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霧囲
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閑で。退屈で。気を紛らわせたくて。
『きっちり契約したら、そう簡単に向こうには戻れないんだよ? カイの寿命の何割かはわからないけど、それを確実に潰すことになるんだよ? ここまで色々とつき合せておいて何だけど、そこまでの価値も義理もないと思う』
刷り込みと言われれば、そうなのかもしれない。
躊躇いなく弱味を見せてくるような奴は、初めてだった。その驚きが刷り込みだったのだと言われれば、違うとは言えないのではないだろうか。驚きは興味につながり、興味は――何かに、発展していった。
シュムと出会ったからといって、退屈が消え去ったわけではない。何よりも優先するのは、やはり、生き延びることだろう。だが、シュムのもたらしてくれた「何か」は、シュムを失えば別の、取り返しのつかない「何か」に置き換わるような気もしている。
それなら。
刷り込みであっても、何も変わらない。シュムを失いたくないと思うことは、刷り込みであろうと他の何かであろうと、何一つ変わらないのではないか。
失うことを懼れ、手放すことに怯える、その感情に、何と名付ければいいのかはわからない。
――このままを、望んだのは贅沢だっただろうか。
「…ん?」
気付けば、視界が白い。音もなくしめやかに、白い霧が流れ込んでくる。
それまで、何故か村の境界で霧は押し止められていた。それが、お構いなしに流れ込んでくる。まだ薄いが、すぐに、外と変わらず濃く、伸ばした指先さえもおぼろげになるだろうことは予想がつく。
それなのにカイは、声を上げることはなかった。
シュムの友人たちに、異変を告げるべきなのではないか。ちらりと掠めたその考えは、だが、霧に押し流されるように去っていった。
――彼女と、変わることなく、穏やかに幸せな日々をと、望んだのは。
霧のようにどこかから流れてきた考えが、自分の中から湧いたようにふわりと浮かぶ。途端におぼつかなくなった思考の端で、カイは、少し前にもこれと同じことがあったと思い出す。いつの間にか摩り替わっていた、思考。
――知らないふりをしようとしたんだ。彼女に出会ったことで変わった世界が恐ろしくて、変わった自分が恐ろしくて――
『きっちり契約したら、そう簡単に向こうには戻れないんだよ? カイの寿命の何割かはわからないけど、それを確実に潰すことになるんだよ? ここまで色々とつき合せておいて何だけど、そこまでの価値も義理もないと思う』
刷り込みと言われれば、そうなのかもしれない。
躊躇いなく弱味を見せてくるような奴は、初めてだった。その驚きが刷り込みだったのだと言われれば、違うとは言えないのではないだろうか。驚きは興味につながり、興味は――何かに、発展していった。
シュムと出会ったからといって、退屈が消え去ったわけではない。何よりも優先するのは、やはり、生き延びることだろう。だが、シュムのもたらしてくれた「何か」は、シュムを失えば別の、取り返しのつかない「何か」に置き換わるような気もしている。
それなら。
刷り込みであっても、何も変わらない。シュムを失いたくないと思うことは、刷り込みであろうと他の何かであろうと、何一つ変わらないのではないか。
失うことを懼れ、手放すことに怯える、その感情に、何と名付ければいいのかはわからない。
――このままを、望んだのは贅沢だっただろうか。
「…ん?」
気付けば、視界が白い。音もなくしめやかに、白い霧が流れ込んでくる。
それまで、何故か村の境界で霧は押し止められていた。それが、お構いなしに流れ込んでくる。まだ薄いが、すぐに、外と変わらず濃く、伸ばした指先さえもおぼろげになるだろうことは予想がつく。
それなのにカイは、声を上げることはなかった。
シュムの友人たちに、異変を告げるべきなのではないか。ちらりと掠めたその考えは、だが、霧に押し流されるように去っていった。
――彼女と、変わることなく、穏やかに幸せな日々をと、望んだのは。
霧のようにどこかから流れてきた考えが、自分の中から湧いたようにふわりと浮かぶ。途端におぼつかなくなった思考の端で、カイは、少し前にもこれと同じことがあったと思い出す。いつの間にか摩り替わっていた、思考。
――知らないふりをしようとしたんだ。彼女に出会ったことで変わった世界が恐ろしくて、変わった自分が恐ろしくて――
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