回りくどい帰結

来条恵夢

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邂逅

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「…俺はどちらに対してもそれほど言えることがないんだけど、それぞれのことを他の人につなぐことはできると思う。もちろん向こうに訊いてみていいって言われたらだけど、訊いてみようか?」
「えーとそれって、私が知ってる人ですか? あ。秦野ハタノさんだったら、一応素性不明ってことにしてるから直接会うのは避けたいです。中原さんが間に入ってくれるなら、話してもらっていいですけど」
「…そもそもどうして俺にはあっさり明かしたの」

 ん? と首を傾げてからややあって、白旗シラハタは照れくさそうに笑った。

「割と最初に顔会わせた時から、区別する人なんだろうな、と思って。値踏みされたってほどじゃないですけど、割とわかります、そういう視線」
「…なるほど」
「それに、あの手の親に育てられて笑顔でそつなく収めちゃうような能力値の人って、手ごわいんですよね。一筋縄ではいかないっていうか、極力敵に回したくないタイプ。そのへんでよくわからない因縁つけて絡んでくるチンピラが可愛いっていうような手合いです」
「否定はしない」
「そこは否定してあげなくていいんですか、右腕として」

 面白そうに、言葉が少し弾む。
 随分と楽しそうだが、雪季セッキとしては正しい見極めに少しひやりとする。一体雪季自身は、どう判断されているのだろうか。

「そんな大層なものになった覚えはない。嫌なら、他に当たってみようか? 残念ながら、俺の知り合いの中で一番人脈があるのはあいつだけど」
「納得だけどその言葉だけ聞くと、友達少ないさみしい人みたいに聞こえますよ?」
「実際、多くはない」

 それどころか、唯一胸を張って友人だと言える結愛ユアにさえ、他に友達がいるのかと心配される体たらくだ。ただそれでさみしいかと言えば、そこは主観の問題なのでそうでもない。
 白旗は随分と楽しそうに笑う。本当にスノーホワイトの正体を知らないのか、知っていて楽しんでいるのか。どちらにしても、どうにも身動きが取れない。

「それじゃあ、中原さんからわたしは敵じゃないって根回しした上で紹介してもらえると助かります。あ。でも、何度も顔会わせてるし、直接いってもいいのかな…どっちの方がましなのかなあ…」
「ましっていうのは?」
「真正面から直撃して当たって砕けるのと、親しい人に取り入って話し通してもらうのと、どっちの方が敵認定されにくいでしょう?」
「…まずそもそもどうして敵と見做みなされる心配をしているのかが知りたい」

 見抜かれているとはいえ、本人は知らないはずだし知られているからといって一介の女子大生をそう簡単に排除するようなことはないと思うが、雪季の気付かない何らかの根拠があるのだろうか。あるいは、過度に警戒しているだけか。
 正直なところ、アキラに対する警戒レベルは最大にしていいと思うが、基本的に外面そとづらのいい男なので、いささか不思議には思う。

「だってお二人、高校の頃からお付き合いされてるんですよね? その割に社長さんは自信ないっていうか独占欲強いっていうか、私みたいなのがちょろちょろしてたら勝手に不安になるんじゃないのかなって。あ、でも、中原さんが女の人に全然興味なかったらそうでも」
「待った」
「はい?」
「…あいつの母親とのやり取りがその誤解の元だと思うけど、まさかそれ、シャングリラではその解釈のまま?」
「え? いえ、常連さんのこと改まってつついたりはそんなにしないですよ。結構ナイーブな問題ですし。…ん? え? 誤解?」

 吃驚したように見開いた目でまじまじと見つめられ、誤解、の言葉に雪季はゆっくりと肯いた。英の母親が立ち去った後の会話で、嘘だったと伝わっていたと思ったが店長や孫娘にも勘違いされていたら据わりが悪い。
 しばらく見つめ合った後、ああ、と、白旗が声を上げた。

「あの時、お店にわたし宛の電話がかかってきて、ちょっと奥に引っ込んでたんです。もしかしてその間に、あれ嘘だったんだー的なネタ晴らしありました?」
「どうしてピンポイントで席を外すんだ」
「それはわたしじゃなくてわざわざお店に電話かけてきた父に言ってほしいです。わたしだって、できることならきっちり観察してたかったのに」

 そういえばあの後、帰るときにもタルトを受け取りに行った時にも白旗を見かけず、次に会ったときにでも迷惑をかけたことを詫びようと思ってそのままになっていたことを思い出す。
 頭が痛む気がした。

「断じてあいつとはそういう付き合いじゃない。だから妙な心配もしなくていい。河東に相談ってことでいいか?」
「…よろしくお願いします」

 気まずそうに目を逸らし、そのまま、テーブルの上を片づけにかかる。
 長々とつき合ってもらってありがとうございます、という締めの言葉も飛び出し、それぞれ荷物と、店の返却口に返す食器類はまとめて雪季が持って立ち上がる。
 会社に寄る気も失せて家に向かう雪季と白旗が途中までは同じ電車とわかり、並んで電車を待つことになった。
 住んでいる場所の近くというわけではないのか、これから出かけるところなのか、と世間話の流れで訊きかけて、それを訊いてしまうとでは雪季はどんな用でここに、という話になるだろうと言葉を呑み込む。
 その隣で、ふっと苦笑するような息が吐かれた。

「わたしに危なっかしいって言いましたけど、中原さんも一緒ですよ。それとも、知りませんでした?」
「…何を?」
「副業の帰りだったんです。わたしの十八番おはこ、聞いてないですか?」

 進士シンジから聞いた、白雪の話を思い返す。油断を誘ったり死角からの一撃必殺を狙ったスノーホワイトとは異なり、毒を用いるのだ、と。
 顔には出さなかったつもりだが、何かを読み取ったのか、雪季が気付いたタイミングで白旗の次の言葉がつむがれる。

「危ないですよ、一緒に飲み食いしたら。コーヒーショップで紅茶たのんだのはちょっとは警戒してるのかなとも思いましたけど、いくらだって入れられる瞬間があって、ちょっと心揺らいじゃいました」
「ということは、入れてないんだろ」
「そうですけど。もうちょっと怯えるとか警戒するとかしてくれないと面白くないです」
「残念だったね」
「中原さんって、優しいけど、かなり手強いですね。でもそうですよね、そうじゃなきゃあの偏屈爺の後継者候補とか言われるわけないし。…毒を盛ったりしないので、これからも何かとお付き合いいただけると…嬉しいです」

 隣を見ると、何かを期待した子犬のような目を向けられていた。妙なのになつかれたような気がする、と、雪季は胸の内で呟いた。
 周りに妙な人間しかいないような気がしてきてしまって、少し落ち込む。つまりは同類なのだろうか。
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