どもには保護者がいるんだろ」
「他の人探せるでしょ。身内に良さそうな人がいなくたって、例えば、この街の誰かとか。成人するまででいいんだし、もっと手っ取り早くするなら、結婚すれば年齢なんて関係ないし」
「結婚って」
「貴族だと、あのくらいの年なら珍しくないよ。まあ結婚するって言っても、しばらくはままごとみたいなものになるけど」
シュムはそういった環境で育ったわけではないから基本的に聞きかじりだが、知られた話ではある。
先ほどとは逆にカイが顔をしかめるが、深入りしたくないのか話題を逸らした。わかり易すぎて苦笑してしまう。
「それよりも、勝手に強制送還しなかったことが意外だったけどな、俺は」
「そう?」
「この前は村の奴らに復讐して送り還しただろ」
こちらに来たまま、長い間帰れずにいた同属のことを言っているらしい。シュムは、軽く肩をすくめた。
「あれとは大分事情が違うでしょ。マリアにまで手を出そうとしたのはちょっとやりすぎだと思うけど、でもだからってあのまま還したらあっさり捕食されてそうだし。それはそれで仕方ないけど、あの間抜けっぷり見ちゃうと、気の毒というか何と言うか」
シュムもカイも、現ノーマンを思うと、疲れたような笑いしか浮かばない。
それを振り払って、シュムは言葉を続けた。
「だからって、これで良かったかっていうのもわからないんだけどさ」
うだうだと、どこにもたどり着かない会話が続く。街の中心部には朝の市が立ち、食料を見繕ってから行こうとカイを誘う。
昨日追いかけられた顔もちらほらと見かけた気がするが、今日は何も仕掛けてこない。あの兄弟を見かけたら屋敷に行ってみればいいと伝えたかったが、殊更に探すつもりはなかった。
「まあとりあえず、エヴァに連絡…手紙出しても、読む閑あるのかわからないけど。あ、でも怒りながら読むかな。私情は挟まないだろうからいいけど」
軽く笑い飛ばしながら、半ば逃げ出してきた元の職場に関わることを口にする。カイは少しだけ、若いのに苦労性のエバンスに同情した。
「本当に、戻らないのか?」
「どこに?」
にっこりと、笑い返す。カイは気まずげに、口を閉じた。
保存食料を幾つかまとめて買い込み、当然のようにカイに持たせていく。どちらが何を言ったわけではないが、荷物持ちは主にカイの分担になっている。シュムも持たないわけではないが、確実に量が違う。
そうして二人は、必要な荷物を揃えていった。
ひとつは、俗に言う魔界への強制送還。人の身でとなるとすぐに捕食されて長生きできそうにもないが、自業自得といえなくもない。
もうひとつは、王宮魔導師に委ねる。どういう扱いを受けるかはわからない。
マリアに選択を任せたところ、選んだのは残りの一つになった。マリアと契約を結ぶこと。
「ちょっと意外だったかも」
成り行きで泊めてもらった屋敷を後にしながら、独り言のように、シュムはカイに話しかけた。出会ったときと打って変わって晴れやかに笑うマリアには引き止められたが、残るつもりはなかった。
ただ、マリアの父が使っていたコートのうちの一着は、カイが着られそうだったので貰った。依頼料も、思っていた以上に貰った。幸先がいい、と言っていいのかは悩むところだ。
「そうか?」
「だって、両親を殺したのがノーマンだっていうのは変わりないし、寿命短くなるし、契約したからって完全に主従になるわけじゃないし。それなのに、契約選ぶなんて」
契約書の文面を考えたのはシュムで、それなりにマリアに都合よく作ったが、つい何度も念押ししてしまった。
シュムが言ったところで説得力はないかもしれないが、「悪魔」との関わりは、面倒で厄介なものなのだ。何も知らない人が忌避するのは、むしろ安全弁として推奨したいほどだ。
シュムがしかめ顔で見上げると、カイは、首を捻った。
「こっちじゃ、子どもには保護者がいるんだろ」
「他の人探せるでしょ。身内に良さそうな人がいなくたって、例えば、この街の誰かとか。成人するまででいいんだし、もっと手っ取り早くするなら、結婚すれば年齢なんて関係ないし」
「結婚って」
「貴族だと、あのくらいの年なら珍しくないよ。まあ結婚するって言っても、しばらくはままごとみたいなものになるけど」
シュムはそういった環境で育ったわけではないから基本的に聞きかじりだが、知られた話ではある。
先ほどとは逆にカイが顔をしかめるが、深入りしたくないのか話題を逸らした。わかり易すぎて苦笑してしまう。
「それよりも、勝手に強制送還しなかったことが意外だったけどな、俺は」
「そう?」
「この前は村の奴らに復讐して送り還しただろ」
こちらに来たまま、長い間帰れずにいた同属のことを言っているらしい。シュムは、軽く肩をすくめた。
「あれとは大分事情が違うでしょ。マリアにまで手を出そうとしたのはちょっとやりすぎだと思うけど、でもだからってあのまま還したらあっさり捕食されてそうだし。それはそれで仕方ないけど、あの間抜けっぷり見ちゃうと、気の毒というか何と言うか」
シュムもカイも、現ノーマンを思うと、疲れたような笑いしか浮かばない。
それを振り払って、シュムは言葉を続けた。
「だからって、これで良かったかっていうのもわからないんだけどさ」
うだうだと、どこにもたどり着かない会話が続く。街の中心部には朝の市が立ち、食料を見繕ってから行こうとカイを誘う。
昨日追いかけられた顔もちらほらと見かけた気がするが、今日は何も仕掛けてこない。あの兄弟を見かけたら屋敷に行ってみればいいと伝えたかったが、殊更に探すつもりはなかった。
「まあとりあえず、エヴァに連絡…手紙出しても、読む閑あるのかわからないけど。あ、でも怒りながら読むかな。私情は挟まないだろうからいいけど」
軽く笑い飛ばしながら、半ば逃げ出してきた元の職場に関わることを口にする。カイは少しだけ、若いのに苦労性のエバンスに同情した。
「本当に、戻らないのか?」
「どこに?」
にっこりと、笑い返す。カイは気まずげに、口を閉じた。
保存食料を幾つかまとめて買い込み、当然のようにカイに持たせていく。どちらが何を言ったわけではないが、荷物持ちは主にカイの分担になっている。シュムも持たないわけではないが、確実に量が違う。
そうして二人は、必要な荷物を揃えていった。
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