回りくどい帰結

来条恵夢

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引越

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 ホテルシェフ監修のポタージュスープ。おでん。トマトの水煮缶。牡蠣の磯焼き。オイルサーディン。
 缶詰売り場かと言いたくなるような種類の豊富さに、雪季セッキはなんとなくため息をついた。食品の缶詰だけではなく、ジュースや酒の缶や瓶も多い。
 それらを一つ一つ、確認しながら分けていくのは地味に疲れる。

「整理という言葉を知らないのか、お前らは」
「別に困らないし」
「…本気か」

 よくまあこれまで無事に生き延びたものだと、悪運の強さに嘆息する。社員や友人が好きに飲み食いしていたとなれば、尚更だ。
 ほぼもらい物だという缶詰瓶詰をとりあえず三つの山に分けていた雪季は、つい手を止め、ソファーでくつろいでこちらを見ているアキラに目を向けた。
 目が合うと、雑誌の表紙のようににこりと微笑ほほえまれる。

「手伝い、る?」
「ああ。まず、信用できる調査会社に連絡してクリーニングかけろ」
「クリーニング?」
「盗聴器。出て来るんじゃないか」
「げ」

 うんざりとした顔に、手を振って動くよううながす。
 英はテーブルに放置していた携帯端末を取ると、しばらく画面でやりとりをした後、電話をかけ始める。面倒くさそうにはしているが、驚いているわけではないのは、慣れているのかそのくらいは想定内なのか。
 その間にも、雪季は仕分けをすすめていく。
 昼過ぎにはやって来るという業者を待つ間に昼食の用意をする頃合いには、半分以上を占める山と、残り半分ずつを分け合うような小さな二つの山に分けられていた。
 昼食は、冷蔵庫にはろくなものがないと判明しているので、乾麺と小さな山の一つから取った缶詰をいくつか使って具沢山のパスタをつくる。

 結果、盗聴器は五つほど出てきた。

 業者が帰った後には、ため息が残った。半ばが呆れ、半ばは感心しているあたりが、やはりこいつはしぶといなと雪季は思う。
 冷凍庫にリットル表示のすくうタイプのバニラアイスがあったので、小さな山から桃缶を引いて赤ワインを加えて加熱して添える。
 マグカップに無造作に盛ったアイスと桃を手渡すと、何故か苦笑された。

「器用だな」
「…ただのアイスと缶詰の桃だ。まさかお前、缶詰も開けられないのか」
「違うって。よくそんな風に、こまめに考え付くと思って。俺、一人暮らし始めてすぐはパスタ買って醤油しょうゆらして食べたりとか」
「金がなければそんなものだろう」

 スプンで押すだけでつぶれる白桃とアイスを一緒に口に運び、蜜柑の方が合ったかと考える。生憎あいにく、無害な方の小山に蜜柑みかんの缶詰はなかった。

「料理の仕方がよくわからなくて。結局、その都度付き合ってた子に丸投げした。まあ料理が上手い子なんてほとんどいなかったけど、腹に入ればなんだって一緒だし」
「そうか」

 雪季としては、どうせ食べるならなるべく美味いものが食べたい。それを他人に押し付けるつもりまではなかったが、あの申し出はそれでかと納得する。
 家での食材料費は全部持つから料理を作ってほしい、というのは、雪季にとっては渡りに舟の提案だった。
 るわけではないが、料理自体はそれなりに好きだ。毎度家で食事をするわけではないようだが、遠慮なく資金源になってもらおう。
 さっさと食べ終えてカップを流しに置いて水を張ると、相変わらずソファーでくつろぐ英に目をやる。アイスは、まだ半分ほど残っているようだ。

「新聞は取ってるか?」
「いや。ネット契約はしてるけど、何か読む?」
「それじゃあ、捨てていい漫画雑誌か服やタオルは?」
「何をするんだ?」

 指定のごみ袋は流しの下で発見して、スーパーでもらうようなレジ袋も近くにまとめてあったので何枚か適当に出す。
 おそらく、誰か一人が放り込んで、後はそれを見てここが袋置き場と認識されたのだろう。獣道のようだ。

「缶詰の処分」

 とてつもなく意外なことを聞いたように目を丸くして、首を傾げながらも取りに移動する。向かったのが風呂場なので、タオルを取りに行ったのだろう。
 雪季はその間に、大きな山の缶瓶を大まかに種類ごとに収納棚に収めていく。
 戻った英は、タオルよりもぼろ雑巾と呼びたくなるような布を大量に抱えていた。汚れて見えるだけで匂ったり汚れがついているわけではないのか、あごで軽く押さえている。

「これでいいか?」
「ああ」
「ハウスクリーニングで片付けてくれてるからないかと思ったら、なんか大量に押し込んであった」
「一度洗ってあるようだから、勝手に捨てていいとは思わなかったんだろうな」

 ある程度吸水力の残っていそうなものを選んで、レジ袋の底に敷く。

「…何をするんだ?」
「右端の缶詰をこの中に空けていってくれ。あ。その前に、缶を見ろ」
「うん?」

 雪季が右端に分けた、有害な小山。素直に上下をひっくり返した英は、すぐに顔をしかめた。

「これ…は、単に古くてびたのとは違うのか?」
「もっと露骨ろこつなのがある。ミートソースの缶」
「あー…うん、露骨だ」

 ひっくり返したそこには、ボンドでふたをした穴がある。いくら缶の底とはいえ、雑にもほどがある。
 さっきの錆びたものは、硬度のある注射針でも使ったのだろう、穴自体は小さかった。ただ、時間がっているのかその穴から腐食が広がったせいで判りやすくなってしまっただけで。
 雪季が右端に固めた山は、全てそういった細工がされていた。

「成分が知りたければ分析検査をたのんだ方がいい。証拠として残すなら、写真でも撮っておくか? 現物をそのまま保管するなら、場所を移せ」
「何が入ってると思う?」
「毒か睡眠薬か、媚薬びやくといったところか」
「なんだその三択…」

 一番妥当な毒は、一度で決めようとするのか長期にわたって摂取させるものか、どちらにしても最終的には素直に命を狙ったものだろう。睡眠薬であれば、仲間や友人を装ってこの家に入り込んでから何かをするつもりだったか。媚薬なら、ゴシップの生産でも目論もくろんだものか。
 あるいは、警告として細工だけで何も入れていないか、それほど害にはならないが異物混入を知らしめるようなものでも入っているかもしれない。
 それらの可能性を告げると、英は、またもや深々とため息をついた。

「マメだ」
「どれももらい物だというなら、仲介しただけでここに直接来た人間とは限らないし、忍び込んで細工をしていくのも簡単だろう。親しい中に犯人がいるとは限らない」

 英は、面白くもなさそうに肯いた。

「そのへんはどうでもいいけど。保管、しておくべきだと思うか?」
「特定の誰かが関与したという証拠には難しいんじゃないか。それほど手間ではないから写真くらいは残しておいてもいいだろうが、首謀者への直接の手札には向いてないだろうな」
「うん、捨てようか」

 あっさりと決めて、英は缶詰をあけた。
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