回りくどい帰結

来条恵夢

文字の大きさ
15 / 130
女子会

しおりを挟む
「入ります」

 応接の戸をノックして、声をかけて返事は待たずに開ける。中にアキラはいたが、寝てはいなかった。

「なんだ、起きてたのか。そろそろ出るぞ」
「うん。行くか」

 中原に出掛けると声をかけ、ついでにそのまま直帰なのであいさつもして、地下の駐車場に向かう。
 社用車もねている英の車を、一通り点検する。一度、その様子を目撃した笹倉ササクラに、教習所以外でそこまで点検してる人って見たことがない、と言われた。タクシー会社では普通だろうが、確かにあまり個人ではやらないかもしれない。
 その間に、英は先ほど中原から言われていたメールの添付ファイルを確認している。

「これって、俺立ち会わないと駄目? 雪季セッキが点検してから呼びに来てくれたらいいんじゃないか?」
「お前が呼んで来るならそれでもいいんだがな。メールもメッセージも着信も無視するならはじめから連れてくるしかないだろ」
「終わってから探しに来てくれればいいのに」
「その間に細工されたら点検した意味がないんだが?」
「あー…」

 相変わらず、呑気だ。本当にこれで命を狙われているのかと思うが、この短期間にブレーキの細工を直したことがあるので、残念ながら事実だ。
 納得したところで、英が運転席に、雪季が助手席に座る。何度か運転を申し出たのだが、あまり譲らない。運転を楽しんでいるのなら邪魔をするのも悪いかとは思う。

「そうだ俺、今日はデートだから帰りは運転よろしく。駅で下ろして」
「わかった」

 目的地まではそう遠くない。時間がないかもしれないと思いつつ、言葉をぐ。

「お前がこれだけ狙われている理由を、聞いてもいいか」
「ようやくだな」

 嬉しそうに笑うのがしゃくさわるが、首謀者がわかれば対策も立てやすくはなる。逆に、先入観のフィルターもかけかねないのだが、そのあたりはうまくやるしかない。

「そうだなあ…俺のじーさまっていうのが、見事な一代での成り上がりの人で。波乱万丈な半生で山あり谷ありだったらしいんだけど、今は上手い具合に山のあたりで止まってるらしくって。で、子どもも孫もわらわらといて。ただ、じーさまは自分の子どもや孫だからって、苦労して稼いだ財産を渡すのもなんだかなーって思ってるらしくて」

 そう言えば雪季の祖父母はもうく、これももう亡い両親には兄弟もいなかったらしいので、親戚はいるとしてもかなりの遠縁しか残っていないはずだが、命を狙っているのがそういった血縁者となると、いない方が気楽だろうと思う。
 以前仕事の関係でざっと調べた英の血縁者を考えても、愛人の子だったり離婚や再婚を繰り返したりと、かなりややこしいことになっている。英自身、母親と父親に婚姻関係はない。

「高校を卒業した時に、結構な額のお金をもらってさ」
「入学祝ってことか?」
「いやいや、けたが違う。で、利子は要らないから十年後に返せ、と。使う内容は好きにしろ、と」
「…なんだそれ」

 運転のために前を見たまま、英は、皮肉気に笑みを浮かべる。

「別に、それで遺産遺す相手を決めるとは言ってないんだけどな。でもそんなことされたら、いかに増やせるかを見て後継者決めようとしてるんじゃないかって思っても仕方ないだろ? でまあ俺は、遺産は別にいいし、よしこれは好きなだけ使おう、と思って。あっちこっち行く費用に充てて、そこでいろんな人に会って、今の仕事の基礎ができまして、というかあっちこっち回ってたらこんな事になってて」
「なるほど。成功したから、お前が後継者になってるんじゃないかと見られたわけか。…他の奴は、増やせなかったのか?」
「株とか投資とか、頑張ってるみたいだけどそれほどの額にはなってないんじゃないかな。起業とか事業に手を出した人は、可もなく不可もなくかぽしゃったのが多いかな」

 こういう競争相手は厭だろうな、と、雪季も思う。へらへらと笑いながらあっさりとかせがれると、腹も立つだろうが、無力感も凄そうだ。

「まあまだ返してないから、このままもらっといて遺産放棄しても困らないんだけど。いやそれで放棄になるのかよくわからないけどさ」
「お前…さっさとその宣言をしないのは、この状況を楽しんでるからじゃないか…?」
「うわー、雪季にはかなわないな」
 
 何故そこで笑う、と、雪季は額を押さえた。命がけで遊ぶ馬鹿がいる。

「ああでも、俺ちょっといいことしてるかもだよ?」
「はあ?」
「俺が目くらましになって、隠れてる人がいるかもだろ」
「…ということは、お前は別人に譲られると思ってるんだな?」
「ここ、盗聴器ないよな?」

 そこも確認しているので、頷く。ただ、ここまでは聞かれても問題がないと思っていると思うと、それはそれで頭痛を覚える。

「お金受け取って、院に行って、研究の道まっしぐらに突っ走ってる人がいて。多分、奨学金みたいな感覚だったんだと思う。働き始めたら、残ってた分全部返して、使った残りもこつこつと返済したらしいから。持ってたら研究費に使っちゃいそうだし、借りたもの返すのは当然でしょ、無利子で助かったー、って。遺産をもらえるとは思ってないみたいだから、それならそのままもらえばよかったのに」
「そいつだと?」
「うーん、じーさまはお金がなくて勉強できなかった人らしいし、波乱万丈の人生がなかなか安定しなかったのは、好きなこと見つけて突っ走って、成功は二の次、みたいなところがあったからみたいだから。研究馬鹿は好きなんじゃないかな」
「そうか」

 変な奴だと改めて思う。
 遊んでいるのも確かだろうが、「研究馬鹿」に対して、英自身も悪い感情は持っていないようだった。兄や父親たちには何の関心も持っていなさそうなのに、その人に対しての言葉は、少しばかり楽しそうだ。

「というかまあ、じーさまは俺のことどっちかと言えば嫌いだろうし」 

 意外に思って思わず横顔を凝視する。英は、淡々と前を見ていた。

「あの人はなんだかんだで義理と人情の人だから。冷酷だったり汚いことやったりしても、泣いて叫んで笑って? そういう、仁侠話の主人公みたいなのを地で行く人で、俺みたいなのは理解できないと思う。別に俺も、理解してもらう必要もないけど」
「それだけ色々と自覚しているなら、とっとと辞退しろよ」
「でも今更そんなこと言ったところで、どうせ信用されないと思わないか?」
「…思う」

 せめて、事業が軌道に乗ったあたりでのものなら半信半疑くらいには受け取られただろうが、何度も妨害を回避して唐突に言ったところで、下手な偽装と思われるだけだろう。

「つまり、最低でもあと二年」
「それまでにじーさまがぽっくり行けば縮まるかもだけど」
「それを望むのはどうかと思う」
「だったら、これからもよろしく」

 信号待ちが重なって、しっかりと雪季を見て笑みを浮かべた。どことなく罠にかかったような腑に落ちない気分で、雪季は、英を見返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...