回りくどい帰結

来条恵夢

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文化祭

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すごいね、綿菓子くるくるって、プロじゃなくてもできるんだね!」

 割りばしに絡めたふわふわの砂糖菓子を振り回す結愛ユアが危なっかしくて、雪季セッキは、そっとベンチへと導いた。
 雪季が在学中にはなかった代物しろものだが、卒業後に設置されたのか、文化祭の時だけ臨時で借り受けたものなのか。どちらにしても、ちょうど人が退いたところで入れ替わりのように腰を下ろす。
 午前中は弟の計都ケイトがいた分抑えていたのか、はしゃぎようがひどい。現役高校生よりもよほど、満喫しているのではないだろうか。
 計都は初めから、午後は友人と行動する予定だったようだ。雪季はてっきり、それなら一旦校外に出て三人で昼ご飯を食べれば散会かと思っていたのだが。…取材込みでやってきた結愛が、それで済ませるはずがなかった。
 昼食は高校生たちが作るつたない軽食を並べ、計都と別れた後も飴を買ったり似顔絵を描いてもらったりと楽しそうだ。
 嬉しげに綿菓子にかじりつき、案の定顔と手をべたつかせた結愛に、ウェットティッシュを渡してやる。
 朝からずっと、周囲からカップルと見做みなされている視線を感じるが、気分としては妹の世話を焼く兄だ。ちなみに、本物の兄の片割れとは、今も若干冷戦中らしい。

「水分も取っとけ。結構蒸すからな、今日」
「はーい。河東カトウ君、来れなくて残念だったね」
「…高校生活を懐かしむような奴でもないから、いいんじゃないか」

 アキラと結愛と計都と、謎の四人組になる覚悟をしていたが、先約があると出掛けて行った。詳しくは聞いていないがガーデンパーティーだとか言っていたので、公立高校の文化祭よりもよほどいいものを食べているだろう。
 何にしても、同級生が教師をしているという母校で英と連れ立つ羽目にならずに済んで、少なからずほっとしている。高校時代に接点がなかったのに今頃何故と問われるのが面倒臭い。結愛とも学校ではあまり接しないようにしていたが、有名度が違う。
 
「どうしても来たかったら先約なんて気にせず断っただろうから、それほど興味もなかったんだろ」
「楽しいのに」

 無人の教室さえも写真を撮りまくって、出店の制覇を目論もくろむ結愛が、不思議そうに首を傾げる。一般的に、高校を卒業して十年足らずの二十代が高校の文化祭を全力で楽しめる率は少ないと思うのだが。
 雪季の曖昧な表情に気付いたのか、結愛が、はっとしたように目を見開いた。

「ユキちゃん、楽しくない?」
「…いや、結構面白い。真柴マシバの反応が」
「それ何か違う…」

 わかりやすく頭を抱える結愛に、笑みがこぼれる。そういったところが見飽きない。

「案外、盛況だな」
「だね。いいなあ、私たちの時って、外のお客さん入れたりしなかったよね。お店だってもっと小規模で…そっか、部活でお店開くとかなかったんだよね。クラス単位か文化部の部活発表だけだったから、舞台中心で。お店やってるのって、半分くらいだったもんね。半分は舞台発表だったから。懐かしいなあ」

 よく覚えているなと半ば感心し、半ば呆れ、雪季はタコ焼き機で焼かれたホットケーキミックスのミニケーキをつまむ。中にはチョコかジャムが入っていて、生焼けを避けようとしたのか浮かれて原価計算を放棄したのか、とやや意地悪なことを考えた。冷めて固くなってはいるが、食べられないほどではない。
 隣で結愛は、食物部で買ったシフォンケーキをむしっている。綿菓子を食べたばかりなのだから、ソース煎餅にでもすればいいのに、と思うが好き好きだ。
 梅雨時だというのに恵まれた天候と暖かな日差しの下、のんびりと菓子をつまむ。

「この頃、学園ものとか描いてないなあ」
「今の連載は?」
「主人公高校生だけど、最近ほとんど学校行ってくれないんだもん。行事とか授業なんて全然お呼びじゃない」
「確かに」

 よく制服姿で描かれているからうっかりしていたが、言われてみればその通りだ。
 それなら何故そんなにも写真を撮るのかと尋ねると、いつ何時どんな資料が必要になるかわからないからストックは貴重、ときっぱりとした答えが返ってきた。漫画に限らず、そういうものかも知れない。
 雪季も、考えてみれば似たようなことをしている。
 休日や仕事終わりに、英がおらず時間が空いているときには、前職の伝手を維持できるように短時間のバイトを入れたりしている。
 一応、笹倉に副業禁止の規定がないことは確認済だ。英がそのあたりを訊いて来ないということは、笹倉は話していないのだろう。別に秘密ではないが、厄介なことになる予感しかないのでありがたい。

「期末テスト直後くらいだよね、今。で、少ししたら球技大会」
「よく覚えてるな」
「やっぱり、色々考えるときにも自分の記憶が元になることが多いから。はじめの方なんて、特にそうだったからよく思い返したりして、そのせいかな。学校行事の載ったプリントまだ置いてあるし、今はホームページにも年間行事予定とか載せてたりするしね。情報社会便利」
「…会社の、笹倉さんには会ったんだよな?」
「うん。今でも、たまーにメッセージのやり取りしたりするよ?」

 雪季には、二人がどんな話をするのか想像がつかない。そういえば英とのやり取りもあるということだが、未知の領域だ。

「別の同僚で、女の子が一人いるんだけど」
「あ、小説書いてる人?」
「あ。いや、それとは別。ゲームや漫画が好きで所謂いわゆるハッカー、らしい」
「え、リアルハッカー?! 凄い、かっこいい!」

 目を輝かせて身を乗り出す結愛を、静かに押し返す。案の定、喰いついて来た。笹倉を介して、もしかすると既に紹介されているかと思ったがそうでもないようだ。

「…笹倉さんを通して連絡先は交換してるって聞いたけど」
「え?」

 不思議そうに首を傾げ、携帯端末を取り出す。雪季よりもぎこちない手つきで画面をでるように触り、もう一度首を傾げた。

「これかな。葉月ハヅキちゃん?」
「あたり」
「へえ、そうなんだ。興味本位で話聞きたいとか言ったら怒られそうな感じ? 嫌がられるかな?」
「さあ…。ただ、真柴の漫画のファンらしい」

 目玉を取りこぼしそうな勢いで両目を見開き、結愛は、思わずといった風に雪季の手を取った。無暗に上下に振る。

「うそ。え。うそ。うれしい。え。ほんとに?」
「…嘘をついてどうするんだ」

 ファンレターぐらい届くだろうし、ファンがいるというのはよくあることなのかと思ったのだが、思いがけず慌てふためいた反応に、雪季の方が驚いてしまう。
 とりあえず、力任せに握り締められた手に空いた手を重ねて力を緩めさせる。

「会いたがっていたから、その気があれば声をかけてみたらどうだ。笹倉さんとも親しいから、そちらからでもいいだろうし」
「なんでもっと早く教えてくれなかったの?」
「…俺が、初対面の内弁慶二人を穏便に引き合わせられると思うか?」
「そういう理由。ユキちゃんも人見知りだもんねえ…」
「自分のことを棚に上げるな」
「先にそうしたのはそっちでしょ」

 ようやく手を放して、照れ隠しなのかお茶のペットボトルを傾けて、角度をつけすぎてむせている。子どもだろうか、と思ったが、自分でハンドタオルを出していているだけ成長しているのかも知れない。
 話しながら食べ散らかした菓子類をまとめにかかる。

「方法はあるんだから、後は任せる」
「投げっぱだー」

 その通りなので、雪季に反論はない。さっさと立ち上がる。

「そろそろ次行くぞ。ずっと座ってたら日が暮れる」
「うん? そうだね、後で考える! 校庭で、バスケ部のスリーポイントシュートと野球部の的当てと落研の射的やってるって。…なんで落研が射的?」
「俺に訊くな」

 パンフレットを広げて立ち上がる結愛が危なっかしく、案の定よろけたところを腕を引いて支え、校庭へと足を向けた。 
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