109 / 130
邂逅
12
しおりを挟む
浮上した意識に、まず、口の中のべたつきを感じた。次いで、少し痛む頭。身動きして、体が重いことを感じる。
目を開けるともはや見慣れた自分の部屋で、頭の中に引っかかりを感じて、開けたばかりの目を一度閉じる。そのまま、再び眠りに捕まりそうにもなった。
…いつ部屋に。
思わず飛び起きて、重くて痛む頭に手を当てて呻く。おそらくは雪季の人生で二度目の、しっかりとした二日酔い。
昨夜、ウイスキーらしき酒をストレートで飲み干したところから記憶がない。部屋には、自力でたどり着いたのかまさか英が運んでくれたのか。
以前酔い潰れたのは、酔った様子を知りたかったために師に見てもらっていてのことだった。そのときは、突然電池が切れたように眠り込んだということだったが、今回は、何か妙なことをやらかしていないかがとても気になる。
そう考えたところで、はたと、雪季は動きを止めた。
師。秦野峰明。昨夜英が言ったことが本当であれば、雪季の母の、兄。
父も母も両親は亡く、他の血縁も薄いと聞いていた。実際、両親が殺された時も、遺産を横取りしようとするような親戚が沸いて出ることもなかった。
だがもしもそうなのであれば、秦野が雪季を引き取った時の口実は、偽装ではなかったということになる。
一度会った方がいい、とは思うものの、全く気は進まなかった。事実であれば、秦野は、実の妹を殺したのだろうか。知っていて。あるいは、気付かずに。
とりあえず起きようと、もう一度体を起こす。今度はそろりと、重い頭を刺激しないように気を付ける。早く口を漱ぎたいし、水も飲みたい。
どうにかリビングにたどり着いてうがい歯磨きや洗顔やを一通り済ませ、薬缶を火にかけてから冷蔵庫を開ける。麦茶はまだ作っていなかったと気付いて、ストックの水のペットボトルを引っ張り出した。
そうやって人心地ついてようやく、今が何時なのかが判っていないと気付く。
慌てて見た時計は、いつもであれば会社に着いて仕事も始めている時間だ。血の気が引く。これまでに英の姿はなく、雪季の携帯端末はキッチンカウンターに置かれていた。タップすると、英からのメッセージが届いている。
『出張の疲れが出て雪季休むって言ったら慣れない海外で俺の世話させられたんだから仕方ないって納得された俺の扱いが酷い』
他にも、会社の面々からそれぞれにメッセージが届いていて、どれも快く急な休みを受け容れてくれたばかりか、ゆっくり休むようにとのねぎらいまでもらう。ありがたいと思う反面、申し訳なくも思う。
白湯で顆粒の葛根湯を飲んで、スポーツ飲料のペットボトルを出し、湯で半分くらいに割る。科学的効果の程は知らないが、これが雪季の二日酔いや脱水症状の対処法だ。
この場合、プラセボ効果というものがあるのだから、効くと思い込んでいた方がお得だ。ただ、いつもはごく軽い二日酔いなので、今回もこれで効くのかはやや不安があって、効果は半減していそうだが。
半分に薄まったスポーツ飲料をコップに二杯ほど飲み干し、覚悟を決める。
『はーい、おはよう、雪季くん?』
「……おはようございます。あの、笹倉さん」
『何?』
「俺じゃなかったら」
『みんなの番号くらい登録してるわよ。気付いてなかったの?』
会社の固定電話に掛けたのに、まるで個人端末にかけたかのような気軽さで出られて、どうにも拍子抜けする。
「今日、すみません。今からそちらに向かいます」
『社長から休みって聞いたわよ? 上司が許可出したんだから休んじゃいなさいって。一月も海外で社長のお守りで疲れたんでしょ。あ。有給は消費するけどね』
「…ありがとうございます」
確かに、旅疲れではないが一旦折り合いをつけなければ出社したところで役に立つ気がしない。明日明後日は公休日なので、次の出勤日までにはどうにかしたいところだ。
結局、改めて休むことを断って通話を終えた。
ソファーに寝転んで、まだ痛む頭と重い体を抱える。日本を留守にしている間に季節は進んでいて、夏布団から冬布団に替えないといけないなとぼんやりと考える。ただ、日本よりも滞在していたヨーロッパの方が気温は低かったせいか、まだ暑さの残る日差しに油断をしそうにもなる。
いろいろと、本調子ではないのだろう。昨日戻ったばかりで、影響はないと思っていたが時差も堪えているのかも知れない。
薄めたスポーツ飲料をペットボトルから直飲みして、軽く目をつぶる。このまま眠ってしまえそうだ。
基本設定のまま変えていない音で、携帯端末が着信を知らせた。
無視しようかとも思ったが、仕事関係での要件かも知れず、どうにか腕を持ち上げる。端末は胸元に抱えていたので、実は動作はそれほど必要ない。
それなのに億劫に感じるのだから、病気ではないが普段の健康の素晴らしさが身に染みる。
『電話していい?』
「ん?」
電話と言いつつ、WEB会議のアドレスが張り付けてある。結愛からのメッセージだ。珍しい上に、通常であれば仕事中の時間だと知っているはずだが。
指先で操作して、初めて使うシステムだったのでダウンロードや多少の調整をして、繋ぐと部屋着姿の結愛が映し出された。位置から察するに、仕事机の上にノートパソコンを置いているのだろう。
何か描いていたのかうつむいていた顔が、つながったことで音でも鳴ったのか、はじかれたように上げられる。
目を開けるともはや見慣れた自分の部屋で、頭の中に引っかかりを感じて、開けたばかりの目を一度閉じる。そのまま、再び眠りに捕まりそうにもなった。
…いつ部屋に。
思わず飛び起きて、重くて痛む頭に手を当てて呻く。おそらくは雪季の人生で二度目の、しっかりとした二日酔い。
昨夜、ウイスキーらしき酒をストレートで飲み干したところから記憶がない。部屋には、自力でたどり着いたのかまさか英が運んでくれたのか。
以前酔い潰れたのは、酔った様子を知りたかったために師に見てもらっていてのことだった。そのときは、突然電池が切れたように眠り込んだということだったが、今回は、何か妙なことをやらかしていないかがとても気になる。
そう考えたところで、はたと、雪季は動きを止めた。
師。秦野峰明。昨夜英が言ったことが本当であれば、雪季の母の、兄。
父も母も両親は亡く、他の血縁も薄いと聞いていた。実際、両親が殺された時も、遺産を横取りしようとするような親戚が沸いて出ることもなかった。
だがもしもそうなのであれば、秦野が雪季を引き取った時の口実は、偽装ではなかったということになる。
一度会った方がいい、とは思うものの、全く気は進まなかった。事実であれば、秦野は、実の妹を殺したのだろうか。知っていて。あるいは、気付かずに。
とりあえず起きようと、もう一度体を起こす。今度はそろりと、重い頭を刺激しないように気を付ける。早く口を漱ぎたいし、水も飲みたい。
どうにかリビングにたどり着いてうがい歯磨きや洗顔やを一通り済ませ、薬缶を火にかけてから冷蔵庫を開ける。麦茶はまだ作っていなかったと気付いて、ストックの水のペットボトルを引っ張り出した。
そうやって人心地ついてようやく、今が何時なのかが判っていないと気付く。
慌てて見た時計は、いつもであれば会社に着いて仕事も始めている時間だ。血の気が引く。これまでに英の姿はなく、雪季の携帯端末はキッチンカウンターに置かれていた。タップすると、英からのメッセージが届いている。
『出張の疲れが出て雪季休むって言ったら慣れない海外で俺の世話させられたんだから仕方ないって納得された俺の扱いが酷い』
他にも、会社の面々からそれぞれにメッセージが届いていて、どれも快く急な休みを受け容れてくれたばかりか、ゆっくり休むようにとのねぎらいまでもらう。ありがたいと思う反面、申し訳なくも思う。
白湯で顆粒の葛根湯を飲んで、スポーツ飲料のペットボトルを出し、湯で半分くらいに割る。科学的効果の程は知らないが、これが雪季の二日酔いや脱水症状の対処法だ。
この場合、プラセボ効果というものがあるのだから、効くと思い込んでいた方がお得だ。ただ、いつもはごく軽い二日酔いなので、今回もこれで効くのかはやや不安があって、効果は半減していそうだが。
半分に薄まったスポーツ飲料をコップに二杯ほど飲み干し、覚悟を決める。
『はーい、おはよう、雪季くん?』
「……おはようございます。あの、笹倉さん」
『何?』
「俺じゃなかったら」
『みんなの番号くらい登録してるわよ。気付いてなかったの?』
会社の固定電話に掛けたのに、まるで個人端末にかけたかのような気軽さで出られて、どうにも拍子抜けする。
「今日、すみません。今からそちらに向かいます」
『社長から休みって聞いたわよ? 上司が許可出したんだから休んじゃいなさいって。一月も海外で社長のお守りで疲れたんでしょ。あ。有給は消費するけどね』
「…ありがとうございます」
確かに、旅疲れではないが一旦折り合いをつけなければ出社したところで役に立つ気がしない。明日明後日は公休日なので、次の出勤日までにはどうにかしたいところだ。
結局、改めて休むことを断って通話を終えた。
ソファーに寝転んで、まだ痛む頭と重い体を抱える。日本を留守にしている間に季節は進んでいて、夏布団から冬布団に替えないといけないなとぼんやりと考える。ただ、日本よりも滞在していたヨーロッパの方が気温は低かったせいか、まだ暑さの残る日差しに油断をしそうにもなる。
いろいろと、本調子ではないのだろう。昨日戻ったばかりで、影響はないと思っていたが時差も堪えているのかも知れない。
薄めたスポーツ飲料をペットボトルから直飲みして、軽く目をつぶる。このまま眠ってしまえそうだ。
基本設定のまま変えていない音で、携帯端末が着信を知らせた。
無視しようかとも思ったが、仕事関係での要件かも知れず、どうにか腕を持ち上げる。端末は胸元に抱えていたので、実は動作はそれほど必要ない。
それなのに億劫に感じるのだから、病気ではないが普段の健康の素晴らしさが身に染みる。
『電話していい?』
「ん?」
電話と言いつつ、WEB会議のアドレスが張り付けてある。結愛からのメッセージだ。珍しい上に、通常であれば仕事中の時間だと知っているはずだが。
指先で操作して、初めて使うシステムだったのでダウンロードや多少の調整をして、繋ぐと部屋着姿の結愛が映し出された。位置から察するに、仕事机の上にノートパソコンを置いているのだろう。
何か描いていたのかうつむいていた顔が、つながったことで音でも鳴ったのか、はじかれたように上げられる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる