回りくどい帰結

来条恵夢

文字の大きさ
95 / 130
夜祭

5

しおりを挟む
「名字なら性別は判らない。雪季セッキはさっき女性と仮定したけど、そうとも限らない。男同士なら、たとえ深い付き合いをしていても周囲にはひた隠しにしていたかもしれない」
「…それが、つじつまの合わない話の理由だと? 誤魔化しを続けるうちに嘘と本当が曖昧になったとでも?」
「ただの想像だけどな。まあどれにしたって、あいつが、いるはずもない恋人と雪季を見間違えて無遠慮に声をかけてきたってのは変わらない」
「その仮説でいけば、実在しないとも限らないんじゃないのか?」

 前を向かれると、少し声が聞き取りづらい。アキラの声は通る方ではあるが、意図してか無意識か、声量を絞ってもいるようだ。雪季は、少し足を速める。カコカコと、下駄が鳴る。

「いないだろ、今は。元からなかったのか、実在したけど去ったのか、何にしても側にいてちゃんと恋人してるなら、雪季につられて酒場に連れて行かれて、飲めない酒を大量に飲まされることもないだろ。あいつの視線、気付かなかったとは言わせないぞ」
「…ずっと、俺を見てたのは気付いた。でもそれが?」
「例えば俺がいなくて、雪季が見かけ通りにひ弱なら、最悪監禁でもされてたと思わないか?」
「少し飛躍しすぎじゃないか」
「俺、そういう嗅覚は利くと思うよ」

 気付けば、また少し距離をあけられている。あと少しで境内のようで、雪季を見下ろす英の背後には朱色の鳥居がそびえ立っていた。
 境内にはあかりが灯されているようで明るく、だからこそ、英の表情が見えない。

「それ以前に、その仮定自体が意味がない。お前はいたし、…見かけはどうだか知らないが、俺はひ弱というわけじゃない」
「…そう言って油断してると危ないと思うけどなー」
「心配するな、そうやって何かがあっても迷惑はかけない」

 深々と、ため息をつかれた。

「俺、雪季とは友達になりたいって言ったんだけど」
「………はぁ……?」
「助けさせろよ。迷惑なんてお互い様だろ」
「…雇用関係にある時点でいろいろと無理がある」
「それはそれ、これはこれ」

 どうしてもと言うならまずクビにすればいいと思うが、実際にそうなれば、こうやって浴衣を着て並んで立つような機会もなくなるだろう、とも思う。一緒にいる理由がない。
 そもそもよくよく考えてみれば、雪季には真っ当に友人と呼べる相手は結愛ユアくらいのもので、その結愛でさえ、ただの友人とするには一般的に考えれば規格外れのような気がする。
 では、規格内の友人とはどういった代物なのだろう。
 一歩違えれば思春期の悩みそのもののようなことを考えて、それでも雪季の足は動いていた。止まったままの英を追い抜いて、鳥居をくぐって境内へと踏み入る。振り返ると、見下ろす町並みにも光は点在してた。

「雪季」
「…なんだ」

 もう一度、やけに大きなため息を落とされた。立ち位置が変わったために、今は英の顔が見える。抜け落ちたような表情を、みがかすめたように見えた。
 残り数段を子どものように駆け上がって、くるりと回り、上って来た階段を見下ろす。

「今は、ちゃんと返事があることで満足しとく。そのうち、真柴マシバさんを差し置いても俺を優先してくれるくらいの親友って呼んでくれるように期待して」
「ないな」
「えー」

 どこまでが本気なのか、あるいは全てがただの暇つぶしなのか、何にしても雪季には付き合う義理もない。
 とりあえずは目的のお参りを済ませようと、拝殿らしき建物を目指して歩を進める。すぐに、英も追いついて来た。そもそもこだわったのはこちらだ。
 夜なので柏手かしわでは避けて、軽く手だけ合わせる。

「…雪季」

 一応、挨拶は済んだと踵を返しかけた雪季の肩を、英がつかむ。視線だけで何事かと問うと、無表情に見返された。

「俺、これ明日…筋肉痛の予感しかしない」
「…下りないと帰れないぞ。野宿するなら一人でやってくれ」
「いや待って俺も戻るって、温泉入る! あ、そうか、温泉入ってマッサージすればいいんだ」

 軽快な足取りを取り戻した英は、はしゃぐように雪季を追い越して行った。階段の上りよりも下りの方が足への負担は大きく、普段使わないだろう部分の筋肉も使うのだが。
 まあいいか、と、雪季はつられることなくゆっくりと階段を下りて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...