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夢見
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「あ。さっきのって、見せたかったのって一個だけ?」
「…ああ」
訝るように応えたカイは、変わらず目を逸らしたままだ。
それを気に留めながら、それなら、と、シュムは心の中で呟いた。人や場の記憶というものに共鳴しやすくなっているのかもしれない。関わりのない人の過去を夢に見るのは、今が初めてではない。
夢の中の老人は、この村が村になる前に住み着き、この洞窟に手を入れた人物だろう。老人の集めた書物はこの洞窟に保存されており、おかげでシュムは、外に出る必要もなく調べ物を終えられた。
おそらくは、保管には先月遺体を乗っ取られたあの魔導師も手を貸しており、また、霧を拒んでいた結界も、老人の残したものだっただろう。あの魔導師のものにしては、強すぎた。
残された書物は、ミーシャと相談した上で、シュムたちの出立後にエバンスに連絡が行くように頼んでおいた。受け継ぐべきは、あえていえばこの村だろうが、きちんと保管してもらったほうがいいだろうとの判断だ。
老人が妻を保存し、葬った場所で、シュムはその想いを垣間見た。しかしそれは、あくまで老人だけの想いだ。
「あのね、カイ。あたしはきっと、親しい誰かを見送っても生きていける。少し前までそれが怖いって言ってたんだから説得力ないかもしれないけど、多分、大丈夫。アズが死んでも、あの馬鹿王やエバンスがいなくなっても――カイがいなくなっても、きっと」
「――最後にする」
「ん?」
「これで、最後にする。シュム。俺と名を交換して、一緒に生きてくれ」
ようやく、カイの顔が上げられた。赤い瞳が、しっかりとシュムを捉える。シュムも、真っ直ぐに見つめ返す。
「それじゃあ、あたしも最後にする。カイも、あたしがいなくても生きていけると思うよ。後悔したって、愚痴も聞かない。それでもいいの?」
「…そう言ってる。ずっと」
「本当に、カイは馬鹿だね。しかも、ちょっとずるい」
あんな夢を立て続けに見て、さみしいと思わないはずがない。喪いたくないと。
だがカイは、緊張した面持ちはそのままに、返答をどう推測したものか目が泳いでいる。シュムは、ちょっとだけ笑った。
「これで最後。あたしはもう、カイの生きる時間を半分もらって悪いとも、一緒にいてあげるんだとも、思わない。ずっと一緒に、いろいろ言いあっていられたらいいなって思ってる。それなら、是非、お願いします」
ずいぶんと長い間、カイは、ぽかんと口を開けたまま呆けていた。人によっては何を犠牲にしてでも得たいだろうモノをぶら下げておきながら、断られることしか考えていなかったのかと少しばかり首を傾げる。
…ずいぶんと、経った。
「あのー…カイ?」
心配になってきて、目の前で手を振ってみると、ややあってようやく、目が合った。
「シュム。――シュム・リーディスト」
「うん」
応えて、シュムも、カイの名を呼んだ。
「…ああ」
訝るように応えたカイは、変わらず目を逸らしたままだ。
それを気に留めながら、それなら、と、シュムは心の中で呟いた。人や場の記憶というものに共鳴しやすくなっているのかもしれない。関わりのない人の過去を夢に見るのは、今が初めてではない。
夢の中の老人は、この村が村になる前に住み着き、この洞窟に手を入れた人物だろう。老人の集めた書物はこの洞窟に保存されており、おかげでシュムは、外に出る必要もなく調べ物を終えられた。
おそらくは、保管には先月遺体を乗っ取られたあの魔導師も手を貸しており、また、霧を拒んでいた結界も、老人の残したものだっただろう。あの魔導師のものにしては、強すぎた。
残された書物は、ミーシャと相談した上で、シュムたちの出立後にエバンスに連絡が行くように頼んでおいた。受け継ぐべきは、あえていえばこの村だろうが、きちんと保管してもらったほうがいいだろうとの判断だ。
老人が妻を保存し、葬った場所で、シュムはその想いを垣間見た。しかしそれは、あくまで老人だけの想いだ。
「あのね、カイ。あたしはきっと、親しい誰かを見送っても生きていける。少し前までそれが怖いって言ってたんだから説得力ないかもしれないけど、多分、大丈夫。アズが死んでも、あの馬鹿王やエバンスがいなくなっても――カイがいなくなっても、きっと」
「――最後にする」
「ん?」
「これで、最後にする。シュム。俺と名を交換して、一緒に生きてくれ」
ようやく、カイの顔が上げられた。赤い瞳が、しっかりとシュムを捉える。シュムも、真っ直ぐに見つめ返す。
「それじゃあ、あたしも最後にする。カイも、あたしがいなくても生きていけると思うよ。後悔したって、愚痴も聞かない。それでもいいの?」
「…そう言ってる。ずっと」
「本当に、カイは馬鹿だね。しかも、ちょっとずるい」
あんな夢を立て続けに見て、さみしいと思わないはずがない。喪いたくないと。
だがカイは、緊張した面持ちはそのままに、返答をどう推測したものか目が泳いでいる。シュムは、ちょっとだけ笑った。
「これで最後。あたしはもう、カイの生きる時間を半分もらって悪いとも、一緒にいてあげるんだとも、思わない。ずっと一緒に、いろいろ言いあっていられたらいいなって思ってる。それなら、是非、お願いします」
ずいぶんと長い間、カイは、ぽかんと口を開けたまま呆けていた。人によっては何を犠牲にしてでも得たいだろうモノをぶら下げておきながら、断られることしか考えていなかったのかと少しばかり首を傾げる。
…ずいぶんと、経った。
「あのー…カイ?」
心配になってきて、目の前で手を振ってみると、ややあってようやく、目が合った。
「シュム。――シュム・リーディスト」
「うん」
応えて、シュムも、カイの名を呼んだ。
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