雨舞い

来条恵夢

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昨日の未来

四日目

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「むかつくほど善人だな」
「誰が?」

 上下を黒でそろえ、手袋まで黒い。そんな格好で、霧夜キリヤ羽澄ハスミを振り返った。羽澄の格好も大差なく、違うと言えば、霧夜のようには黒くない髪と瞳と、上着がかかとに届くほどもありそうなロングコートというくらいだろう。
 霧夜の上着は身に合ったジャケットだが、羽澄のそれは、動くには邪魔に見える。実際、邪魔だ。しかし当の羽澄は、風になびく黒コートは殺し屋の基本だろ、と言うのだった。
 羽澄は遠慮なく、黒革の手袋で包まれた指先を霧夜に突きつけた。

「誰がって? お前以外に誰がいるよ、え?」

 半ば冗談で半ば本気のような言葉に、霧夜は軽く自嘲した。

「善人だったら、まだこんなところにはいないよ」
「善人は生き残れない、って?」
「そう。言ったのは、そっちだろう」

 数年前、学校で交わした会話を思い出して、揃って苦笑した。
 学校に行けるのはそれだけの財力があるからで、二人ともそれなりに未来の保証はあったはずだった。こんな今日が来るとは、本気では考えていなかった。少なくとも、霧夜は。
 しかし、それをすぐに収めて、目線をわす。
 行く前のそれが、一気に過去へと時を戻す。ふっと軽く眩暈を覚えたが、先に打ち破ったのは羽澄だった。

「じゃあ――っと、ゴーグルゴーグル。あれ、なんで俺が二個とも持ってんだ? ほら。地図は持ったな?」
「誰に言ってるんだよ、羽澄じゃあるまいし」

 羽澄から手渡された、色は濃いのに視界はそう変わらない特殊なゴーグルをかけながら、霧夜は口元に笑みを浮かべた。

「そっちこそ、迷子になっても助けには行かないからな?」
「いらねーよ」
「言ったな」
「おうよ。迷ったら、自分で何とかすらぁ」
「迷う可能性はあると、認めたわけだ」
「…まあ、そういうことにしといてやる」

 言葉を投げ合う二人の口調は軽く、どちらも、口元は笑みにほころんでいた。

「じゃ、後でな」
「ああ」

 短く、一時の別れをげると、霧夜は羽澄に背を向け、慣れ親しんだ闇へと入って行った。
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