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霧囲
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シュムに化けるといっても、カイ自身に見えたり聞こえたりするものは変わらない。
だが、二人の見る目は変わった。
「シュム…じゃあない、のよね…?」
女のつぶやきが全てを語る。男の方は、ぎょっとしたように黙り込んでしまった。
そんな空気に嫌気が差して、カイは、シュムの姿をまとったまま、とりあえず小屋の外へ出た。どこへ行くあてもないが、何かを言いたげなのに遠慮したような雰囲気がたまらない。
外はすっかり闇に沈んでいたが、カイにとって暗闇は、少なくともこちらの世界では、それほど恐れる必要のあるものでもない。
人にとっては違うからか、通りには誰もおらず、材料を惜しんでか灯りすらない。その分、星光は届いている。月が見えないのは、新月だからか三日月で今は昇っていないのか。
もう一度、外に出たら。
やはり戻ってくるだろうか。あの霧の中では、驚くほどに感覚が閉ざされる。霧のないこの村の中ですら、完全には戻らない。
わざわざ不自由になる趣味はないが、何もせずにただひたすらに待つ、というのももどかしい。
「シュム」
名を呼んでも、応えがない。当たり前だ。はぐれてしまって、ここには居ないのだから。
それが、妙に落ち着かない。
考えてみれば、カイがこちらにいるときは、ほとんどシュムが傍にいた。シュム以外の者に喚び出されたこともあるが、長く留まったことはない。
この状況は、まるで――
「迷子…か…」
シュムなら、そう言うだろう。親とはぐれた子どもみたいだね、とでも。
いつだったか、そう、契約をするために話し合ったときのことだ。カイのそれは刷り込みみたいなものだと思うよ、と、シュムは言った。ひよこが生まれてはじめて目にした動くものを親と思い込むような、そんなものだろうと
『親と子が逆転してるよねえ、見た目』
そう言ってシュムは笑ったが、カイは笑い返せなかった。シュム自身、目は笑っていなかった。カイに考え直させようとしているのは明らかだった。
カイには、親というものがよくわからない。どれか、あるいは何か、から生まれはしたのだろうが、例えばシュムの妹夫婦とその子どものように育てられたわけではなく、姿かたちすら知らない。シュムはディーが親のようなものだろうというが、そう言われたところで実感はない。
ただ生き延びることに必死で、それがある程度簡単にできるようになると、今度は退屈になった。その退屈を薄めるために、恋愛や家族作りに手を出すものも、いないわけではない。ただ、自分には無縁だと思った。
だが、二人の見る目は変わった。
「シュム…じゃあない、のよね…?」
女のつぶやきが全てを語る。男の方は、ぎょっとしたように黙り込んでしまった。
そんな空気に嫌気が差して、カイは、シュムの姿をまとったまま、とりあえず小屋の外へ出た。どこへ行くあてもないが、何かを言いたげなのに遠慮したような雰囲気がたまらない。
外はすっかり闇に沈んでいたが、カイにとって暗闇は、少なくともこちらの世界では、それほど恐れる必要のあるものでもない。
人にとっては違うからか、通りには誰もおらず、材料を惜しんでか灯りすらない。その分、星光は届いている。月が見えないのは、新月だからか三日月で今は昇っていないのか。
もう一度、外に出たら。
やはり戻ってくるだろうか。あの霧の中では、驚くほどに感覚が閉ざされる。霧のないこの村の中ですら、完全には戻らない。
わざわざ不自由になる趣味はないが、何もせずにただひたすらに待つ、というのももどかしい。
「シュム」
名を呼んでも、応えがない。当たり前だ。はぐれてしまって、ここには居ないのだから。
それが、妙に落ち着かない。
考えてみれば、カイがこちらにいるときは、ほとんどシュムが傍にいた。シュム以外の者に喚び出されたこともあるが、長く留まったことはない。
この状況は、まるで――
「迷子…か…」
シュムなら、そう言うだろう。親とはぐれた子どもみたいだね、とでも。
いつだったか、そう、契約をするために話し合ったときのことだ。カイのそれは刷り込みみたいなものだと思うよ、と、シュムは言った。ひよこが生まれてはじめて目にした動くものを親と思い込むような、そんなものだろうと
『親と子が逆転してるよねえ、見た目』
そう言ってシュムは笑ったが、カイは笑い返せなかった。シュム自身、目は笑っていなかった。カイに考え直させようとしているのは明らかだった。
カイには、親というものがよくわからない。どれか、あるいは何か、から生まれはしたのだろうが、例えばシュムの妹夫婦とその子どものように育てられたわけではなく、姿かたちすら知らない。シュムはディーが親のようなものだろうというが、そう言われたところで実感はない。
ただ生き延びることに必死で、それがある程度簡単にできるようになると、今度は退屈になった。その退屈を薄めるために、恋愛や家族作りに手を出すものも、いないわけではない。ただ、自分には無縁だと思った。
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