回りくどい帰結

来条恵夢

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邂逅

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「言っとくけど、あいつが雪季セッキのストーカーを始めたそもそもには俺は噛んでないからな。今だって無条件に調べたり情報くれたりするのは雪季絡みのことだけなんだから。他ではしっかり分捕ぶんどられてる」
「…そんな怖いことになってたのか」
「怖いってどっちに対して、ストーカー? 俺が金むしり取られてること?」
「ストーカー。冗談で言ってるのかと」
「ええー。ひくくらいガチだって。なんだったら、引っ越し初日の盗聴器のどれかは葉月ハヅキが仕掛けてても驚かない」

 雪季はそっと、眼を閉じた。自分の周りには、やはり妙な人しかいないのだろうか。しかし葉月を引き付けたとすれば自業自得で、そうなるとやはり「妙」の中心は雪季自身になってしまう。
 いささか自棄になって、グラスを傾ける。濃厚に甘くて、温くて、何かで割りたいと思った。

「ってことでどうせたどり着くだろうから、もう全部話してくれた方が早くていいんだけど?」
「…ちょっと考えさせてくれ」
「妥協点でも探す? そもそも何を嫌がってるんだよ」

 考えさせろと言っているのに、全く時間をくれずに畳みかけてくる。いつの間にか、アキラはブランデーらしき瓶を手元に引き寄せていた。
 間を取るためにも、氷を取りに立ち上がる。

「前に言わなかったっけ。俺、雪季を手放すつもりはないよ」

 アイスペールを用意する前に、英はワイングラスに無造作に飴色の液体をそそいだ。先ほどとは違った、甘い香りが立ち上る。

「…でも少し、安心した」

 何を言い出すのかと、雪季は思わず英の顔を見た。
 視線に気付いていないのか、ぼんやりとトマトのあたりに目を向けている。テーブルに音を立ててアイスペールを置いても、顔は上がらなかった。
 気付けば、ワインの瓶が空いている。そもそも量の少ないボトルではあったが、雪季はまだ一杯目を半分ほどしかあけておらず、ほとんど英が一人で飲んでいる。
 友人たちと軽く飲んでいたのか、帰って来た時にアルコールの匂いはしていた。一体、今の時点でどれだけの酒量を胃に入れているのか。
 それぞれのグラスに氷を入れたが、英は気付いたのかどうか、また、くるくるとグラスを回す。雪季はそっと、酒瓶を遠ざけた。

「ここ来たばっかの頃なら、黙って出て行ってただろ。断りも書き置きもなしに、あのちっさいスポーツバッグに全部詰めて、最初っからいなかったみたいにサクッと」

 ああなるほどと、雪季はため息と一緒にワインを飲み込む。冷えて、少し薄まって幾分飲みやすくなったような気がする。
 言われた通りに、一年前なら簡単に逃げ出しただろう。
 結愛ユアとも英とも距離を置いて、忘れられた頃にでも、結愛のところには顔を出したかも知れない。それが、先に相談するようなことを言ってしまったのは、そうしたくはないと思ったからだろう。
 今度はしっかりとため息を落として、チーズのつまみに手を伸ばす。魚のすり身のシートに挟まれているのは、ただのチーズではなくスモークチーズだった。

「そうだな。そうすれば良かった」

 言ってから、英の完璧な笑顔を見て、しまったと気付いたが遅い。

「雪季が勝手に俺から離れるっていうなら、真柴マシバさんとでも付き合おうかな」
「………は?」
「全く好みではないけど、あの子と一緒にいれば、雪季は直接は会いに来なくても様子くらい見に来るだろ? それに、雪季がそこまで大事にしてるって点では興味はあるし」
「…向こうもお前に興味はないと思うが」
「別にあの子自体が欲しいわけじゃないから、いくらでもやりようはある」

 考えるよりも先に動いた腕を、易々やすやすと抑えられた。やはり崩れない笑顔のまま、英はまっすぐに雪季の目を覗き込んだ。
 覗き込まれている側なのに、ない闇を見せつけられている気分になる。

「そんな怖い顔しなくても。雪季が、俺の納得なしに勝手に離れないっていうならそんな未来はないよ?」
「…口約束を守るとでも?」
「俺は約束を守らないかも知れないけど、雪季は守るだろ? 雪季に嫌われるのはともかく、憎まれるのは嬉しくないから、見張ってればちゃんと、真柴さんにはあんまり近付かないようにしとくしさ」

 つまり、近くに居ろと。
 雪季は、腕の力を抜いた。そのことに気付いて、英も抑えていた手を放す。かさず、無警戒の頭をはたいた。

「痛っ! 暴力反対! ってか殴られる流れだった今?!」
「腹が立った」
「だからたまにノリがヤンキーなんだけど雪季!」

 腹立ちついでにグラスを干すと、遠ざけたはずの酒瓶を英が傾ける。止める間もなくたっぷりと注がれ、水割りにするどころか、氷を追加する余地もない。
 睨み付けるが意に介さず、いつの間にか半分ほどに減っていた自分のグラスに、無造作に追加している。手を離したところで無言で取り上げ、酒瓶を再度遠ざける。

「…お前を巻き込んでも気にするのはやめることにする」
「どうぞー。俺だってがっつりお家騒動に巻き込んでるんだし、今更遠慮はいらないって」

 巻き込むと言うが、そこには雇用が発生しているので問題が違う、と雪季は思うが、逃げ道をふさいだのは英なので考えるのはやめた。
 先程の発言は本気だろうので、英の元を離れるのは英が雪季に興味を失うか、雪季か英のどちらかの死亡といったあたりになるのだろう。
 それがどのくらいの付き合いになるのかはわからないが、長くなればなるほど、巻き込むことを恐れるのは時間の無駄のような気がしてきた。
 問題は周囲の人だが、そこはもう、その時に考えるしかない。
 グラスの酒を舐めるように含んで、甘やかな香りとアルコールの熱を喰らう。かなりいい酒のように思えるが、英が無造作に飲むのでいまいちありがたみが薄れてしまう。

河東カトウ
「ん?」
「黙って出て行ったりはしない」
「うん」
「ただ、当てつけに手を出すなら息の根を止める」
「…当てつけってわけじゃないんだけどなあ。あー、睨むなよ。わかってる、大丈夫やらないって。俺色気ある人が好きだし」

 軽い調子に胡乱うろんな視線を向けるが、へらりと笑い流される。
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