台風の目(仮)

来条恵夢

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日常

4-2

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 宿に戻ったところで、ウェイトレスににこやかに笑いかけて門番への酒の手配を頼み、真っ直ぐに眠っていた部屋に上がる。
 蝋燭の明かりに照らされた部屋は、手紙が置いた場所にない以外はキールが後にしたときとほぼ変わっていなかった。一番の違いは、寝台で眠っていたエバンスがキールの腕をつかんでいることだろう。
「さて、何をしようとしていたのかお聞かせ願えますか」
 退路を断つように、キールを寝台に座らせ、エバンスは、腕組みで正面から見下ろす。養い親に叱られた、幼い日を思い出した。
 ふてくされて、視線をらす。
「書いただろ。ここいたってやることないし、国出るから見逃せよ」
「本気ですか」
「ああ。だから、荷造りしててとっ捕まったんだろ。そんなの後にしてとりあえず出ときゃ良かった」
 この部屋を出てから門に至るまでには、それなりの時間がかかっている。空はとっぷりと闇に染まり、門自体も、キールが出れば締めるくらいの間合いだった。
 言葉が通じないはずのユエがどうやってエバンスと意思疎通を図ったのかはわからないが、それも含め、色々と誤算ばかりだ。
「今、そうやって城を出れば君は危険人物とされる」
「実際、危険人物にゃ変わりないだろ。かばってくれるのはありがたいけどさ?」
 じっと、睨むように見つめられる。
「俺が悲観的なら、君は自虐的だ」
 静かに、言葉が落ちた。
 そうして唐突に、ふっと笑った。怒りを湛えたものではなく、悪童のように。
「死にたくはないから生きる、上等だ。それなら、簡単に諦めてもらっては困る。こうなったら、君と、すまないがユエにも、とことん付き合ってもらう。旅は後だ」
「――は?」
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