台風の目(仮)

来条恵夢

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夢見

1-1

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 青い燐光を放つ、いつもの魔方陣が浮かび上がっていた。
 シュムの特技の、ただ思い浮かべるだけでえがける、変り種の魔法陣。今回、シュム自身の意思で描いたものだが、特に誰かを指定したものではなかった。
 それでも、期待はあった。暇だから誰か、と呼んで、付き合ってくれるのはさすがに数えるほど。中でも――カイは、よく遊んでくれる。
「あれ」
 しかし予想に反して、浮かび上がったのは黒く、カイよりも背が高く、ずっと強い、知り合いだった。
「珍しいね、ディー。久しぶり」
 言いながら、手を差し出す。ディーほどの力を持っていれば、こちらから接触しない限り陣から出てこられないという制約などほぼないようなものだが、ディーがそんなことをしたことはない。
 指先がかすかに触れて、ディーが確かに「こちら」の世界へと姿を現す。
ひまだったの? …お説教、とか、違うよね? 何か…怒ってる?」
 無言でみつめられる。無口なのもいかめしい顔つきもいつものことだが、それにしてもやたらと雰囲気が重い。
 カイの師であり父親代わりのようなディーは、シュムをただじっと見つめてくる。
「シュム」
「はい?」
「カイラスが死んだ」
 誰だっけ。
 普段そう呼んでいないとはいえ、間抜けにもそんなことを思ったのは、明らかに、考えたくないからだった。わからないはずが、ない。
 カイラス。
 カイ。
 真名まなの一部を縮めてシュムがそう呼んでいる、大切な友達。
「―――は?」
 人よりもずっと強く、長生きをする種族。「こちら」よりも弱肉強食の世界とはいえ、ディーには及ばずとも生き残れるほどには強い。そんなカイが死ぬのは、シュムのずっとずっと後だと思っていた。
 いや待って。死んだって。
「伝えておいた方がいいかと」
 途中で言葉が切れた、と思ったが、それはシュムを支えてくれたからだった。気づけば、ディーに背を支えられ、ぺたりと草地に座り込んでいる。
 呆然と見つめたディーの瞳にも、いたむような色が見えた。
 本当なのだと、何故かそれだけですとんと心に落ちた。認められないほうが、嘘だと言ってしまえたら、まだ楽だろうなとぼんやりと思う。
「だって…約束、したのに…」
 意味のない言葉が、こぼれ落ちる。
 果たされることなく終われるかも知れないと思っていた、約束。それでも、こんな風な幕切れは考えていなかった。
「だって…あたしより、ずっと…長生きだって…」
 涙は出ない。
 ただ、実感が遠い。足に触れているはずの草の感触さえ、他人のもののように思える。
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