夜明けの晩

来条恵夢

文字の大きさ
4 / 67
そうして、新学期は始まる

2

しおりを挟む
「あんたねえ、中三で途中入学してから、たった一年足らずでどれだけ告白されたか覚えてる? ギネスでも狙うつもり? あの先輩にだって、あれで、取り巻きだっているんだよ?」
「じゃあ替わってくれる?」
「好みじゃない」

 あまりにあっさりと断言され、苦笑するしかない。とにかく、とアカネさんが仕切り直す。

「注目の的なの、いい加減自覚しなさい」
「うーん」

 確かに、私自身にはどこがいいのかわからないまま、付き合ってください、の言葉は何度か聞いた。古風に手紙をもらったりもした。
 はじめこそ、漫画の中だけじゃなくて本当にあるんだ、と楽しめたものの、何度か続くと、何やら申し訳ない。
 この学園を運営している一族であることは知られているので、そのあたりが大きいのだろう。この歳で打算的なのもどうかと思うけど、そこはそれぞれだ。

「そろそろ、ラッシュあるんじゃない?」
「ラッシュ?」
「卒業を前にした先輩方が、玉砕覚悟で告白」
「…卒業って言っても、この学校、そのまま大学進む人多いのに…?」
「だからって、みんながみんなじゃないでしょ。それに、そういうのは勢いっていうか…ノリだからさあ」
「ノリですか」
「そうそう」

 言いながら教室の前まで来たところで、戸に手をかけ、あ、と言って顔を見合わせた。

「今日は遅い方みたい」
「始業式だもんねえ。そりゃ、早く来る意味ないわ」

 朝早くの教室で、一時間目の授業の予復習や宿題をすることの多いクラスメイトがいる。
 生徒のいない間は施錠する決まりのある教室の鍵を、だからその彼が開けていることが多いのだけど、その必要がなければ――例えば文化祭や体育祭のときには、早くは来ていない。
 それをうっかりと忘れ、開いているものと思い込んでいた。

「職員室、寄って来ればよかったね」
「取って来るよ」
「寒いところに、一人で待ってろって? あたしも行く」

 本当に寒いの、と訊きそうになったけれどやめておく。しかし、寒いならもう少し厚着をすればいいのにとは、思う。
 アルミサッシの窓に手をかけ、すりガラス越しに見える鍵の様子を窺いながら、揺すってみた。徐々に動いた鍵は、やがて、完全に外れた。
 アルミサッシの窓は、こうやって開けることもできる。多分、推理小説か漫画で得た知識だ。

「開いたよ」
「お見事。どこで覚えたの、お嬢様が」
「だって部室の鍵、取りに行くの面倒なんだもん。かばんよろしくね」
「はいはい」

 呆れたように笑う茜さんに笑顔を返して、早速走るために足を踏み込む。職員室があるのは渡り廊下で繋がった隣の校舎の二階で、走ればすぐだ。
 もっとも、走る必要はない。
 鍵はないとはいえ、教室の前後にある扉のうち後方は内側から開くのだから、急ぐこともない。だけど、走ること自体が楽しいのだからそれはそれで十分な理由だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...