回りくどい帰結

来条恵夢

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邂逅

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「それで、今日何があった?」

 アキラがそう切り出したのは、それぞれ丼を平らげ、これから酒の番とばかりに他に手を伸ばし始めたところだった。雪季セッキは思わず動きを止めたが、英はこれ見よがしにグラスを傾けて見せる。
 雪季はエビを口に入れ、弾力のある身をしっかりとかみ砕いてのみ込み、油をワインで流し込んだ。

「…スノーホワイトを探してる、現役の奴に会った。向こうは俺を秦野ハタノさんの手伝いだったと思ってるみたいで」

 実際、秦野が仲介したスノーホワイトのものでない仕事の手伝いもしていたので、あながち間違いではない。
 今思えば、それはそれで煙幕の一つだったのだろう。だから、スノーホワイトの仕事を手掛けていても手伝いと勘違いされていたこともあるはずだ。
 それでも。

「ばれてなかったのは…ただ、運が良かっただけだと思う。この先もそれが続くとは限らない」
「その『この先』っていうのは、他にもそうやって接触してくるのがいるかもしれないってこと? それとも、その現役の奴と付き合いが続きそうってこと?」
「…両方」
「へえ」

 フリッターもどきをひょいと口に放り込み、歯ごたえを確かめるように口を動かす。雪季は、トマトをつまんだ。トマトの分類が野菜ではなく果物だったのを思い出すような甘さをしている。
 雪季が結愛ユアからもらったのは、家を出た家族が実家で色々ともらって帰るようなありふれたものだが、英の場合は、発売する前段階の新商品だったり国内外の名産品だったりと珍しいものが多い。このトマトも、何も書かれていない透明のケースに入っていたが、さてどういった来歴の品なのか。
 れた思考に逃避していることを自覚しながら、雪季は英をうかがい見る。気付かれて、にこりと笑い返された。

「可能性の誰かはとりあえず置いておこうか。今日会ったのは、誰?」
「…誰…?」
「雪季さ、まだ混乱してる? 料理しても落ち着かなかった? 全部話すかどれを隠すか話さないか、迷ってるだろ。雪季の隠し通そうと思ってない嘘や誤魔化しはわかりやすい。嘘が好きじゃないから、避けようとしてぎこちなくなるのかな」
「そん…なこと、ないと…思う…」
「自覚あるだろその返し」

 機嫌良さそうに笑っているようでいながら、わかりやすく目が笑っていない。
 実際雪季は、何をどこまで話したものか迷っていた。ただ出ていくと言ったところで納得しないことは先ほどの反応でよくわかった。だがそれでは、どこまでを。

「今日雪季が会いに行ったのは真柴マシバさんで、会社には寄ってない」
「なんで」
「さっき確認した」

 手元の携帯端末を示して見せる。いつの間に。

「秦野さんのところにも行ってない。だから、そこで直接会ったわけじゃない。偶然か、相手に待ち伏せでもされたか。で、誰かっていうのにちゃんと反応したってことは、俺の知ってる誰かだ」

 口を開いてもぼろが出るだけのようで、雪季は口を閉ざした。そもそもいつも以上に、選ぶべき言葉が思い浮かびもしない。
 英は、口元は笑みを浮かべたまま、狩人のように心拍さえコントロールしていそうな冷徹さで雪季を見据える。くるくると、手元のワイングラスが意味もなく回されている。プラムの甘酸っぱい香りが、ふわりと広がった。

「いちいち共通の知り合いを上げていくのも面倒だし、素直に白状してほしいんだけど」
「…聞いてどうするつもりだ」
「手っ取り早いのは、秦野さんのところにでも依頼することかな」
「絶対言わねぇ」
「…ちょいちょい口が悪いのなんなの」

 どこか面白そうに言われるが、雪季としても答えの持ち合わせはない。

「元々の俺の知り合いだったら、出て行くっていうよりもう少し俺の心配してくれそうだし。本当にただの知り合い程度の人。近所の人間とか? この近辺か、会社回り…会社の方?」

 話しながら雪季の様子を見ているのか、反応しないようにしているはずなのに、英は淡々と輪を狭めていく。雪季はゆっくりと首を振ったが、英が信じていないのは明らかだった。

「近くのコンビニとか、同じビルの…シャングリラの店員? バイトのどっちかかな」
「…そんなに顔に出てるか…?」
「それなりに」

 英の言葉にかぶせるように携帯端末のメッセージの着信音が鳴り、ごく短く、葉月ハヅキからの「どう?」という文字が見えた。
 思わず英を見ると、視線を真っ向から受け止めた上で、ふっと笑ってみせる。

「ばれたか」
「…葉月さんから何か聞かされてたのか?」
「そんなに大層な話じゃない。最近、シャングリラのバイトの子が雪季を気にしてるみたいだけど、とか、白雪って殺し屋が活躍してるけどスノーホワイトと関係なくてもなんだろう、とか、そういうの? ちなみにその白雪のものと思われる受発信がたまに会社のビルと同じ位置から出てるっぽいとか」
「…何をどうしたらそんなことが掴めるんだ」
「葉月に訊けよ。俺は説明訊いてもさっぱりわからないから諦めた」

 改めて、葉月を手駒にしてしまった英の悪運の強さに呆れる。
 ツナグがオリジナルのシステムを潤沢に使えるのはひとえに葉月のおかげだし、葉月が独自で組んで売り出しているプログラムのマネジメントもしているので、仲介料も得ている。
 更には、このプライベートでの利用っぷり。
 葉月が高校生の頃からの知り合いで、血縁の薄さゆえの社会のエアポケットにおちいらせなかった功績はあるかも知れないが、英との関係は手放しで称賛できるようなものではない気がしてならない。
 簡単に言えば、無垢な子どもとあくどい大人の組み合わせだったのではないのか。
 つい非難めいた視線を向けていたのか、英は、払うように手を動かした。
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