残酷世界でバカやろう 【ダーク・ファンタジー】

芳乃 美葉子

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第1話 約束と呪いと

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3年前

「ハガルー? どこにいるのハガルー?」

沢山の花が咲いた庭を少女が金色の髪をなびかせて駆けている。

そこに1人の鎧を着た男が、可愛らしい青いリボンを付けた黒い熊のぬいぐるみを両手で優しく持ちながら近づいてきた。

「姫様、ハガル様を見つけました。」

「あっ、!ありがとうローイ! 
ハガルを見つけてくれたのね。 どこにもいなくて困っていたの。」

「私の名前はロイです。」

「でも、伸ばした方がかわいいよ。
私の前ではあなたはローイなの!」

ハガルは亡くなった王妃が最後にプレゼントした熊のぬいぐるみである。

姫はそのぬいぐるみにハガルと名を付けて肌身離さず持ち歩いていた。


ロイは機械のような無機質な声で答える。
「ハガル様が道で迷子になっておらしたので確保させていただきました。

それでは。」

「待って!」
そう言うと少女はロイの前を塞ぎ、顔を自分の顔の高さまで下げるように命令する。

「そんなに無表情だと幸せが逃げちゃうよ。
もっと笑ってー。」
とロイの口に指で広げて無理矢理笑顔にさせようとするのだ。

ロイもそれに抵抗はしないが、表情は硬く一向に笑顔にならない。

「あなたはうちの国の兵隊さんの中で1番強いんだから笑顔じゃなきゃダメよ。 だから皆んなにも怖がられて困ってんだから。」

「わかりました、姫様を困らせないように兵士達にもよく言っておきます。」

「そうじゃなーい!」

何気ない平和な日々。

それも長くは続かなかった。


程なくしてロイがいるアリエント国は隣国と資源を奪い合う戦争が起きる。

アリエント国の兵力はあまり多いとはいえないが戦いは拮抗していた。

その中の理由はアリエント国は6カ国の連合国に所属しており様々な国から協力を受けていた事と、ロイの存在があった。

ロイは元々は盗賊が拾い育てた子供だった。

10歳の時に育ての父親が捕まって処罰されそうな際、単独で国に乗り込んで50人以上の兵士を病院送りにしたのだ。

それから父親と仲間の解放を条件に兵士になり、その力を発揮した。

やがて、父親達もアリエント国の兵士として引き抜かれてかは正規の騎士として所属する。

王に認められ、軍の隊長となった頃にはロイは一騎当千の戦士となっていた。

小さな戦争をその力ひとつで収めてきたロイの活躍にアリエント国の全国民が期待していた。

しかし、隣国との戦争から1ヶ月経った頃に悪い知らせが入る。
(アリエント国に敵国の兵士が進軍していると。)

王はロイに命令した。

「ロイ! 今すぐにアリエントに戻り国民を、我が娘を救ってやってくれ!」


王に前線を任せて急いで国に戻るロイ。

だが、遅かったのだ。

目の前には自分の暮らしていた国が至る所から大きな炎を吐き出している景色が見えた。

ロイに絶望が走り抜ける。

姫様は!?

守るべきはずだった国民の亡骸の上を走り抜け、多くの敵国の兵士を斬り伏せながら姫のいる城までたどり着く。

「姫様っ‼︎」

花が咲く庭で小さく隠れていたぬいぐるみを見つけたロイはすぐに抱き抱えた。

「アリエント国はもうダメです。
国民も助けることができませんでした。
急いで王の元へ行きましょう。」

その手には温かい泥が体中を這うような気持ち悪い温もり。

血だ。

姫の身体からはべっとりと温かい血が流れ出ているのだ。

「ッ、⁉︎」

残酷なことに姫だと気がついたのは手にしていた熊のぬいぐるみのおかげだ。

それがなければ顔を確認しても姫だと気づきはしなかっただろう。

「ローイ? ローイなの?」
弱々しくも喋るソレは姫の声だ。

ロイの顔をその手でペタペタと触り
「そんなに無表情だと幸せが逃げちゃうよ。
最後に私の前で笑って見せて。」
と言った。

「わかりました。」

目で見えなくとも手で触って確かめる。
頬は上がり目は柔らかい。

「こんなに素敵な笑顔なんだから、世界中の皆んなにも見せたあげて。

私はこれからローイの笑顔を見た事がない人に自慢するの、世界一強い無表情の私の騎士の笑顔を見たんだぞって。

笑顔が素敵な人はジョークも上手いのよ。

物語に出てくるような怖い怪物にだって笑いながら。

これ以上悪さをするとステーキにしちゃうわよって。

それでね
・・・・それでね・・・・・それでね・・・・・・・・。」



気がつくと雨がふり、周りの全ての景色が灰色に染まっている。

ロイは腰に黒い熊のぬいぐるみをぶら下げると、王の元へ向かう。

ロイが前線に帰る頃には全てが終わっており、何故か戦争に協力していた国の兵士に捕まる。

「私は味方です。
何故私が捕まるのですか!?」

アリエント国と協力関係であったユラビナ国の王が兵士の中から現れる。

「アリエント国の王は貴様が逃げている間に殺されたぞ。

その力を持ちながら敵前逃亡とは貴様が殺したも同じだ!

その罪は重い! 我が国の法律に乗っ取り処刑してくれよう。」

ロイはユラビナ国に連れて行かれたロイは鎧に武器を奪われ、守りきったぬいぐるみだけをその手に残して牢獄に閉じ込められた。

「汚ったないその熊がそんなに大事かよ。」
「無敵と言われた騎士も武器を取られたらただの人だな。」

牢獄では見張りにありもしない言葉をかけられ、ストレスのはけ口にされていた。

「それにしてもアリエント国を裏切るとか、うちの王様も酷いよな。
ま、この国は豊かだからついていくけど。」

ロイは牢屋をガシャンと鳴らし、大声をあげた。

「なんだと貴様!? 
本当の話しか!?」

「あ~びっくりした。
そんなことも知らないのか?」

「おい、それは内緒の。」

「いいんだよ、こいつはもう何もできない。処刑の日まで生きてるだけの屍だ。

いいか、? よく聞け、お前が自国に向かってる間にアリエント国の王は後ろから信頼してた味方に刺されたんだよ。」

「自国? まさかアリエント国に火を放ったのも⁉︎」

「うちの国だよ、頭悪いな~。 はっはっはっはっ!」

ロイはその言葉を聞いた後、静かに牢屋の中の闇に消えてった。

「言葉も出ないか、腰抜けがっ‼︎」

牢屋の外からは人を馬鹿にする高笑いが聴こえていた。


その夜、ロイの牢屋から大きないびき声が響き渡る。

その音で監視中の居眠りを邪魔された看守が怒りながらロイの牢屋を棒でガンガンと叩き怒鳴りあげる。

「おい、うるせぇぞ! てめぇはずっと起きてろ。」

牢屋の奥は暗く何も見えない。

それでもいびきは止まらず看守が暗闇を覗こうと顔を近づけた瞬間に大きな石が顔面にめがけて暗闇から飛んできた。

「グギャァ⁉︎」

石が顔に直撃した看守はその場に倒れて気絶した。

ロイは暗闇からぬぅっと現れ、音もなく看守から鍵を取り牢屋を開けた。

「鍵を持って牢屋に近づくとは不用心だな。」

ロイは看守を牢屋の奥に隠すと鍵を閉めてユラビナ国の王の元に向かう。

看守から奪った剣を片手に監獄の出口を探していると、ぽつんと椅子に縛りつけられている少女を見つける。

「姫様?」
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