回りくどい帰結

来条恵夢

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夢中

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「ユキちゃんっ」

 こちらの姿を認めたとたんに、ぱっと笑顔になる。軽い足取りで駆け寄ってくる姿に、つい笑みがこぼれた。

「何してたんだ?」
「園芸部の観察!」

 それは満面の笑顔で公言していいようなものだろうか。つい浮かんだ疑問をそっと押し込む。
 制服姿の少女は続けて何かを言いかけて、少し遅れて校舎から出て来た青年に気付いて、雪季セッキに隠れるように身をちぢめた。面識はなかったかなと、記憶をさぐる。
 青年の方は、少女の努力もむなしく目ざとく気付き、わざわざ回り込んで、にっこりと笑顔を向けた。

「あの噂、本当だったんだ?」
「…噂?」
「二人が付き合ってるって」
「えっどこでばれたの?!」

 頓狂とんきょうな叫び声に、あくまで雪季をたてのように挟みながら、ぐいと身を乗り出す。
 夢の中だと気付いている自分と、そんなことには全く気付かずただ違和感だけを覚えている自分と。何故か両立している雪季は、そのどちらもで眩暈めまいを覚えた。
 青年が、にんまりと笑う。

「ユキちゃんとか呼んでるからじゃない? っていうかどうしてユキちゃん? 中原の下の名前ってセッキだよな? あだ名?」
「私が読み間違えちゃって。でも、そのままでいいって言うから」
「へえ。じゃあ俺もユキちゃんって呼ぶ?」
「やめろ馬鹿」
「うわ殴られた。ちょっとこの暴力彼氏どう思う?」

 いつの間にか、雪季の服をつかんでいた手がゆるんで、楽しげに言葉をわしている。
 なんだこれは、とぼんやりと、やりとりを聞き流す。違和感が強い。わかっている。これは夢で、こんな、制服姿での二人のやり取りは、それどころか雪季とのやりとりも、あったはずがない。
 一時いっときは毎日のように通った校舎。そでを通した制服。見知った友人は恋人に化けていて、当時はただ見たことがあるだけだった同級生が友人になっている。
 ひどく、心許こころもとない気持ちになる。

「中原?」

 気付くと、顔を覗き込まれていた。ぼんやりと、焦点を合わせる。見慣れた顔。見慣れていると思うのと同時に、実際に見慣れているのはもう十年ほどをた顔だと知っている。
 奇妙で、まるで糸の切れた操り人形のような寂しさ。

「もう帰った方がいいんじゃないか? 俺も、邪魔なら帰るし」
「熱は…なさそうだけど。保健室行く?」
「俺が送っていく。じゃあ」
「あ。うん。気をつけてね!」

 雪季が口を挟む間もなく、肩を抱えるようにして押される。足元がふわふわとするような気がした。

「…***」
「うん?」

 呼んだ青年の名に、違和感が強くなる。何でもありの夢の中なのに、もうここが夢の中だと知っているからか、これは違うのだと強く思う。
 足を止めた。

「…高校生の時、俺はお前を下の名前で呼んだことなんてなかった。真柴マシバとは付き合ってなかったし、他に人がいればあの呼び方はしなかった」

 放課後の喧騒が、遠くに聞こえる。制服姿の青年を見る。もしかすると――こんな過去も、在り得たのだろうか。
 雪季は夢の中でぼんやりと、見慣れているのよりも若い友人の顔を眺めていた。
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