月夜の猫屋

来条恵夢

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中編

終幕3

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 人の多い通りに出ると、仲の良い兄弟か何かがじゃれ合っているように見える二人に、周りの人の表情がなごんでいた。だが本人たちは、そのことには気付いていない。
 店舗の入れ替わりの激しいあたりの一角いっかくで、二人は立ち止まった。「月夜の猫屋」と読める看板を、あきらが見つめる。
「ねえセイギ。お化けがいなかったら、あたしたちって何なんだろうね」
「はあ?」
 それより早く入れよ、と言いかけて、セイギは心中首を傾げた。これも例の問いなのか違うのか、わからなかった。
 彰は、無邪気そうに続けた。
「知らない? お化けなんてないさ、って歌」
「知ってるけど…幽霊じゃなかったのか、俺たち」
「ああ――そっか。そうだね」
 言い換えたら別のものにもなれるのか、と彰は呟いた。
 それで勝手に納得したようだが、セイギは何一つ疑問が解決しない。だが、訊いたところで答えてくれないような気がする。それなら、彰が納得しただけ良しとしようか。
「あのね、セイギ」
「ん?」
「セイギに会えてよかったよ、あたし」
 そりゃどうも、と苦笑する。
 きっと彰は、最後を迎えても後悔はしないんだろうと、セイギは思った。ロクダイのように。
 渡された手紙に残された言葉は、そう考えるのに充分だった。自分も、そうなれればいいと思う。
「早く入らないと、頭に雪積っちゃうよ?」
「わかってるよっ」
 気付くと店に入っていた彰を追って、扉を閉める。 
 空からの、灰色っぽく見える雪片。地面に降り立った途端とたんに溶けてしまう雪は、それでも降っていた。 
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