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日常
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「な…に、すんだよ…っ」
立ち上がり様に殴り上げられ、もう一度拳を叩き込む。ウェイトレスの悲鳴が上がった気がするが、後回しだ。他の客は見物に回っている。
似たような位置にある緑の瞳に苛立ちが見えて、心からの言葉ではなかったのだと確信する。良かったと、そう思っている自分に気付いた。それと同じくらいに、自分に対して腹立たしさも感じる。そこまで追い込んだのは、エバンスだ。
キィと、小さく鼠の鳴き声がした。
「…連れて来てたのか」
キールの襟元からひょこりと顔をのぞかせた片目の小さな鼠に、思わず声が洩れる。
ふっと息を吐いたキールは、倒れたときに巻き込んだテーブルを起こし、こちらも倒れていた椅子を戻して座った。
「座れよ。おーい、ごめん、グラス割っちゃったから片付けるもの持って来てくれる? あ、酒と水追加で」
周囲の客たちはなんだ終わりか、とざわめきつつそれぞれの会話や食事に戻っていく。
やって来たやせ細った店主に笑顔で詫びつつ割れ物を片付けるのを手伝い、ウェイトレスの運んできた酒のグラスを自分に、水のグラスをこちらに回し、キールは、乾杯、とグラスを打ちつけた。
「ここ、あんたのおごりな。まあそもそも、俺、ほとんど金持ってないけど」
「…どういうつもりだ」
「ま、売り言葉に買い言葉ってやつで。勢いだけじゃなくて、そうすりゃいいのにって思ってるのは本当だけどな? あんたが兄さんに言ったのと同じ」
言葉に詰まったのを、料理が運ばれてきたことに気を取られた振りで誤魔化す。が、できていなかったことは、すぐにわかった。
茹で上がったソーセージの端をフォークで切り取ると、隠すように手で覆ってテーブルに乗せた鼠に食べさせている。キールは、残ったソーセージにフォークを突き刺すと、やや首を傾げるようにしてエバンスを見た。
「あんたさ、もっと自分勝手になるべきじゃないか? なんかあんた見てっと、自分のことは後回しにして人のことばっかやってるだろ。それはいーことなんだろうけどさ、人ばっかを大切にするあんたを見てるあんたのことを大切に思う人はたまらないと思う」
キィ、と、潜めたように鼠が啼く。キールは、そちらを一瞥すると肩をすくめてソーセージを齧った。
「もうちょっと、自分を気遣ってやれよ。あんたが周りを大切にするなら、周りのためにって理由でいいからさ」
突き放したようでいて気遣っているのがわかる口調で、キールは淡々と告げる。
立ち上がり様に殴り上げられ、もう一度拳を叩き込む。ウェイトレスの悲鳴が上がった気がするが、後回しだ。他の客は見物に回っている。
似たような位置にある緑の瞳に苛立ちが見えて、心からの言葉ではなかったのだと確信する。良かったと、そう思っている自分に気付いた。それと同じくらいに、自分に対して腹立たしさも感じる。そこまで追い込んだのは、エバンスだ。
キィと、小さく鼠の鳴き声がした。
「…連れて来てたのか」
キールの襟元からひょこりと顔をのぞかせた片目の小さな鼠に、思わず声が洩れる。
ふっと息を吐いたキールは、倒れたときに巻き込んだテーブルを起こし、こちらも倒れていた椅子を戻して座った。
「座れよ。おーい、ごめん、グラス割っちゃったから片付けるもの持って来てくれる? あ、酒と水追加で」
周囲の客たちはなんだ終わりか、とざわめきつつそれぞれの会話や食事に戻っていく。
やって来たやせ細った店主に笑顔で詫びつつ割れ物を片付けるのを手伝い、ウェイトレスの運んできた酒のグラスを自分に、水のグラスをこちらに回し、キールは、乾杯、とグラスを打ちつけた。
「ここ、あんたのおごりな。まあそもそも、俺、ほとんど金持ってないけど」
「…どういうつもりだ」
「ま、売り言葉に買い言葉ってやつで。勢いだけじゃなくて、そうすりゃいいのにって思ってるのは本当だけどな? あんたが兄さんに言ったのと同じ」
言葉に詰まったのを、料理が運ばれてきたことに気を取られた振りで誤魔化す。が、できていなかったことは、すぐにわかった。
茹で上がったソーセージの端をフォークで切り取ると、隠すように手で覆ってテーブルに乗せた鼠に食べさせている。キールは、残ったソーセージにフォークを突き刺すと、やや首を傾げるようにしてエバンスを見た。
「あんたさ、もっと自分勝手になるべきじゃないか? なんかあんた見てっと、自分のことは後回しにして人のことばっかやってるだろ。それはいーことなんだろうけどさ、人ばっかを大切にするあんたを見てるあんたのことを大切に思う人はたまらないと思う」
キィ、と、潜めたように鼠が啼く。キールは、そちらを一瞥すると肩をすくめてソーセージを齧った。
「もうちょっと、自分を気遣ってやれよ。あんたが周りを大切にするなら、周りのためにって理由でいいからさ」
突き放したようでいて気遣っているのがわかる口調で、キールは淡々と告げる。
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