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誕生日
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家に着いた頃には、肩を貸せばどうにか歩けるようにはなっていた。ペットボトルはほぼ空になっている。
とりあえずトイレに連れて行ってから、風呂は入ると余計に回るのか、もう回り切ったから汗をかいて出させた方がいいのかと考える。
「…河東。腹は減ってるか」
「えー? 何ー?」
「何か食べられるか」
食べる、という返事に、一応待っていたトイレの前を離れて、キッチンへと向かう。胃に優しそうで発汗作用のありそうなもの。簡単に作れるもの。とりあえず、冷凍ご飯をレンジに放り込む。
土鍋を出して、出汁の素と水を入れて、白菜の葉はちぎって、芯は薄く切る。チューブの生姜を大量に入れて、適当にうす味に調えてご飯を入れて、スープが大分多いので熱を逃がさないためにも片栗粉を入れてとろみをつける。最後に、溶き卵を投じて蒸らす。
唐辛子は刺激が強すぎるかと見送った。
土鍋をローテーブルに運んでも英の姿がなく、吐いているか下しているか、まさか眠っているのか、単に一人で歩いて来れないだけなのか。トイレに向かう。
「河東、生きてるか」
「なんとか」
返事の声は案外しっかりとしていて、安堵する。英は、トイレの扉の前でうずくまっていた。
「…立てるか?」
「あー…。雪季さ、俺のこと、そんなに好きじゃないよな?」
「…今更確認の必要な何が」
「えーっとほら…催淫剤?」
一度瞑目して、雪季は、英の腕をつかんだ。肩に回して立たせる。
「…雪季?」
「おじや作ったから、食べて、風呂でも入ってどうにかしろ。俺はもう寝る」
「優しいのか酷いのかわからないな、雪季は…」
「知るか」
ローテーブルの前に英を置いて、ストックしてある水のペットボトルを出して、ローテーブルに載せる。
「この辺汚したら自分で掃除しろよ」
「あ。やっぱりひどい、雪季」
「そうか、残念だったな」
ちらりと時計を見れば、あれだけ色々とあった気がするのにまだ日付も越えていなかった。
嬉しくもないが、なかなか忘れにくそうな誕生日になったなと、自室へ向かいながら雪季は溜息を落とす。結愛に祝われたのがもう随分と前のような気すらする。
「あ。雪季!」
振り返ると、英がへらりと笑った。
「誕生日おめでとう」
「…めでたい年でもないだろ、もう」
「おやすみー」
言いながらさっさと土鍋に向き合った英に再度背を向ける。
知っていたのか、と、思う。そういえば雪季は、英の誕生日を知らない。高校時分に祝われているのを見たような気もするが、部活の試合で勝ったのかもしれないし、別の何かだったのかもしれない。さすがに、そこまでは記憶に残っていなかった。
どこか落ち着かない気持ちで、雪季は部屋に戻る。葉月に連絡をしないと、と思った。
とりあえずトイレに連れて行ってから、風呂は入ると余計に回るのか、もう回り切ったから汗をかいて出させた方がいいのかと考える。
「…河東。腹は減ってるか」
「えー? 何ー?」
「何か食べられるか」
食べる、という返事に、一応待っていたトイレの前を離れて、キッチンへと向かう。胃に優しそうで発汗作用のありそうなもの。簡単に作れるもの。とりあえず、冷凍ご飯をレンジに放り込む。
土鍋を出して、出汁の素と水を入れて、白菜の葉はちぎって、芯は薄く切る。チューブの生姜を大量に入れて、適当にうす味に調えてご飯を入れて、スープが大分多いので熱を逃がさないためにも片栗粉を入れてとろみをつける。最後に、溶き卵を投じて蒸らす。
唐辛子は刺激が強すぎるかと見送った。
土鍋をローテーブルに運んでも英の姿がなく、吐いているか下しているか、まさか眠っているのか、単に一人で歩いて来れないだけなのか。トイレに向かう。
「河東、生きてるか」
「なんとか」
返事の声は案外しっかりとしていて、安堵する。英は、トイレの扉の前でうずくまっていた。
「…立てるか?」
「あー…。雪季さ、俺のこと、そんなに好きじゃないよな?」
「…今更確認の必要な何が」
「えーっとほら…催淫剤?」
一度瞑目して、雪季は、英の腕をつかんだ。肩に回して立たせる。
「…雪季?」
「おじや作ったから、食べて、風呂でも入ってどうにかしろ。俺はもう寝る」
「優しいのか酷いのかわからないな、雪季は…」
「知るか」
ローテーブルの前に英を置いて、ストックしてある水のペットボトルを出して、ローテーブルに載せる。
「この辺汚したら自分で掃除しろよ」
「あ。やっぱりひどい、雪季」
「そうか、残念だったな」
ちらりと時計を見れば、あれだけ色々とあった気がするのにまだ日付も越えていなかった。
嬉しくもないが、なかなか忘れにくそうな誕生日になったなと、自室へ向かいながら雪季は溜息を落とす。結愛に祝われたのがもう随分と前のような気すらする。
「あ。雪季!」
振り返ると、英がへらりと笑った。
「誕生日おめでとう」
「…めでたい年でもないだろ、もう」
「おやすみー」
言いながらさっさと土鍋に向き合った英に再度背を向ける。
知っていたのか、と、思う。そういえば雪季は、英の誕生日を知らない。高校時分に祝われているのを見たような気もするが、部活の試合で勝ったのかもしれないし、別の何かだったのかもしれない。さすがに、そこまでは記憶に残っていなかった。
どこか落ち着かない気持ちで、雪季は部屋に戻る。葉月に連絡をしないと、と思った。
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