夜明けの晩

来条恵夢

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そうして、事態は進む

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「お茶の用意と出迎え、どっちがいい?」
「行ってくる」

 一瞬たりとも迷わず、直接の返事ではなく玄関へと向かうことで回答したヒビキを見送り、出てきたばかりの厨房へと身をひるがえした。
 厨房には勝手口もあるけど、さすがにまだ調理中で、再び紅林クレバヤシさんと顔を合わせることになる。わかっていたことだ。動揺はしない。
 食パンの耳を切り落としていた手を止めて、紅林さんが顔を上げる。

「どうした?」
「お客さん。お茶の用意していい?」
「どうぞどうぞ。卵、でるより早いから卵焼きにしたけど、よかったか?」
「わあ、おいしそう」

 湯気を立てる卵焼きとみずみずしいレタス、輪切りトマト、スライスチーズにハムが並べられている。焼きたての卵焼きについ歓声を上げると、紅林さんの頬がゆるんだ。
 夜食にしてはカロリーが高そうだけれど、私も響も、あまり気にはしない。食べ過ぎても太らないようなので、遠慮しないことにしている。紅子ベニコだった時には、食べることを楽しむ余裕はなかった。

「耳はどうするの?」

 定位置からアルミの薬缶を出して水を入れ、弾んだままの声で問いかける。紅林さんも、どこか嬉しそうに胸を張った。

「軽く焼いて、海苔と明太子とチーズに醤油らしたやつと、ツナとパセリと七味をえたやつとでディップを作る」
「おいしそう」
「ああ、期待してくれていいで。出来たら持って行こか?」
「うーん、お茶の用意してる間に出来上がらないかな。無理?」
「いっちょやってみよか」

 気軽に応えて、作業を再開する。
 一旦客間に行こうかと思っていたけど、椅子に腰を落とし、紅林さんの鮮やかな手さばきに見入る。薄いパンに具を挟み、食べやすいように切り分けるというだけの単純作業なのに、一切の迷いのない動きに、魔術師が連想される。
 サンドウィッチを作り終えると、並べた皿の上にクッキングペーパーを載せて軽く押さえ、ディップ作りに取り掛かる。明太子の皮をいてばらし、クリームチーズに混ぜて塩なのか調味料を振りかける。
 それらをぼうっと見ているうちに湯の沸騰する気配がして、慌ててカップや受け皿、砂糖やミルクピッチャーを用意する。
 紅茶はティーパックではなく葉から、コーヒーは豆から、というのは、私のこだわりというよりも響のこだわりだ。豆の扱い方がよくわからないため、私がれるのはもっぱら紅茶だ。
 葉に合った美味しいものが淹れられる自信はないけれど、一応、手間は惜しまない。沸いた湯でポットやカップを温め、ミルクは手を抜いてレンジで加熱し、ポットカバーも用意する。
 手際は響や紅林さんには到底かなわないけれど、それでも大分ましになってきた。

「すぐに食べるか?」
「うん」

 確認してからトースターに切り落としたパンの耳を入れ、焼き上げている間に皿を出し、ディップの小鉢と盛りつけた一口大のサンドウィッチを銀盆に並べていく。
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